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チュウレンジバチと薔薇

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広島県某所非グルメツアー(課金部分は舞台となったお店に対するフワッとした情報です)
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#ごはん

駅の老舗チェーンのかけそば

 とにかく俺は疲れていたし、腹を立てていたし、疲れていたし、疲れていた。胃薬も飲んだし、こういうとき常に飲む漢方薬も飲んだ。効果は覿面で俺はその電話に冷静に出ることができた。「よう十八歳」と彼は言った。畜生。

 特別問題のある親子関係だったとは俺自身は思っていないのだが、母子家庭で育ってさほど親子の縁が密接ではない場合、こんなものではないだろうか。縁が密接ではないとはいえ母の友人の紹介でその店で

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駅の老舗チェーンのパフェ

「女の子の頭を撫でたらまずいって、ポアロさんいつ覚えたんですか」

「は?」

 彼は多重の意味で「は?」と、心から不審そうに言い、俺は若干気持ちがすっとした。そのあと罵倒されるだけだということがわかっていてもだ。

 しこうして彼は顔をしかめ、「おまえあてつけがましいよ」と言った。

「百回くらい聞きました」

「そんな言ったっけ」

「バカのふりしたって知りません」

「あのねえ……」

 小

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銘菓

銘菓

「そんなに好きでしたっけ」

「あのさああ、あれがしりたいこれがしりたい、幼児か」

「今からでも本店行きましょうよ」

「ここにあるから食いてーんだようるせーなーデートはしません」

 観光立県と呼ぶにはあまりにもハングリー精神の足りない当地において、ある程度のハングリー精神をそれでもぎりぎり担保している棒に刺さった揚げ物を食えるブースが、新しくなった駅にできていた。学生時代は毎日通っていた場所

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内臓に似ているアーケードのライスプディング

内臓に似ているアーケードのライスプディング

 おれの名前は向田忠夫といい、このタダダと連なる音がこどもじみた機関銃掃射を想起させるので気に入っているのだけれど、その点を褒められたことはまだない。あるいは一生ないのかもしれないけれどその点においておれはまだ希望を捨てていない。どうせ希望を抱くようなことはさほどありはしないのだから希望を持てることではせいぜい持っておくべきではないか。

 この一連の文章がコメディ・ドラマだということをおれは知ら

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わたしによく似ていて似ていない名前の酒

わたしによく似ていて似ていない名前の酒

 五人がまとめて入れる部屋はなかったよ残念だね、と誰かが言い、残念だね残念だねと誰かが言うので、わたしもまた残念だねと言った。百年間言い慣れてきたかのように上手に、残念だねといえた。わたしは友達と呼べる人間をおそらく誰も知らない。しかしその日わたしは友達といた。百年前から友達だったように、そこでわたしは笑っていた。

 メニュー表を指さして、わたしはえみる、という名前なんですよ、と言ったら、じゃあ

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チュウレンジバチと薔薇、そして名探偵の定義

チュウレンジバチと薔薇、そして名探偵の定義

 わたしの名前はチュウレンジバチで、チュウレンジバチは薔薇に卵を産み付けて茎に瑕をつくり、生まれた子供たちは薔薇の花を食べつくす。わたしたちは食べ続ける。わたしたちは食べ続ける。わたしたちはなにかを食べ続ける。母は言った。「一口ごとにその罪を感じなさい」

 終りのために食べているわたしたちは常に罪人だと、母が言った。

「東京で観なくたっていいじゃない、宝塚に行けば? 本拠地のほうの」

「あの

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