地域おこし協力隊をブラックにしがちな「3つの関係性」と「スタート地点」の話

「地域おこし協力隊はなぜブラックになりがちなのか?」協力隊を取り巻く「3つの関係性」を軸に話を展開します。きっと協力隊はやばい…と感じると思いますが、スタート地点を明確にすることで、そこから前を向けるようにすることを目指した記事です

地域おこし協力隊はなぜブラックと言われてしまうのか?

地域おこし協力隊として地域に入った後、「思ったのと違う感」、なんだか「こき使われる感」、やっていることの意味が感じられない「徒労感」、どこにも「逃げられない感」、誰も助けてくれない「孤独感」、そして「使い捨て感」、多かれ少なかれこういった感覚を覚える協力隊は多いと思います。

これらの感覚は一気にやってくるわけではありません。少しずつじわじわと忍び寄ってきます。これらの感覚が全部同時にやってくれば「ブラックだ!」と叫びたくなると思います。

一応断っておきますと、私はこれまでたくさんの協力隊と対話をしてきましたが、「完全にもう嫌だ」となってしまっている人には会ったことはありません。そうなってしまった人はもう私のような人と対話したい気持ちもないと思いますし、そもそもその前の段階でも相談できる機会もなかっただろうと思います。

ただそこまでではありませんが、私が出会った協力隊の皆さんも、上で述べたようなブラック感を少なからず持っているだろなと感じていました。そういう事例は枚挙にいとまがありません。

そして私は、ブラック感を引き起こしがちな「構造」が地域おこし協力隊にあると思っています。

いったいどのような構造か?その構造は地域おこし協力隊をとりまく「3つの関係性」をひもとくことで見えてきます。「3つの関係性」とは具体的には下記の3つです。

  1. 協力隊とミッションとの関係性

  2. 協力隊と行政との関係性

  3. 協力隊と地域との関係性

ひとつずつ順を追って説明します。

協力隊とミッションの関係性

何の説明もなしに「ミッション」と書きましたが、要は協力隊として「やるべきこと。求められていること」です。各自治体が「こういうことをやって欲しい」とお題を出し、「それをやってみよう」と思った人が協力隊として応募します。ですので、協力隊として地域に入るときに「自分はアレをやればいいんだな」と思いながら地域に入ります。その「アレ」にあたるものがミッションです。

例えば、ミッション型協力隊によくあるお題のひとつが「地域の特産品や魅力をPRして欲しい」です。

どうでしょう。なんだかできそうな気がしますか?私の考えでは基本的にこのお題はそんなにうまくいかないはずです。それはなぜか?

その特産品にもともと魅力があり十分PRされているのであれば、すでにしっかり売れていると思います。そうなっていないということは「そこまで魅力や競争力がない」のだと思います。それをSNSでPRしたくらいでうまくいくのでしょうか?SNSで更新するネタはいつまで続くのでしょうか?

「よし!イベントやろう」なんて話にもなると思いますが、それはちゃんと集客できるのでしょうかか?誰か協力してくれるあてはあるのでしょうか?これをやるために来たんだと必死の思いでなんとか開催してみたとして、一回のイベントや何かですぐに成果が出るのでしょうか?

?マークが並びましたが、疑問しかありません。というか、やる前から「そんなに簡単にいかないよな」の予感がプンプンします。これはこのミッション特有のものでしょうか?そんなことはありません、私にはほとんどのミッションが「うまくいくための道筋が見えない」ように見えます。

無理ゲーとまでは言いませんが、ハードモードだなと思います。そして、そのうまくいかない高難度ミッションをひとり背負わされたなら「どうしていいかわからない」と、徒労感と孤独感を感じるのも仕方ないと思います。

協力隊と行政の関係性

協力隊のミッションが高難度の無理ゲーになりがちと書きましたが、そのミッションを設定するのは誰でしょうか?基本的には受け入れる地域の行政(役場)になります。行政から委託を請けた組織(例えば観光協会とか)の場合もあるかもしれません。

では、その行政職員や組織の人は「そのミッションを達成するための知識や経験」を持っているのでしょうか?地域が必要とするミッションは最終的には「地域にお金を生み出すこと」が目的と考えてください。その目的を達成するために多くの人を呼んだり、モノやサービスを売る必要があります。

これを達成するには、ビジネスの現場でよく言われる「PDCAサイクル」を回していくことになるのですが、そういった「ビジネス感覚」は多くの場合、行政にはありません。行政はビジネスを担う民間とは立場も違いますし役割も違います。当然持っているノウハウも価値観も異なります。

そもそもの基本的な知識や技術がないこともあると思います。SNSでPRして欲しいとミッションは設定されているのに、SNSで全く発信したことのない人が担当なんていう事例は全国にあると思います。

その状態であなたの担当者は「相談に乗ってくれるか?」「適切な評価をしてもらえるのか?」というと、どうでしょうか?それはなかなか難しい気がします。

そしてその人たちこそが、あなたが入ったその地域の入り口にいる水先案内人です。地域で最初に頼りにすべき、というか最初の時点で唯一頼りにできる存在です。その人が「自分の仕事ぶりをわかってくれない(評価する能力がない)…」とするならば。

