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チュウレンジバチと薔薇

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広島県某所非グルメツアー(課金部分は舞台となったお店に対するフワッとした情報です)
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記事一覧

角のお好み焼き屋

 あーそびーましょ、と言ってやってくる、アニメのキャラクターみたいな声だ。

 わたしは家で仕事をしているし、彼は何の仕事をしているのかわたしはほとんど知らない。長い付き合いになるので、彼が一人遊びがうまいことは知っているし、そこに金銭収入が絡むことは容易に想像がついたから、たのしくやっているのだろうと思う。彼は(つまらなそうにしているときですら)いつも楽しそうに振る舞うのが極めてうまく、そしてそ

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果物がたくさん乗ったタルト

 実家から電話がかかってきたと思ったら、大学で家を出てきりろくに連絡も取り合っていなかった弟からだった。転勤になったので実家に戻ったのだという。今後のことは心配しなくていいからと言われて、言っている意味があまりわからなかった。彼はとても優秀で、わたしの心配が必要なことはなかったからだ。いつも明るく気立てが良く、ついでに言えばスポーツマンの弟は、誰からも愛されるたちで、わたしももちろん彼のことを愛し

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アイスクリームチェーン

 わたしと彼の間にはいくつかの取り決めがある。たとえばわたしは彼を決して家にあげない、これは子供の頃からのルールだ。理由は彼が子供の頃病的な窃盗癖があったからで、彼はそれを悪いともなんとも思っていないことは知っていたので、というか、盗んでいる自覚すらなかったということは知っていたので、わたしとしてはパーソナルスペースを狭めないことで解決するからそれでよかった。彼の、なんとなく気に入ったものを元々自

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食べ飲み放題三千円

 昔は二千円だったような気がする。当時三千円というのはかなり敷居が高かった。しかし昔というのは十年も前の話だし、十年前というとワーキングプアという言葉が日本でようやく出回るようになった頃だ。十九世紀の終わりごろだか二十世紀のはじめごろだかにアメリカで提唱されたとされるこの社会問題が日本で浸透するまでに百年近くかかりそして実を言うと多分浸透はしていないし何の解決策も練られていないままわたしたちは社畜

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ごはんのおかわり自由

 わたしの名前はチュウレンジバチ。薔薇につく害虫として知られる。

 チュウレンジバチは薔薇の枝に切り傷をつけて傷口に産卵する。孵化したあとは薔薇の枝に痛々しい産卵痕を残し、病原菌が入る原因となる。生まれた幼虫は薔薇の葉を食べて育つ。蜂の名は持つが成虫は毒針は持たない。わたしたちはもっぱら薔薇愛好家とのあくなき戦いにおいて名声を上げ続けている。わたしたちは薔薇を食べないではいられないのだが、薔薇愛

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何がブレンドされているのかわからないハーブティー

 なにが楽しくて生きているのかわからない、などと言ったらあの人はどんな顔をするのだろう。呪いのように頭の端に引っかかった言葉が、皮肉ではないということは知っていた。「そうだね、君は、優秀だから」

 誰の話だ?

 駅から横断歩道を渡ってすぐ。僕は明るい窓のある店が好きなので、なんならオープンカフェならもっといいけど、オープンカフェだとコーヒーだの紅茶だのよりお酒に行っちゃったほうがいいよねって思

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イタリア風のデザートピザ

 わたしの実家は山に張り付くように形成された団地のなかにあり、小学校までバスで二十分、バス停まで二十分、バスが来るまで遅延を含め二十分から三十分ほどかかった。徒歩圏内(というのは片道三十分程度の範囲を指す)にあるのは「近所のおばさん」がやっている個人商店だけで、出かけていくとわたしの名を呼ばれ、祖母の容体などを聞かれた。最初のコンビニエンスストアができたのはわたしが中学生の時で、すぐ潰れた。小学校

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気取ったパン屋

 猫は心底怯えていた。抵抗する意志さえ見せないほどに。

 わたしは猫を抱えて川辺に座っている。「ガチ勢」と関わりたくないとわたしは言ったと思う。なぜならわたしの時給換算は最低賃金を大幅に下回っているからだ。そしてポアロの責任も取りたくないと言ったと思う。自分の人生をチキンレースしている男の人生の片棒を誰が担ぎたいものか。だが現実はどうだ。腕のなかで震えている猫は薬の甲斐あって下痢がようやく収まっ

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テンションの低い定食屋

 結論から言おう。

 バージンロストした。

 一般に定食屋というものはおしなべてテンションが高いものである。わたしたちはテンションの低い食事を求めていた。わたしたちはレンタカーに乗り込み、この秋にオープンしたばかりのショッピングモールに出かけた。できたばかりのショッピングモールがにぎわっているのは良いことだ。予定調和的だ。わたしたちは開店前の二分を待つ必要はなかった。開店していたからだ。店内に

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強気なラーメン屋

 あーそびましょ、と言ってやってくる、まるで幼い子供だ。

 昔々、地方都市のとある住宅街に、子供が三人いた。終わりつつある世界では、その団地に同世代の子供はわたしたちしかいなかった。弟はさっさと幼稚園や小学校のお友達とばかり遊ぶようになり、何歳だったかは忘れたが既定の年齢に達したとたん小学生ソフトボールクラブにも入った。わたしはその発想はなかったと思った。

 そして今わたしは弟にかけた電話を無

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そして角のお好み焼き屋

 あ、どうも。……このへんにおすまいなんですか? あー……ああ……妹さん……お世話になっております……ええと、家がすぐそこなんです、角曲がったところの、神社の前の。引っ越してきたばっかりですけど。

 あの、聞いていいですか。上の子って下の子のこと、どんなふうに思ってるのが普通なんですか。あの、部屋と猫を置いていかれてしまって、信じてる、などと、言われてしまったんですが、たぶん、お見通しだったんで

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その後の、そしていつかの彼らについて

全自動ポアロ氏(Twitterbot)

チュウレンジバチと手紙(ほぼ毎日配信メールマガジン)

駅の老舗チェーンのかけそば

 とにかく俺は疲れていたし、腹を立てていたし、疲れていたし、疲れていた。胃薬も飲んだし、こういうとき常に飲む漢方薬も飲んだ。効果は覿面で俺はその電話に冷静に出ることができた。「よう十八歳」と彼は言った。畜生。

 特別問題のある親子関係だったとは俺自身は思っていないのだが、母子家庭で育ってさほど親子の縁が密接ではない場合、こんなものではないだろうか。縁が密接ではないとはいえ母の友人の紹介でその店で

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駅の老舗チェーンのパフェ

「女の子の頭を撫でたらまずいって、ポアロさんいつ覚えたんですか」

「は?」

 彼は多重の意味で「は?」と、心から不審そうに言い、俺は若干気持ちがすっとした。そのあと罵倒されるだけだということがわかっていてもだ。

 しこうして彼は顔をしかめ、「おまえあてつけがましいよ」と言った。

「百回くらい聞きました」

「そんな言ったっけ」

「バカのふりしたって知りません」

「あのねえ……」

 小

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