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The Beatles「Now And Then」を聴いて、喪失感に襲われた理由を9日間考えていた。


The Beatles の新曲「Now And Then」
2023年11月2日にリリースされました。
17歳で The Beatlesに出逢い、ファン歴も17年。
現在34歳の私は「Now And Then」を聴いて、
悲しみと喪失感に襲われていたのです。




“最後の新曲”「Now And Then」


「The Beatlesの新曲」と聴くと、
本来なら喜ばしいことでしょう。
もちろん私も嬉しくなかったわけではありません。

ですが私が引っかかったのは、
“最後の新曲”「Now And Then」という一文。
YouTubeのThe Beatles公式チャンネルにも、
「The Last Beatles Song」の文字が。

この曲を聴いたらThe Beatlesは終わってしまうの?

そんなことを考えながら
私は「Now And Then」を再生しました。

Official Music Videoはまるで、
卒業式の写真スライドショーを見ているかのように、私に悲しみと喪失感を与えます。
「感動」よりも「喪失感」なのです。

どうしてこんな気持ちになるのだろう。
本来は喜ぶべきなのに。

この感情の正体が判明しないと、
私は「Now And Then」を
受け止められない。そんな気がしました。


冒頭で私は「17歳で The Beatlesに出逢った」
と書きましたが、当時は2006年。
J-POPだと、たしかYUIやレミオロメンが
流行っていたでしょうか。

当然The Beatlesは活動しておらず、
ジョンもジョージも亡くなっている年代。
高校の英語教科書にOb-La-Di, Ob-La-Daが
載っていて、授業で歌わされた記憶があります。

そうなのです。
私が出逢ったときには、The Beatlesは過去の人。
すでに終わりを迎えたグループだったのです。

でも私にとってはこのときがスタート。
当時高校生だった私は、お小遣いを貯めて
「The Beatles 1」というCDを買い、
ディスクに傷がつくまで聴き倒しました。

高校を卒業してすぐに仕事を始め
お金に余裕ができると、The BeatlesのCDや映像作品を買いあさります。
たとえ過去に販売されていた作品だとしても、
私にとっては“新曲”。

The Beatlesは終わっていないんだ。

どこかで
まだ続いていると思っていた
「The Beatles」。
少なくとも私の中では終わっていない
「The Beatles」。

ここ数年の間でも、
Get BackやEIGHT DAYS A WEEKの
ドキュメンタリー映画が放送されたりしています。

The Beatles: Get Back - The Rooftop Concert
(2022)
EIGHT DAYS A WEEK - The Touring Years
(2016)

終わってほしくない。

私は「最後」という言葉を
信じたくないのだと気づきます。

本当に、卒業式の気持ちと全く同じです。
今まで楽しく過ごしていたけど、
「今日で終わりです」と言われる
少しの感動と、悲しみ、焦燥感。

ですが、やはりThe Beatlesが好きな者として、
The Beatlesを応援している者として、

The Beatlesが「最後」だと言っている以上、
私は「Now And Then」と向き合うことを決めました。


何度も危機をむかえる
『The Beatles』


私は今までThe Beatlesに対する
「解散」「終わった」
という文字から目を背けていた気がします。

しかし彼らは何度もその事態に直面し、その度に新たな形で復活を遂げるグループなのです。

「Now And Then」を受け止めるため、
最後なのだという事実を整理するため、
The Beatlesの「最後」と言われる瞬間について
少しずつ考えてみることにしました。


⒈ライヴからスタジオへ

The Beatlesの書籍の中で、
ロックバンドのU2のインタビュー記事がありました。

もしビートルズに
バンドの命が本当の意味で終わったのはいつでした?って尋ねたら彼はきっとこう答えるはずだよ。
『ああ、それはライブをやらなくなった時だね。あの時にバンドは死んでしまったんだ』って。

シンコーミュージック・エンタテインメント発行
The Beatles50th Anniversary Special‼︎より


The Beatlesが経験したスタジアム・ライブは、
彼らにとって悲鳴や歓声以外に音が聞こえず
口パクの操り人形に、詩が感じられない巨大会場でしかありませんでした。

