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小さな物語。

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掌編・短編集。
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#桜

【掌編小説】遅れて咲く花

【掌編小説】遅れて咲く花

 また今年も、桜の存在に気づかなかった。職員室の窓の外に映るのは、若い緑の葉を揺らした桜の樹。いつからだろう。わたしが季節に無頓着になったのは。
「――うちの子ども、戸棚に隠しているカップ麺を勝手に取って食べたんですよ? ほんと信じられない。親の気持ちも知らないで」
 桜の樹に気を取られて、隣に座っている木下先生の言葉を聞き洩らしそうになる。へぇ、と薄い返事しか言えなかった。子ども。その言葉で、圧

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さくらという少女

さくらという少女

 その少女はさくら、といった。
「ほんとうは名前なんかないけど、つけるならそれね」
 淡く、儚げに、ふふと笑うと春の風が吹き、さくらの長い髪を持ち上げた。さくらの頭の上から桜の花びらがいくつも散った。春馬はそれを、目の奥に留めた。
 桜の樹にすみついて、四十年だという。
 本当は、天国に帰るはずだったのだが、何かの手違いで桜の樹を守る精になってしまった。春になると、この土地の人がビニールシートや酒

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