視覚障害児の可能性を大きく広げる「科学へジャンプ・サマーキャンプ2023」レポート
視覚障害者のかたたちと仕事をはじめて、驚いたことがあります。
スタッフのうち、鍼灸師・あん摩マッサージ指圧師(あはき師)さんと兼業の方がすごく多かったことです。だいたい3人に1人くらいでしょうか。
厚労省の調査によると視覚障害者の就職先として60%があはき師さんになるとのことなので、実際の割合よりは少ないのかもしれませんが、それでもあまり健全な状況ではないように思います。
ほんとうに視覚障害者のかたには職業選択の道が開けているのでしょうか。
理数系への興味を喚起する「科学へジャンプ」
「科学へジャンプ・サマーキャンプ」は全国から視覚障害のある中高生が集まる科学教育系のイベントです。このサマーキャンプでは、全国の中学生と高校生が集まり、2泊3日で、さまざまな科学のワークショップを体験しました。
2023年は7月15日〜17日で開催され、和久井はそのうち16日に見学させていただきました。
これがものすごく面白くて、大人の和久井が科学にジャンプしてしまいました。
なぜSuicaはタッチするだけで精算ができる?
中でも興味深かったのは、Suicaの仕組みについて。
SuicaやICOCAなどの交通系電子マネー、便利ですがよく考えてみると不思議です。
なんでピってするだけでモノが買えたり改札を通れたりするのでしょうか。
ICOCAの手前に写っている小さい正方形のチップが、カードの中に入っているそうです。
A4の紙にモノクロでプリントアウトされているのが、拡大された電子回路です。
このプリントはエンボスになっていてフカフカと盛り上がり、触って印刷部分を確認できます。
こういう「触って分かる絵」を「触図」というそうです。
この日の前日、別のワークショップで、ぐるぐるコイルに磁石を近づけると電流が生まれる実験をしたそうです。
そういえば、学校でそんなことを習ったような……。
さて交通系カードの話に戻ります。
このカードの中に、写真のようなチップが入っているのですが、このチップの周囲をグルグル回っているのがコイルの役目をしているアンテナなのだとか。
これに磁石を近づけると電流が生まれて、中央にあるメモリに情報が記録されるのだそうです。
つまり、改札口やレジには磁石があって、それに近づけた瞬間だけ、このカードは小さなコンピュータになるのだとか。
ユニクロの無人レジにも同じ技術が採用
同じ仕組みが、ユニクロの無人レジにも使用されています。
ユニクロの無人レジは、商品を入れるくぼみに買いたい商品をドサッと入れると、勝手になんの商品が何点なのかを計算して、レジのタッチパネルに表示してくれます。
個別に商品をピッピしなくていいんです。
なんと不思議なシステムだなあと思っていたのですが、これも、交通系カードと同じ仕組みとのこと。
商品についているタグ(バーコードや金額が書いてある紙です)にアンテナとICチップが入っていて、レジのくぼみに入れたときだけ電流が流れ、タグに書かれた情報がレジに読み込まれるのだそうです。
……ハイテク!
ただこの無人レジ、基本の操作がタッチパネルなので、ブラインドライターズのスタッフで利用したことのある人はいませんでした。「有人レジに連れて行かれちゃうので」だそう。
食堂やお寿司屋さんでも、お皿を台の上に載せたり、リモコンでピってするだけで金額が出るところがあります。たぶん、これもお皿にチップが入っている、同じ技術が使われているのでしょう。
将来なりたいものを考える、最高の出会い
交通系カード以外にも、靴に着けた装置が目的地までをナビしてくれる「あしらせ」の紹介や、AIで絵を描いてみたりと、さまざまな技術に触れていました。
そして午後はJAXAを見学。実際に管制室を見学したり、点字を触ったりして、宇宙開発への取り組みを学びました。
JAXAのかたがたが働く姿がほんとかっこよくて、宇宙開発に携わりたい! て気になりました。
システムエンジニアの需要は年々高まっているといいます。プログラミングのスキルがあったら、就職先の可能性は飛躍的に広がりそうです。
会場には、大学生や社会人の先輩たちもサポートに来ていて、後輩たちに「盲学校を出たあとの社会」について話していました。
人生の先輩たちの体験談ほどいい教科書はありませんよね。
参加者の中高生にとって、これほど有意義な講座はないんじゃないかと思いました。
より多くの選択肢の中から自分の人生を選んでほしい。
それが可能な社会を作っていきたいですね。
運営されている先生方、お疲れさまでした!
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