そしてライブへの意欲は次第に失われていきます。
騒音、音響技術が改善されていたらもう少し長くステージに立っていたでしょう。

しかしスタジオにこもらなければ、
私の好きなThe Beatlesの楽曲は生まれなかったことも事実。

余談になりますが、
私が現時点で、The Beatlesの好きな曲を
3つ選べと言われたら

①I Am The Walrus
② Your Mother Should Know
③ Hey Bulldog

を挙げますが、この3曲はいずれも
The Beatlesがライヴ活動を停止し、スタジオに移行してから生まれた作品です。


⒉ブライアン・エプスタイン


アルバム
「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」
発表ののニヶ月後、
マネージャーのブライアン・エプスタインがアスピリンの過剰摂取によりこの世を去ります。
享年32歳でした。

「Sgt. Pepper's〜の頃にはすでに、
レノン/マッカートニーというパートナーシップはライバルという関係になっており
個人的な主張も強い4人をうまく調整し、
外部からバンドを守る存在が居なくなってしまったのです。

その後発表した映画
「Magical Mystery Tour」は
イギリスで視聴率75% を記録しますが、
物語としては難解で、失敗作と批判されます。

欠けていたのは、
プロの手による編集と監督の才でした。

「Magical Mystery Tour」は
エプスタインへの追悼と言う意味合いもあり、
ポール主導の下で団結しましたが、
4人の個性は誰も押さえつけられないほど異なる方向に発展していたのです。

「Magical Mystery Tour」には私の好きな曲が
2曲も収録されているので、個人的には
映画含めて大好きな作品なのですが…。

それぞれが成長し、ビートルズ以外の家族もある。
すべての時間情熱をビートルズに注ぐことができない。
一般的には自然の流れである
ライフスタイルの変化が、彼らにとっては
大きな問題だったのかもしれません。


⒊THE BEATLES(ホワイトアルバム)


メンバーにとって
ビートルズは全てではなくなっていました。
このTHE BEATLES(ホワイトアルバム)
終わりの始まりだと言われています。

スタジオの雰囲気に嫌気がさしたリンゴが
一時的にグループを離れ「Back in the U.S.S.R.」
のドラムを急遽ポールが叩く事態まで起きました。

しかしこの作品はレゲエを取り入れ
ワールドミュージックの先駆けをしたり、
ヘビーメタルの原型を作ったりしています。

ロック的な予定調和を端から捨て、
従来のビートルズのワークから大きくはみ出した傑作です。

The Beatles分裂の危機にありながら、
その後に生みだされた輝かしい作品を聴くと
寂しさを感じてしまうのは私だけでしょうか。


⒋楽曲から読み解く「最後」


⑴We Can Work It Out

ポールが「きっとうまくやれるさ」と言うと
ジョンが「でも人生は短い」と答える楽曲。
このやりとりは二人の曲作りにも現れています。

僕が意気消沈していると、
ポールが楽天主義で補ってくれて
僕がメロディを作れなくなったら、
ポールが代わりにやり
君はストレートなロックをシャウトしてればいいと言ってくれる。
逆にポールが始めたストーリーを
僕が持ち帰り、どうやって曲にするか考えるときがあるよ。

シンコーミュージック・エンタテインメント発行
The Beatles50th Anniversary Special‼︎より


これは比較的「うまくいっていた」ときの状態かもしれません。
このバランスが崩れ、どちらかの力が強くなったときはどうなってしまうのでしょうか。


⑵ The End

「The End」が収録されたアルバム
Abbey Roadは、1969年7月から
レコーディングを開始し9月には発売されました。
The Beatlesが「The End」というタイトルの曲を作っていたことが衝撃ですよね。

「The End」はバンドに終止符を
打つ皮肉の効いた締めくくりとなっています。

"And in the end, the love you make is equal
to the love you take
(結局は、君がその手で生み出す愛は受け取る愛と同じ)”

