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果物がたくさん乗ったタルト
実家から電話がかかってきたと思ったら、大学で家を出てきりろくに連絡も取り合っていなかった弟からだった。転勤になったので実家に戻ったのだという。今後のことは心配しなくていいからと言われて、言っている意味があまりわからなかった。彼はとても優秀で、わたしの心配が必要なことはなかったからだ。いつも明るく気立てが良く、ついでに言えばスポーツマンの弟は、誰からも愛されるたちで、わたしももちろん彼のことを愛し
もっとみるアイスクリームチェーン
わたしと彼の間にはいくつかの取り決めがある。たとえばわたしは彼を決して家にあげない、これは子供の頃からのルールだ。理由は彼が子供の頃病的な窃盗癖があったからで、彼はそれを悪いともなんとも思っていないことは知っていたので、というか、盗んでいる自覚すらなかったということは知っていたので、わたしとしてはパーソナルスペースを狭めないことで解決するからそれでよかった。彼の、なんとなく気に入ったものを元々自
もっとみるごはんのおかわり自由
わたしの名前はチュウレンジバチ。薔薇につく害虫として知られる。
チュウレンジバチは薔薇の枝に切り傷をつけて傷口に産卵する。孵化したあとは薔薇の枝に痛々しい産卵痕を残し、病原菌が入る原因となる。生まれた幼虫は薔薇の葉を食べて育つ。蜂の名は持つが成虫は毒針は持たない。わたしたちはもっぱら薔薇愛好家とのあくなき戦いにおいて名声を上げ続けている。わたしたちは薔薇を食べないではいられないのだが、薔薇愛
何がブレンドされているのかわからないハーブティー
なにが楽しくて生きているのかわからない、などと言ったらあの人はどんな顔をするのだろう。呪いのように頭の端に引っかかった言葉が、皮肉ではないということは知っていた。「そうだね、君は、優秀だから」
誰の話だ?
駅から横断歩道を渡ってすぐ。僕は明るい窓のある店が好きなので、なんならオープンカフェならもっといいけど、オープンカフェだとコーヒーだの紅茶だのよりお酒に行っちゃったほうがいいよねって思
イタリア風のデザートピザ
わたしの実家は山に張り付くように形成された団地のなかにあり、小学校までバスで二十分、バス停まで二十分、バスが来るまで遅延を含め二十分から三十分ほどかかった。徒歩圏内(というのは片道三十分程度の範囲を指す)にあるのは「近所のおばさん」がやっている個人商店だけで、出かけていくとわたしの名を呼ばれ、祖母の容体などを聞かれた。最初のコンビニエンスストアができたのはわたしが中学生の時で、すぐ潰れた。小学校
もっとみるテンションの低い定食屋
結論から言おう。
バージンロストした。
一般に定食屋というものはおしなべてテンションが高いものである。わたしたちはテンションの低い食事を求めていた。わたしたちはレンタカーに乗り込み、この秋にオープンしたばかりのショッピングモールに出かけた。できたばかりのショッピングモールがにぎわっているのは良いことだ。予定調和的だ。わたしたちは開店前の二分を待つ必要はなかった。開店していたからだ。店内に
そして角のお好み焼き屋
あ、どうも。……このへんにおすまいなんですか? あー……ああ……妹さん……お世話になっております……ええと、家がすぐそこなんです、角曲がったところの、神社の前の。引っ越してきたばっかりですけど。
あの、聞いていいですか。上の子って下の子のこと、どんなふうに思ってるのが普通なんですか。あの、部屋と猫を置いていかれてしまって、信じてる、などと、言われてしまったんですが、たぶん、お見通しだったんで
その後の、そしていつかの彼らについて
全自動ポアロ氏(Twitterbot)
チュウレンジバチと手紙(ほぼ毎日配信メールマガジン)
駅の老舗チェーンのかけそば
とにかく俺は疲れていたし、腹を立てていたし、疲れていたし、疲れていた。胃薬も飲んだし、こういうとき常に飲む漢方薬も飲んだ。効果は覿面で俺はその電話に冷静に出ることができた。「よう十八歳」と彼は言った。畜生。
特別問題のある親子関係だったとは俺自身は思っていないのだが、母子家庭で育ってさほど親子の縁が密接ではない場合、こんなものではないだろうか。縁が密接ではないとはいえ母の友人の紹介でその店で
駅の老舗チェーンのパフェ
「女の子の頭を撫でたらまずいって、ポアロさんいつ覚えたんですか」
「は?」
彼は多重の意味で「は?」と、心から不審そうに言い、俺は若干気持ちがすっとした。そのあと罵倒されるだけだということがわかっていてもだ。
しこうして彼は顔をしかめ、「おまえあてつけがましいよ」と言った。
「百回くらい聞きました」
「そんな言ったっけ」
「バカのふりしたって知りません」
「あのねえ……」
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