「誰もわかってくれない」そんな風に感じてもおかしくはありません。

もし、とてもラッキーなことにあなたを担当する職員が知識も経験も豊富だったとしましょう。そんなビジネス感覚のある行政職員はきっと役場組織の中でも頼りにされていてとても忙しいに違いありません。結果的に「なかなか見てもらえない」ことになると思います。

しかも、その優秀な職員は「部署移動」をしてしまう可能性もあります。次に担当になった職員はあなたのミッションのことを「何もわからない」可能性もあります。そこには決して悪意はありません。むしろなんとかしてあげたいと思っているはずですが、その人の知識や経験がマッチしてなくてどうにもしてあげられないだけです。

協力隊と地域の関係

ミッションを達成すべく受入れ組織の人と話をしても、具体的に何をどうしていくべきか?を一緒に考えてもらうのは難しそうです。

でも、あなたはまだまだこの地域に来たばかりです。

町の人に会ってみよう。きっと何かヒントがあるはずだ。そうやって「初めまして」と声をかけてみる。もちろん話は聞いてくれる。だけど、「そうか。そういうことをやろうとしているのね」とそれ以上でもそれ以外でもない返事、きっとあなたの求めているリアクションではありません。

でも、そういう反応になるのは仕方ありません。町のその人にはその人のやるべきことがあります。よそから来た赤の他人のあなたの心配をしている暇はありませんし、その義理もありません。

「せっかく来たのに誰も受け入れてくれない」そんな疎外感を感じてしまうかもしれません。その気持ちは「せっかく来てあげたのに」と恩着せがましい響きを帯び、「せっかく来たのに(意味がない…)」と被害者の色合いを強めていきます。

そして「地域の人は本当にこのミッションを必要としているの?」と思い始めます。それはすなわち「この地域に自分は必要なのか?」との問いであり、自らの存在意義が危うくなる問いです。

「3つの関係性」の連環構造

協力隊をとりまく、ミッション、行政、地域。それぞれとの関係性は連環しつながっています

ミッションを進めたいけど、一緒に考えてくれる人はいなくて、それを町の人に話していたら、役場の人から「〇〇さんのところで愚痴こぼしたの?」なんて聞かれたりするかもしれません。

与えられた高難度のミッションに立ち向かおうとさまざまな提案をしてみるものの、行政の人はあなたの提案を理解する力(リテラシー)が足りない。地域の人もあなたが背負っているミッションそのものには興味はありません。そんなミッションが無くてもこれまでやってこれていますし、自分のことで忙しいからです。

自分は「このミッションをなんとかしたい」そう思ってがんばっているのに、ひとつの関係性の歯車がかみ合わないと、他の関係性もかみ合わなくなる。小さなほころびはいずれ大きなゆがみとなる。がんばればがんばるほど。もがけばもがくほど。

完全にうまくいかなくなるまでの時間は人や入る地域によって違うでしょう。でも、ミッション自体が難しく、それを一緒に考えてもらえなくて、地域の人も応援はしてくれるかもしれないけど、具体的に一緒に動いてくれるわけではない。ミッション、行政、地域にはそういう連環があります。

では、どうするのか?

どうでしょう?この記事を読んで、地域おこし協力隊に対して「これはいいぞ!」と思うか「これはなかなかブラックだぞ…」と思うか。前者なら相当の勇者か、もしくは私の文章力が足りていません。多くの場合は(私に文章力があるなら)後者だと思います。

でも、安心してください。決して「協力隊=うまくいかない」ではありません。それは断言できます。そもそも「この記事を読むだけでも」あなたが地域でうまくいくきっかけになります。

もう一度、読んでみてください。この話には根本的な思い込みがあります。

それは「ミッションのことをみんなが理解している」「地域にこのミッションが求められている」です。

そんなことはそもそもないんです。ミッションに設定されているのは「あったらいいな、そうなったらいいな」レベルの願望ですし、「具体的にはどうやっていいかわからないから、あなたに来てやって欲しい」わけです。

あなたは地域に求める立場ではなく、地域があなたに「良い成果を出すこと」を求めている、そういう関係だと思ってください。立ち位置をしっかりと理解してから地域に入りましょう。それだけで「3の関係性」から受け取る感覚が変わります。

結局のところ「話が違う」と感じるのは「期待値とのずれ」です。期待値が高すぎる、というか思い込みが過ぎると思います。簡単に考えすぎなんだと思います。

大切なのは多くのミッションは「ふわっと提示されているだけ」だと理解し、自分でミッションを解きほぐし、達成すべき成果をしっかりと具体的に設定すること。そして、その成果を達成するまでの道筋を自らがイメージできるかどうかです。

その地域の協力隊がブラックかどうか?を調べている場合ではありません。「何をどのように求められているか」を見極め、「自分で仲間を集めつつ(地域の理解を得つつ)進めていく力があるか」を見積もることです。

そしてあなたにそれを「やってやろう」という気持ちがあるかどうかです。そこがスタート地点です。

スタート地点を間違えないように。

そのスタート地点に立ったとして、地域の中でしっかり成果をだしていくために必要なこと。その詳しい話は別の記事に譲ろうと思います。最後まで読んでくれてありがとうございました。

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