チムニーと女の子.35     隣の男の子とママンのピアノ.....



......

褐色のお屋根に 並ぶ三本のチムニーと...

古いチムニー 
背高のチムニー
...
今日はどのチムニーかしら...?



……小宇宙の中の パズルを 
   一つ一つ、ゆっくりと、確かめながら 埋めていく...... 


** ( 完成まで...  あと、いくつ....? )





女の子は ブックストアの帰りに 立ち寄ったあの丘で、

しばし 星を眺めていた。

風が冷たくなり  しばらくして帰ろうとした その時 ノラ猫たちの喧嘩の場面に遭遇し、とっさに、バッグの中にあった クロワッサンのカケラを
野良猫に、 厳つい野良猫に 差し出して....。

丘の上には 残った小さな 猫が一匹....。

そして 女の子と。


****



隣のお家の男の子....


すっかり、男の子は ママンに向かって 

笑うことがなくなっていました。


少しだけ 口角を上げるのですが、以前より口数も少なくなって...


( ママンには 見えない... )

( ママンには、わかってもらえないんだ...  )


そう、あの日から 男の子は いつも窓の向こう側ばかり 眺めていました。

風になびく 草木の 動きを...   光と影の 長さを  確かめて......。


そして夜が来ると、亜麻色のピローケースの中に その白い手を ごそごそ と 

ガラスボトルを、

時のガラス瓶、

星の砂の...... 時のガラス瓶を......。


そして 安心すると ゆっくり 瞼を 閉じて 

眠りの世界へ ...... 




その家からは、

ピアノの音も すっかり 聞こえなくなっていました。


ママンは 男の子が 以前のように笑顔を

見せてくれるまでは、ピアノを弾かないようにしようと...


( どうしたら あの子は また 笑ってくれるのかしら? )

( 前みたいに...  無邪気に... )


ママンは 夜が来ると そっと、 眠る前にベッドサイドの ナイトテーブルから

真鍮の小さな箱の蓋を開き....   暫くの間 目を閉じて.... 

ゆっくりした その音色に 聴き入るのでした。


そして ...  パタンと 蓋を閉じて...

また 朝が 来るのを 待って......



街のはずれ にある ママンと男の子のお家

ママンは 街の広場へと 行きたかったのですが、なかなか

足を運ぶ事は ありませんでした。

留守にすると 男の子が ひとりぼっちになるのが 心配だったのです。


男の子は 大丈夫だよと 言ってくれましたが、やはり 出掛けることは

なかなか できませんでした。


必要なものは いつも馴染みのおじいさんが トラックで 運んでくれていました。


コンコン コンコン 

knock     knock


ライオンが咥えた丸い鉄が 動き.... knock knock  ....  .... 

エントランスのノッカーを 叩く音が 聞こえてきます。

( 誰かしら?今日は おじいさんのトラックがくる日ではないはず。 )


男の子が眠りについたばかりなので、起こさないようにと、

ママンは 、真っ直ぐに 続く廊下を急いで エントランスへ、 

珍しい客人は誰かと確かめに...。


ドアを開くと すこし冷たい風が 入ってきました。

そこには 小さな女の子が一人。

( 見かけたことが あるわね。) 

そう、お隣の女の子です。


「 何か 御用かしら? 」


しっかり 顔を合わせて お話するのは 初めてかもしれません。

女の子は お隣のマダムのことが 実のところ 得意ではありませんでした。

あの、木曜日に 庭先で 顔を合わせた時も とても無表情で、

普段も ろくに挨拶もしたこともなく

あの日も そう、

いきなり大きな声で 怒られたように感じたからです。




****


男の子の部屋のドア...

ママンは、ドアの陰で ドアノブを ゆっくり 回して.... 


窓の向こう側には 水色の空を 列を成して 羽ばたく

ぬれ羽色の鳥が  7羽

ギフト.....



青い空海に  小さな黒たち との コントラスト



男の子の枕元に そっと  本を..

女の子が 持ってきてくれた 小さな 花束と一緒に....


起こさないように 音を立てないように 

また 静かに  ドアノブを 回して....

部屋を出た ママン。



****




ページを捲るたびに 男の子の口角は 少しづつ 上がって....

だんだんと....

そして いつもの 笑顔に。


ううん、いつも以上に とびっきりの 笑顔に ......


「  ママン、ママン ・・・・アリガトヲ  」


小さな声で そっと 呟き....   目を閉じ....


本を その分厚く あたたかい本を 

優しく 抱きしめて....

もう一度....


「 ママン、ママン、....  アリガトヲ ......   」

( 空の神様、ありがとう......  )




顔のくぼみから

そっと 、雫が.... 水色の雫が 

男の子の 右の頬を 伝って、

・・・・





ママン は ゆっくりと 右手で 真鍮の箱の 蓋を 閉じました......。





水の空に、白い雲

ふわふわのオーガニックcotonの雲間から

こぼれ落ちる 太陽の光は、まるで......。


晴れだのに 雨が フル

雨だのに 光溢るる・・・・


あの日 の 声が


  **  日本 の ある地域では

     狐の嫁入りと 言うのですよ **

 


誰かが そっと  さゝやく 




鳥たち の   notis 

風が 新しい朝を 



男の子の 瞳には 綺羅星が 宿り..

ママンは 自分の部屋のゴブラン織りのカーテンを 開け.... 

白と黒の並びが 跳ねて 

・・・・・・




「 ウフフ ..   フフフ .... 」


「 聴こえて きた わ ......   」



こらこら、そんなに慌てなくっても、

ゆっくり ミルクを 

どうぞ....


( そうね〜、あなたのお名前 は 〜 !! )


「 やっぱり!! kiki かしらね !! 」

「 ううん!! 嬉々 だわ !!」




( 私ね、日本語、勉強中なの.. 憧れるわ...... 大和の国 。

  だって、私と同じ黒髪の国だものね。 )






つづく....








ご覧になって下さりありがとうございます。今後とも どうぞよろしくお願いいたします。