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短編小説 林檎は錆びて

先日、小説書きの仲間とスタバでお茶をしまして。
ワッフルとドーナツを半分こしたんですけど。因みに志賀はスタバのワッフルが死ぬほど好きなんですけど。ま、どうでもいいことなんですけど。

その時にお互いの小説の話をしていて。
僕は基本的に明るい物語、幸せな物語しか書かないという話になったんです。
彼はもちろん僕のそういう話も好きだと言ってくれたんですが、僕の暗い話も読んでみたいと言ってくれて。ていうか、こんな丁寧じゃなくて、むしろ口説くかのように熱心に「書いて!」って言われまして。
書いてくれたら何でも奢るよって言ってもらって、僕もそこそこがめついので「え、マジですか?!」ってなって書いてみることにしました。焼肉かなんかを奢ってもらおうと思います。ええ。

大学に行くまでの間の一時間に思いついて、電車でほとんど書き上げ、その日の数時間の間に書き起こした小説です。真っ黒です。狂ってます。
もしよろしければ、こんな僕の物語も楽しんでみて下さい。

あ、怖いのヤダってブラウザバックしようとしないで。ちょっと待って。
楽しい物語はちゃんとあるので、以下からご覧ください。

さて、本題の怖い話はここから。
物語の始まりです。

林檎は錆びて

かつて暮らしていた、大嫌いな狭い世界、その土地の名前が綴られた伝票の貼られた段ボール。その中にある中途半端に赤い未熟な林檎、たくさん。本当に熟してもいない癖に、自分だけはその気になっているような見た目。見るからにちっとも甘くない。外見も中身も中途半端、自覚なしなのがタチが悪い。その癖、一人では持て余すくらいの量だから、食えとばかりに匂いばかりはひどく甘い。主張が異常に強いのだ。気持ち悪くてしょうがないけれど、片付けられる時間もなければ、余裕もない。

今、僕の部屋はぐちゃぐちゃだ。混沌ではない、これは不快と不潔の象徴だ。

林檎の甘い匂いと部屋の中で香る消臭剤の匂いが混じって気持ち悪い。他の匂いも何かする。これは昨日の惣菜の匂いか。そうか、あれ、食べかけだっけ。脂肪が多くて、気持ち悪かった。ああ、もう捨てよう、そうしよう。

アイロンのかけていないYシャツを手にとって、しわを誤魔化すために上からセーターを着る。鏡の中の自分は「普通」の人間に見えて、安心して苛立ってしまう。こんなにいかれているっていうのに、どうして平然と生きているように見えるのだろう。心が、頭がいかれたなら、見た目でもそうはっきりわかるようにしてくれていたらいいのに。どうしてまともに見えるのかなあ。まともに見えなければ、幾分か同情も引けるっていうのに、残念だ。

皆と同じように見えるスーツは楽でいて、きっと苦しい。同じなのだ。どれだけ苦しくて悩んでいても、それはきっと皆と同じ。多少、ネクタイの色が違っても、皆同じだから頑張れ、世界にはもっと苦しい人がいる。で、話はお終いだ。結局どうでもいいのだ。皆自分の事で精一杯。自分の大切な人のネクタイの色を見て、その色を気づきあうのに精一杯。僕のような人間にまでわざわざ目を留めようなんて奴はいない。


あの子は僕の知らない間にあの男に犯されていた。彼女より少しばかり年上で、僕と同じ年の、あいつに。そりゃ、イケメンだとは思うけど、そんなにいいかよ、あんな奴。ていうか、そんなに簡単に股を開くなんて、君、そんなにビッチだったんだ。じゃあ、僕でも良くない?良くないのかよ、どうなんだよ。


 あの子もあいつもいる会社はひどくつまらない。つまらない、っていうか、がらくただと思う。なんで僕はあいつらにへらへら笑っているのだろう、俺を傷つけた癖に楽しそうに笑うあいつらに気を遣っているんだろう。馬鹿らしい。馬鹿臭い。そんなことを思っているくせに会社を休むだとか、やめるなんてことはしない。その根性無しな自分も大嫌いで、笑ってしまう。そうだ、今日も始まるのだ。色褪せた、酷くどうでもいい、そんな時間が。