というフレーズがThe Beatles流の
告別の言葉のように聴こえます。
この曲はタイトルとは裏腹にアップテンポです。
レコード唯一の、リンゴのドラムソロもあります。


⑶The Long and Winding Road

アルバムLet It Beに収録されたこの曲は、
ピアノの弾き語りで始まり、
他のメンバーもソフトな演奏で終わる予定でした。

しかしプロデューサーによって、
50名のミュージシャンとヴォーカリストを起用した狂想曲に変わってしまうのです。

ポールが「自分の作品を台無しにされた」
不満を述べました。

そしてこの時期というのは「Get Back」
ライブの原点に回帰しようとしていた頃。
そんな中、自分の作品を勝手に変えられては
すべての気力も無くなってしまいます。

以降、The Beatlesはコンサートを行なっていません。


それはすべてThe Beatlesのおかげ
(It's all because of The Beatles)


「Now And Then」の歌い出しから
見出しをピックアップさせていただきました。

I know it's true
It's all because of you
And if I make it through
It's all because of you

The Beatles 「Now And Then」より

この歌い出しにジョンの姿が浮かび
意思を持って話しているかのような感覚を覚えたのです。

1995年からポール・リンゴ・ジョージの3人で
「Now And Then」に取り掛かります。
ですがオノ・ヨーコから譲り受けた
カセットテープはピアノの音が強く、
ジョンの声が隠れてしまっていました。

その後悲劇は重なり、癌を患っていたジョージは、
2001年11月19日に58歳で亡くなります。

このまま
「Now And Then」は埋もれてしまうのか…。

しかし現代になり、先ほどから話が出ている
The Beatles: Get Back - The Rooftop Concert
(2022)
を制作する際に使った、
特定の楽器と声を分離することができる技術により
隠れていたジョンの声が現れたのです。

動画内で、ジョンだけの声(いわゆるアカペラ)
でハッキリ聴こえる「Now And Then」。

そしてその歌い出しが、

I know it's true
It's all because of you
And if I make it through
It's all because of you

The Beatles 「Now And Then」より

いや、本当だ
すべてはあなたのおかげです
そして私がそれを乗り越えることができれば
それは全てあなたのおかげ

YouTube The Beatles - Now And Then -
The Last Beatles song( Short Film)より

この詞、
「Now And Then」を制作するために
試行錯誤を繰り返したポール・リンゴ・ジョージ
並びに演奏者やスタッフの方に対する
ジョンの気持ちのように感じませんか?

みんなのおかげで、曲が完成したよ。と、
ジョンが答えているような気がして
私は涙が溢れてしまいました。

「Now And Then」には
ジョージのスライドギターのソロがあります。
私の主観ですが長めの間奏がある曲は、
「The Long and Winding Road」や
「Let It Be」など後期によくみられました。

「Now And Then」にもその流れがあると
感じていたのですが、ジョージへのトリビュートだったのですね。


そして、
私が悲しくて観ることをためらった
「Now And Then」の、Official Music Video。

今では、このカットは
「Magical Mystery Tour」で、
こっちは
「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」、
これは
「Rain」か「Paperback Writer」のMVかな…
と、見るたびに発見があり、楽しく観ることができています。

私の中のThe Beatlesは終わりません。
一度聞いた曲だったとしても、私にとってThe Beatlesの作品は常に新しく聴こえます。
ファン歴17年ですが、私が今回挙げた
「好きな曲3選」は最初から好きだったわけではありません。

年齢や環境、もしかしたら
その日の気分で変わる可能性もあります。
現時点で好きな曲と強調したのもそのためです。

10年後に聴く「Now And Then」は、
私をどんな気持ちにさせるのか。
今から楽しみにしたいと思います。


長文を読んでくださってありがとうございました。


参考書籍:
・シンコーミュージック・エンタテインメント発行
The Beatles50th Anniversary Special‼︎
・ジョン・ロバートソン著ビートルズ全曲解説

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