見出し画像

クソオヤジ、推しを見に桐生へゆく。

それは悪夢でした。東京都の「問題のある職員リスト」に載っていたといううちの変人アル中オヤジが、桐生の大川美術館で開催される山中千尋さんのライブへ行くというのです。デリカシー、マナー、清潔感の一切を前世に置いてきたかのようなうちのオヤジが、My shining 推しのライブへ行く…。

いやーーーーーお願いやめてええええーーーーーーーーー!!!!!!


こちらとしては、彼がなにか粗相をしないか、もう、気が気ではありません。

「爪切る服買うハゲ治す飲まない喋らない」「爪切る服買うハゲ治す飲まない喋らない」「爪切る服買うハゲ治す飲まない喋らない」と呪文のように前日まで唱え続けたものの、「だってジャズだろぉ~♪」と本人はどこ吹く風。私は昔から彼の酒で恥をかかされてきましたから、兎に角、絶対に山中さんのライブで飲むな!の一心です。


とはいえ、元々ジャズが大好きだった父が、都内まで必死に通勤をしながら澤野工房さんのCDをコツコツ楽しみに買い集めていたのが今から十五年前でしょうか。山中千尋さんのA Sand Ship(中島みゆきさんのカバー)を特に繰り返し、繰り返し聞いていたことを思い出します。

そのことが間接的なきっかけとなって、私も後年 澤野工房さんの書籍を手にとって山中千尋さんの章に出会うことができたのですから、やはり彼には感謝しなければならないことろもあります。

それに、まさか彼にとっても大切なアーティストのライブに「お願いパパきもいし変人なんだから行かないでぇえぇぇぇ!!!!」と止めることはできません…。あああ…。



それでもジャッジメントデイは訪れ、来る十一月八日に、クソオヤジは桐生へと旅立ったのでした…。


一体どうだったのか、会場でなにか粗相はしなかったのか、ハラハラしながら日中を過ごしていたものの、翌日には例のアメリカの令嬢観光ツアーが控えているので、早く眠らなければなりません。

彼が上機嫌で歌いながら帰宅した頃、私は既にベッドに入っていました。「この様子なら大丈夫かな、本当に楽しかったんだろうな、嬉しかったのだろうな」とほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、隣室から凄まじい大音量で中島みゆきが聴こえてくるではありませんか…。(※田舎なので、お隣さんは畑です。)なにか映像を見ているのか、中島さんのトークが入ると大声で笑いながら喋りだしているようです。ヒィィィィ!!!どうしよう助けてお医者さん…クソオヤジが推しとソウルトーク繰り広げてるよお…。


顔から血の気が引きはじめたところで、今度は隣室から「ウヲォオオオオオオオオオオン!!!」「ヒェええええええん!!!!」(BGM: 中島みゆき)
とまさかの凄まじい慟哭が聞こえてきました…。

大男が号泣している部屋の扉を開け、「ところでパパ、今日のちひろさんのライブはどうだったのかナ???(*'▽')」ととぼけて中断する勇気も到底わいてこず、我、ベッドで異常事態に震えるのみ。

ここまで来て、私は完全に絶望しました。このクソオヤジ今日は相当飲んだに違いない…ああ、My Shining推しと推しを愛する皆様、本当にごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…。泣きたいのはこっちである。


永遠にも思えるような時が過ぎ、ようやく慟哭が止んでTVニュースが流れはじめて安心したのも束の間、今度は戦禍のニュースに心が耐えられなくなったのか「こぉぉぉぉぉの人殺しぃいいいいいい!!!!!!!!!!」「うをぉおおおおお一体なんでそんなことができるんだああああ!!!」「人殺しぃいいいいい!!!」「アメリカとイスラエル※&%$%&')(()'&%$$(聞きとれない)」と狂気の叫びが響き渡りました。


結局、その日は夜中の2時まで彼の慟哭とシャウトで眠ることはできませんでした….。



最初は笑えるホラー話としてこの記事を書き始めたのですが、ここまで書いたところで「待って?これみなさんかするると結構笑えないやつ?」と思いはじめました。南無。




後日、その日の事情は明らかになりました。

「まさか飲んで行かなかったよね?」と彼に聞いてみたところ、「ああ、飲まなかったよ」「俺、ちゃんとネクタイだって持って行ってたんだで~!(得意げに言うんじゃないよ)」とのこと。

なんでも、退職をしてコロナ禍となって遠出をしないうちに数年が経ち、外の世界に出て見たら物価が1.5倍になっている。浦島太郎。結局食べずに飲んで帰ってきた(怖くてどこで?と聞けない。水戸線か?水戸線なのか?)というジャパニーズアル中ホラーストーリーでした。


その後、クソオヤジから「今度山中さんはいつ来るんだ?」と尋ねられましたが、娘として誠に遺憾ながらも、My Shining 推しのためファンのため…。このアブナイオヤジには嘘を吐いて「我々下々の者には無縁のfancyなオトナのディナーショーだから23時開場らしいよ」と大ウソを吐くつもりでおります…だって、山中さんが弾くA Sand Shipが流れた瞬間「うをぉおおおおおおん」とやれたらたまりませんから…とほほ…。


世間の頑張るお父様方、どうか子どもの前では、乱れるほど飲まないであげてくださいね。楽しい宴会の記憶は子ども心にも良く残りますが、酒乱の親にかかされた恥の苦しさ、切なさは、深く、深く心の底に刻まれてしまいます。情けない親の迷惑な姿を見ることほど、無残なこともありません。


増税メガネさんは、笑気ガスの市場導入を検討しても良いのかも知れません…。


さて、最近うちの猫が私が寝るときに永遠にゴロゴロ言いながら毛づくろいをかましてきます。夜中やつの「ゴロゴロ…」「ゴツン」「ベロベロ」の記憶が残っているということは、一体何回起こされているのでしょうか。
しかも、極めつけはゴロゴロ言いながら私の背中を手でかしゃかしゃして起こそうとしてくるのです。繰り返し。

かわいいっ!かわいすぎる!
だけど!眠らせてよめよめ!よめよめ!頼む!

この記事が参加している募集

猫のいるしあわせ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?