 手を動かしながら、頭では別のことを考える。頭なんか使うもんじゃない。会社のためになんて使ってたまるか、使いたくもない。


 林檎はほんの昔、食べてはいけなかったらしい。そん時は「知恵の実」とか、呼ばれていたらしい。僕等の先祖、アダムとイヴってやつが食べちゃって、今に至るらしい。そいつらのせいで、僕等は働かなくちゃいけなくなったらしい。はあ、なんですか、それ。たまったもんじゃないな。ふざけてんな。狂ってんだろ。

 てか、神様喰っちゃだめなら、初めから植えとくんじゃねえよ。そこにあったら食べちゃうじゃん。その気になっちゃうじゃん。それ、そんなに悪い事かよ、自己防衛してなかったのはどっちだよ。誠実にいられるような立ち振る舞いをさせなかったの、あんただろ、神様。


 色褪せた世界で、とんと肩が叩かれた。後ろにはあの子が立っている。かわいいね。今日も綺麗ですね。そんな言葉は軽々しく口に出せない、出さない。僕はあんな男とは違う。かわいい、かわいいあの子が僕に笑いかけた。あの子のところだけ、世界に色がつく。白い肌の色、少し茶色がかった長い髪。髪をかけた少し桃色に染まった耳。あ、エロい。


目線を下にした僕は気づく。

その首に、赤。やけどみたいな、それ。


…ああ、あいつのシルシか。


 やる事やってんだな、最低かよ。

 お前も結局尻軽なのかよ。

 綺麗な顔の下は結局獣かよ、ああ、気持ち悪いんだよ。


 腐ってんな、気持ちわりい。


あ、あ、あああ、くそ、クソだな、こんな世界。


あ゛?


なあ、ふざけんなよ、ふざけんな。


見せつけてんじゃねえよ、このビッチ。僕にもやらせろよ。


ああ、むかつく。ふざけんな。馬鹿々々しい。クソみたいな世界だ。


つまんねえ。

皆、ゴミ屑なんだよ、今すぐ無くなれよ、ふざけんな。


死んでろよ、この世の全て。

全ての人間、今すぐ地獄に落ちろ。カップルは絶対離れ離れな。

マジで今すぐ死んじまえ。




 なあ、神様。お偉い、神様。

知恵の実、一つ寄こせよ。もう何も失うものなんてねえんだからさ。




 神様がくれた林檎。

 林檎に力を込める。

 林檎の甘い匂い。

 力を入れれば、入れる程、香ってくる。


 ああ、気持ち悪い。ああ、美味そう。


 林檎が潰れた。

 僕の手の中で林檎が潰れる。

 汁が零れる。

 生温い、生温かい。


 気持ちいい。


 何かの悲鳴。

 何の声だよ、五月蠅いな。

 五月蠅い。五月蠅い。

 五月蠅いんだよ。


林檎は錆びて、錆びて。

林檎は錆びて。


皆皆、殺してく。

鮮やかな林檎、甘酸っぱい、魅惑の林檎。

青い青い、青春みたいな。実に麗しい恋みたいな。

ああ、大嫌い大嫌い。

気持ち悪いんだよ、後悔しろよ。

大嫌いだ、無くなればいい、潰れればいい。

こんな林檎いらねえ、だろ?


若く、青い林檎は錆びて、液を垂らして錆びていく。

あの子もあいつも同じ色。

面白くてたまらない。

林檎はどんどん錆びていく。

ホントは甘くもなければ、かといってまずくもない、そんな中途半端な林檎達が潰れてく。

腐ってる。

腐ってんだよ、林檎さん。


気付くと、周りには潰れ果てた醜い林檎が散乱していた。

丸くもなければ、赤くもない。

林檎はとっくに錆びている。




林檎は錆びた。

林檎は錆びた。

林檎は錆びて、錆びちゃった。

ああ、あの腐って錆びた色の死にかけ林檎、さっさとどっかに棄てなきゃな。

終わりに。

この物語はこれにておしまいです。
いかがでしたでしょうか。
因みにサムネ(?)画像はわざと平和で美味しそうな林檎の画像にしました。中身と同じで黒いのでは面白くないでしょう?笑

もしよろしければ気軽にご感想くださいませ。と言いつつ、noteでコメントするのって結構勇気入りますよね笑 僕もそうです。比較的気軽にコメントしようとは思っているのですが。
コメント頂けたら必ず返信いたしますので、もしよろしければ。

読んでくださってありがとうございました。

あなたに祝福あれ。


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