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【北欧ノルウェー】リハビリ分野の人手不足の深刻化について

みなさんこんにちは(^_^)/

本日はノルウェー最大の理学療法士専門誌「Tidsskriftet Fysioterapeuten」に掲載された記事を紹介します。テーマは世界各国で課題となっている「医療現場での人手不足深刻化」についてです。

以前わたしも、人手不足に関した記事を投稿したことがありますが、それと同じ時期に専門誌に投稿されてものです。

以前投稿した記事はこちら↓
ノルウェー理学療法士の新時代:シフト制導入を巡る議論と未来への展望

今回の記事は、理学療法士でありジャーナリスト、そして介護を必要とする父親の娘でもある、シャーロット・ナゲルさんが2023年11月に専門誌に投稿したものです。

シャーロットさんの体験
シャーロットさんは、高齢者への理学療法の専門知識を持つ理学療法士で、2003年から2010年まで病院、老人ホーム、地域リハで働いていました。その後ジャーナリストとなり、この数年は要介護の父親のケアに多くの時間を充てているそうです。彼女の父親は脳に腫瘍がみつかり、現在(2023年11月の時点)は治療の見込みがない状態で終末ケアとして自宅での生活を続けています。この記事では、介護が必要な父親の家族として、そして理学療法士として感じる人材不足の深刻化を訴えています。


リクライニングソファーの上で生活している私のパパ。

発行日: 2023年11月8日水曜日

パパがトイレに行った後、「座る前にリビングを一周して歩きたい」と言いました。しかし看護師は「次の訪問まで待ってください。その時に歩行訓練があるから」と答えました。なぜリビングを一周することが在宅サービスの一環として、まだ自然なことではないのでしょうか?

私はパパの家の地下でこの会話を聞いていました。これを聞くのは初めてではありませんが、毎回胸が締め付けられるような思いです。

私は高齢者ケアの専門教育を受けた理学療法士です。2003年から2010年まで病院、老人ホーム、地域PTとして働いていましたが、その後ジャーナリストになりました。しかし、この2年間は何よりもまずパパのための「家族」として過ごしています。

サイクリストから患者へ

ことの全てはパパが左側につまずくことが増えたことから始まりました。そんな中、彼は突然転倒しましたが、幸いにもソファに向かっていたところでした。MRIの結果、脳に腫瘍が見つかりました。その後、さらに2つの腫瘍が見つかり、彼の身体のバランス感覚は最も影響を受けました。これは、年間を通して自転車に乗る78歳の男性にとってとても大きな挑戦でした。

現在、治癒の見込みはありません。がんは広がっていますが、パパはこれからも自宅で過ごしたいと考えています。私たち家族は、できる限り彼の日常を快適にするために努力しています。

彼は1日5回の在宅サービスを受けています。これは、トイレの付き添いや薬の投与などです。はっきりさせておきたいのは、在宅サービスは本当に良い仕事をしており、いつも親切な看護師やヘルスケアワーカーが来てくれます。

パパのバランス機能が非常に低下しているため、誰かが付き添って歩行器を使わない限り、一人で安全に動くことができず、リクライニングソファーに座りっぱなしになっているのが現状です。運動が身体的および精神的に有益であることは誰にでも理解できることであり、医療従事者でなくても分かります。しかし、彼の置かれている状況はなにも特別なものではなく、多くの高齢者や病気の在宅サービス利用者が、目が覚めている時間の大部分をリクライニングソファーで過ごしています。

理学療法士の不足

パパは市町村の理学療法士の定期的なフォローアップも受けています。理学療法士が不足しているのはよく知られた事実ですが、彼は運が良く、週に1〜2回訪問を受けています。この訓練はパパにとって日常の大きな喜びとなっており、精神的にもプラスになっています。この記事を書いている間も、理学療法士とパパが運動をしています。笑い声と理学療法士からの「上に伸びて~」という励ましの声が聞こえ、私はこのリハビリ後、パパの気分がよくなることがもう分かります。

しかし、週に数回の理学療法が、他の日には何もフォローアップされない場合、どれほどの効果があるでしょうか?10年以上前に地区で開催された多職種会議で、利用者の動員を増やす方法についての議論を何度も聞きました。時間の不足が常にその理由(または言い訳)でした。動員のための時間がありませんでした。

時間がない

「時間がないんです」ー初めて自治体にパパの歩行訓練を在宅サービスの一環として行ってほしいと問い合わせたときも、同じ返事が返ってきました。トイレへの行き帰りの際の歩行訓練は私たちの計画書にはありません、時間がないんですと言われました。

でも私はもう、その説明を受け入れたくありません。「時間」ーパパと一緒にリビングを一往復するのに、せいぜい30秒です。仮に在宅サービスのスタッフが1日に8人の利用者を訪問するとして、全員がリビングを歩きたいと言った場合、合計で4分です。座りっぱなしの在宅利用者の幸福感を高めるために、効果的に使える4分です。忙しい一日の中でも、誰もが使える4分じゃないですか。

パパの場合、理学療法士がケースワーカーと話し合い、現在は午後2時のトイレの時間に毎日歩行訓練を受けています。結局は、利用者の家族が声を上げると事が進むこともあります。

この2年間、医療システムのさまざまな部分に直面する中で、私は独り暮らしの高齢者の人たちを気の毒に思いました。私は今、彼らのためにこの文章を書いています。私のこの記事での目標はパパが特別扱いされることではありません。

良い社会経済とは一体何なのか?

人々が自分の家で安心して住み続けることができるようにすることは、全ての政治的立場で合意されています。ここで話を混ぜているかもしれませんが、それでも質問します。

利用者を何時間も、何日も椅子に座らせることが、適切な医療サービスでしょうか?経済的に考えると、人々の身体機能を良い状態に保つことは良い投資ではないでしょうか?しかし、私の本当に言いたいことは、私たち社会が在宅の病気や高齢者に対して、運動のニーズを満たす包括的なケアを提供する義務があるということです。

しかし、なぜ私たちは失敗するのでしょうか?なぜこの課題を取り除くことができないのでしょうか?

理学療法士は常に努力していると思います。他の医療従事者に悪意があるわけではないと思います。おそらく、一部の市町村はこの課題に対して良い案を出し行動し成功しているのでしょう(その方法を教えてください!)。しかし、動員が依然として低い優先度であることは、失敗宣言ではないでしょうか?もう言葉は十分です。私は行動を求めています。私たち理学療法士はこの分野の専門家ですよね?

私自身が貢献すること

私は在宅ケアでの運動の重要性を伝えるメッセンジャーとして、会う医療従事者に運動の重要性を訴えることに専念します。それはすでに少し効果があると思っています。パパのもとに来る人々は、少なくとも私の話を忍耐強く聞いてくれ、同意してくれます。

革命を望む

私のパパはとにかく幸運です。だって彼には私、少し錆びついた理学療法士がいるんですから。私は自宅で仕事をしていることが多く、彼と一緒にリビングを歩いたり、階段をトレーニングしたりすることができます。パパ自身、許可を求めることなく、リビングを一周しようとします。何度か。一周が、在宅の高齢者全員のトイレ訪問の自然な一部になる日が来ることを願っています。少なくとも私は革命を望んでいます。

いつも私を支えてくれるパパ、今回も重要なテーマのために私に協力してくれてありがとう。今日は一緒に、レストランでランチを楽しみましょうね。


きっと日本の皆さんも共感する部分があると思って今回日本語で投稿させていただきました。(原文はこちら。)

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