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【ノーリフティングケア×抱き上げない介護】~北欧ノルウェーの取り組み&福祉移乗用具~

医療従事者としてあなた自身もしくは同僚の方が抱える悩みに「腰痛」ってありませんか?ノルウェーの回復期リハ施設で働く私がですが、周りの同僚で「腰をやられた・・・」「患者さんのトイレ介助をやってから、ずっとひじが痛む・・・」「担当患者さんが大きすぎて移乗介助できない・・・」など頻繁に相談されます。

医療従事者の腰痛問題

世界中で腰痛は大きな問題となっており、医療従事者の間では他の職業に比べて特に高い発生率が報告されています (Hartvigsen et al, 2005)。これは、彼らがより重いものを持ち上げることが多く、その他の過酷な作業条件が健康に影響を与えることが一因です (Arbeidstilsynet, 2013)。

職業としての腰痛は、女性の医療従事者に特に広がっており、その数は他の女性雇用者よりも多いことが示されています (Arbeidstilsynet, 2013)。医療従事者の負担を軽減するために、移乗補助具を使用することで怪我や事故の数が減少するといわれています(Lunde, 2011)。

ノルウェーの労働環境法

ノルウェーでは、労働環境法 § 4-4 (2) によって、医療従事者が健康に有害な仕事の負担を排除または削減するための必要な措置を講じるよう雇用主に義務付けられています (Arbeidstilsynet, 2006)。この法律によれば、職業関連腰痛を予防するための中心的な措置には、職場での良好なスペース条件、移乗技術の訓練、使いやすい移乗補助具の提供、および手動の持ち上げ作業を技術的な補助具で代替することが含まれています (Arbeidstilsynet, 2006)。

移乗技術とは

移乗技術は、患者の健康な動きのパターンを活用し、患者と床の間の摩擦を減らすことを目的としています。これにより、医療従事者と患者の両方にとっての負担が軽減されます (Statens arbeidsmiljøinstitutt, 2010; Lunde, 2011)。

移乗技術と持ち上げ技術の違いとは?


移乗は、患者を水平に移動させる動作のことで、転がす、引く、押すといった方法があります (Lunde, 2011)。一方、持ち上げは、患者を垂直方向に動かすことで、重力に逆らって持ち上げる動作を指します (Lunde, 2011)。患者の持ち上げや移乗は、腰を曲げたりねじったりする姿勢を伴いやすく、これが腰に負担をかけて腰痛の原因になります (Li et al, 2004)。

倫理観を含めた移乗技術の必要性

移乗技術は、患者さんの自然な動きを利用し、物理の法則を活用して患者さんを動かす方法です。一方、持ち上げ技術は、患者さんの自然な動きを考慮しない方法です (Lunde, 2011)。移乗技術は、患者さんの力を引き出し、患者さんが自分で動くことを尊重します (Lunde, 2011)。

これに対して、持ち上げ技術は、介助者が自分の体を使って患者さんを持ち上げる方法に重きを置きます。そのため、患者さんは受け身になりやすく、受け身の行動を助長してしまいます (Lunde, 2011)。

患者を扱う際は、持ち上げ技術よりも移乗技術を使う方が良いとされています。これは、移乗技術の方が患者と介助者の両方にとって身体的な負担が少ないからです (Lunde, 2011)。持ち上げは腰に大きな負担をかけ、コントロールが難しい動きを伴うため、避けるべきです (Lunde, 2011)。

倫理観を含めた移乗技術の必要性

医療従事者は、患者の健康状態や病状を見て、患者が自分で何ができるかを評価することが大切です。これにより、患者がただ受け身になるのを防ぎます (Lunde, 2011)。倫理的には、患者を他人に任せて動かす対象ではなく、自分で動ける主体として尊重することが重要です (Lunde, 2011)。

ノルウェーの取り組み

ノルウェーの労働環境法 医療施設での仕事は、身体的にも精神的にも大変なことがあり、医療従事者にとって大きな負担になることがあります (Arbeidstilsynet, 2004)。ノルウェーの労働環境法第4-4条第2項は、不適切な負担を避け、筋骨格系のけがを減らすために、広いスペース、利用しやすい適切な機器、そして医療従事者のトレーニングが重要であることを強調しています。この法律は、介護施設や看護施設において、手動での持ち上げ作業をできるだけ技術的な機器で代替することを雇用主に義務付けています (Arbeidstilsynet, 2006)。

雇用主は、従業員に移動や作業技術のトレーニングを提供する義務があり、各部署には十分な数の移動および持ち上げ補助機器を備える必要があります (Arbeidstilsynet, 2006)。これには、良い人員計画と十分なスタッフの確保、設計通りの施設と機器の使用、そして機器と装置の維持管理が必要です (Arbeidstilsynet, 2006)。

回復期リハビリ施設での現状

私の職場でも、年に1度理学療法士は職場の同僚に移乗介助テクニック講習を行う≪義務≫があります。80歳以上のフレイル高齢者の患者さんが多いため、福祉移乗用具も積極的に使用しています。

次回は、私の職場でよく利用する北欧初の福祉用具について紹介・説明していきたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございました。

参考文献
- Arbeidstilsynet. (2004). Stress på arbeidsplassen. Arbeidstilsynet.
- Arbeidstilsynet. (2006). Veiledning om Arbeidsmiljø i helseinstitusjoner. Oslo: Glydendal Akademisk.
- Arbeidstilsynet. (2013). Unge Kvinner i arbeidslivet. Arbeidsbetingelser og helsebelastinger for unge kvinner. Arbeidstilsynet.
- Clemes, S. A., Haslam, C. O., & Haslam, R. A. (2010). What constitutes effective manual handling training? A systematic revies. Occupational Medicine, 101-107.
- Dawson, A. P., Mclennan, S. N., Schiller, S. D., Gwendolen, J., Hodges, P. W., & Stewart, S. (2007). Interventions to prevent back pain and back injury in nurses: A systematic review. Occupational Enviroment Medicine, 642-650.
- Hartvigsen, J., Lauritzen, S., Lings, S., & Laurtizen, T. (2005). Intensive educaction combined with low tech ergonomic intervention does not prevent low back pain in nurses. Occupational enviromental medicine, 13-17.
- Lunde, P. H. (2011). Forflyttningskunnskap aktivisering, hjelp og trening ved forflytning. Oslo: Gyldendal Akademisk.
- Li, J., Wolf, L., & Evanoff, B. (2004). Use of mechanical patient lifts decreased musculoskeletal symptoms and injuries among health care workers. Injury prevention, 212-216.
- Statens arbeidsmiljøinstitutt. (2010). Fakta om korsryggsmerte. Oslo: Fakta om arbeid og helse.
- Verbeek, J., Martimo, K., Kuijer, P., Viikari-Juntura, E., & Takala, E. (2011). Manual material handling advice and assistive devices for preventing and treating back pain in workers (Review). The Cochrane Library.


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