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鵼の碑 【ネタバレあり読書感想文】 再び京極堂に会えた幸せを噛み締めて

★★★★★
Amazonでレビューしたものです

【ノベルス版】
百鬼夜行シリーズ17年ぶりの新作長編がついに!
殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。
消えた三つの他殺体を追う刑事。
妖光に翻弄される学僧。
失踪者を追い求める探偵。
死者の声を聞くために訪れた女。
そして見え隠れする公安の影。
発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、
縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。
シリーズ最新作。


1.やっと会えたよ、京極堂


邪魅の雫から、17年目の京極堂シリーズの新作なんだそうです。

17年!

この17年の間私の人生も色々なことが起こりました。
婚活してうまくいかずに諦めて猫を飼いはじめ、引っ越しをして職場を変わってそちらもうまくいかず転々として、
私の父も祖母も亡くなりました。
東日本大震災もあって、先日の北陸の震災もありました。

京極夏彦氏の小説はどれも好きですが、京極堂シリーズは特別です。

振り返ること20ウン年前の大学時代。
初めて姑獲鳥の夏を読んだ時の衝撃は忘れません。
面白くて面白くて朝までページを捲る手が止められませんでした。

これと、森博嗣氏の全てがFになるは、私の人生に大きな影響を与えた2大小説です。

京極堂のようになりたいと思いつつ、なれないと思いつつ生きてきました。

生きて続編が読めてよかった。
本当によかった。

手にとって感じる、懐かしいこの厚さ!凶器の鈍器本!
残念ながらもう学生ではなく、一晩中読める身分ではないので、ちょっと読んではそれまでの話を忘れて戻り、また読んでという調子で、発売してすぐ購入したのに今までかかってしまいましたよ。

2.空っぽの鳥、山の終わり


シリーズ的には9作目。

個人的には、宴でひと段落して瑕からは2週目で、2週目の3作目かなと思っております。

夏にフラフラしていた関口くんが瑕を見つけ、
匣で木場があの女優に会い、雫で榎木津が昔の彼女に再会し、
夢の次に現れるのは、空の鳥に残された碑。

舞台は山。日光。
榎木津の兄の経営するホテルがあり、やってきた関口は、劇作家久住と知り合いますが、彼はホテルの従業員・登和子が蛇を恐れているのを気にかける。
御厨に婚約者の捜索を依頼された益田は、恐ろしい虎の尾を踏むのを恐れる。
木場は貍たちに担がれ消えた死体の調査に。
中禅寺たちに助力を頼んで、東照宮周囲で発見された書物の調査に当たる築山は、光る猨に。
亡くなった大叔父の遺品の整理にきた緑川は、鵺の声を聞く。

そこに潜むものは、、、?

概念の密室とは面白いですね。
密室の解体は山の終わりのようです。

3.お化けの墓、京極堂の寂しさ


私は京極堂=中禅寺秋彦が大好きです。
まあ、実際いたら付き合いやすいかどうかは、微妙かなと思いますが。

膨大な知識に、細かいところまで詳細に憶えている記憶力。人間への観察力に深い理解。これらを繋ぎまとめる推理力。現状を理解し決断し、作戦をたて割り振り解決する実行力。

一方で、倫理と法律を尊ぶ常識人であり、技術の進歩を近代化を変わりゆく世を受け入れる現代人でもあります。

彼は、論理的で理知的で、そしてとても公平で平等です。
その人の生まれや先祖や性別によって人を区別も差別もしません。

”僕の父は宣教師だよと中禅寺は云った。
「僕は祖父から嗣いだことになるが、曽祖父は養子だったようだしね。血統なんかない。大体ね、親が偉いとか先祖が凄いとか口にする奴は、愚か者か無能だよ。そんなものに依り掛からなければならない程中身がないとしか思えないけどな」”

p.543

男性ですが、女は男より力が弱いんだから男のいうことを聞けばいいんだとかいわないし、女を胸のデカさで見ないので、それもとても好感が持てます。
(小説ってどうして、男性は苗字で女性は下の名前で書かれることが多いんだろう、、、)

彼は言葉を操り、人を変え動かす力を持っていますが、その力を自分のためには使いません。いくらでも他人を操って利益をえられるのにも関わらず、です。
なので、彼はいい人だと私は思っており、だから私は彼が好きです。

探偵役として、ほぼ完璧に描かれる京極堂は、物語のたびに、現れるお化けを祓い、無効化します。陰陽師として。大抵は仕事として。

しかし彼は、お化けが大好き、と答えています。

好きなお化けを自ら消していく、京極堂。
それは矛盾なのか、それともそれすら織り込み済みなのか。


この巻では珍しく京極堂が自らの感情を示します。

「はい。僕はーー少し淋しいですが」

p.825

お化けが幽霊がいなくなることに、淋しいと彼はいうのです。

作者自らケリをつけた形になる山の最後。

なくなる山に、彼らの弔いを。


4.それでも、お化けは死なない


こうして、江戸から脈々と生き続けたお化けたちは、戦後の昭和に解体されて消えてなくなってしまいました。

しかし、令和の現代に、再度こうして蘇ります。
読んでいる我々の中で、鵼が鳴きます。

結局お化けは死なない。
何度でも蘇るのでしょう。

幽谷響もぜひ蘇らせてほしいものでございます。


著者:京極夏彦
ASIN ‏ : ‎ B0CG5853SR
出版社 ‏ : ‎ 講談社 (2023/9/14)
発売日 ‏ : ‎ 2023/9/14
言語 ‏ : ‎ 日本語
ファイルサイズ ‏ : ‎ 6490 KB
本の長さ ‏ : ‎ 1135ページ

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