エメラルドドラゴンと「救世主伝説」の話
はじめに
この記事は、PC88版エメラルドドラゴンの1ファンである筆者が、考察や研究中のテーマをまとめたものです。
筆者は、YouTubeチャンネル「BIZ ANIMATION」の管理人であり、そこではエメラルドドラゴンに関する様々な情報を取り扱っています。
※文章が長くなることを避けるため、言葉の意味や説明を省いている箇所があります。
※さらに関心をお持ちの方は、YouTube再生リスト「エメドらじお」のリンクから動画をご覧いただければ幸いです。
作中、屈指の名シーン
エメラルドドラゴンをプレイした方で、
「オープニングを何度も繰り返し見た!」
「BGMをディスクが擦り切れるまで聴いた!」
という声は、少なくありません。
特に、PC版オープニングで最高潮のシーンである「タムリンが角笛を吹くシーン」は、作中屈指の名シーンと言えるでしょう。
PCエンジン版に移植される時にも、このシーンはパッケージの表紙となりました。
タムリンは、なぜ「祈りの丘」で角笛を吹くのか?
ところで、タムリンが立っているこの場所の名前は「祈りの丘」といいます。
タムリンはなぜ「祈りの丘」で角笛を吹いているのでしょうか?
おそらく、どの答えも半分は正しいかもですが、半分はブブーッ!(間違い音)の可能性があります。
「クーヘ・ハージェの救世主伝説」が舞台か?
エメラルドドラゴンの世界観は「ゾロアスター教」にルーツがあると言われ「祈りの丘」もそれに起因すると考えられます。
実際、ゲームに登場する人物名や地名だけでなく、作中の物語の舞台についても、ゾロアスター教で有名なストーリーに紐づいていたりします。
それが、
「クーヘ・ハージェの救世主伝説」
です。
「救世主伝説」と類似する3つのポイント
結論から先に言うと「クーヘ・ハージェの救世主伝説」と類似する点は少なくとも3つ程あります。
「昔のゲームだから、詳しいことは忘れた」
という方もいることでしょう。
ここから、わかりやすく簡潔にお伝えしていきます。
アトルシャンの「星辰(せいしん)」の姿とは?
主人公のアトルシャンは、ドラゴン小国から「祈りの丘」に到着し、そこから物語がスタートします。
どんな登場の仕方だったでしょうか?
祈りの丘の少女は、こんなコメントを残しています。
「あ、あなた、今、空を飛んでこなかった?」
PC版の時はわかりにくかったのですが、PCエンジン版やスーファミ版で見ると「光に包まれた」人間の姿で、飛んで来ることがわかります。
これが「クーヘ・ハージェの救世主伝説」で言うところの「星辰」の姿と類似している点です。
この「星辰」というワードは、辞書で調べると「星が放つ光」や「星の神秘的・荘厳さ」といった意味で書かれています。
また「辰」という文字も、十二支の「龍(ドラゴン)」を象徴している点が、非常に興味深いです。
タムリンは毎朝角笛を吹いていた(1回ではない)
次に、タムリンの角笛を吹いているシーンに注目しましょう。
みなさん、じつはタムリンは角笛を「1回だけ吹いた」と思っていませんでしたか?
実は、祈りの少女曰く「毎朝」吹いていました。
アトルシャンは、焦らすタイプの性格なのでしょうか?
ここにも「クーへ・ハージェの救世主伝説」が絡んできます。
何千年も救世主を待ち続けている
ゾロアスター教の世界では「救世主」の登場をずっと待ち続けています。
その期間、なんと千年単位です。
「クーヘ・ハージェ」とは「主の丘」という意味があります。
この「主」が救世主のことを指し、その主の登場を「(主の丘にいる)神官団が待ちわびている」というシナリオなのです。
ところが、何年経っても救世主がなかなか登場しないことから、神殿だけがどんどん建っていき「複合神殿」と呼ばれるまでになります。
エメラルドドラゴンの世界でも「(タムリンが)アトルシャンの登場を待ちわびる」という設定は、こうしたストーリーが関係していると筆者は考えています。
魔道士バギンは「祈りの丘の神官」だった
また、魔道士バギンの存在を「忘れた」という方もおられることでしょう。
このバギンの初登場シーンは、魔神ゴーレムが封印されている「マジュレスの洞窟」です。
ところが、エメラルドドラゴン完全ガイドブックの説明によると、バギンが洞窟に籠もる前は「祈りの丘の神官」だったと書かれています。
こんな裏設定を「わざわざ書く理由」は、いったいなんでしょうか?
バギンがアトルシャンの登場を「待ちわびているシーン」からも「クーへ・ハージェの救世主伝説」に通じている感じがいたします。
湖の真ん中にある魔剣ヴェンディダード
最後に興味深い話をもう1つ。
「クーへ・ハージェの救世主伝説」によると、救世主は「湖の中」から現れるとされます。
「え!?祈りの丘の神殿じゃないの?」
はい。厳密には祈りの丘の神殿の周りにある「湖の中」から星辰の姿を取って現れると描かれています。
「じゃあ、これまでの話はいったい何だったんだよ!」
と、怒り出す前にもう少しだけお時間をください。
すべて理由があります。
そのヒミツが、この魔剣ヴェンディダードなのです。
この剣は「湖の真ん中」から、アトルシャンに次のように呼びかけます。
資格を持つ者よ!
魔剣ヴェンディダードは、アトルシャンに向かって「おお、この時をどれほど待ったことか。資格を持つ者よ!」と言います。
その後、湖の中心にある孤島にアトルシャンたちはヴェンディダードの力でワープします。
その場所で剣を手にすることで、アトルシャンはようやく「救世主(イシュバーンを救う者)」としての資格を満たすことになるのです。
これが「祈りの丘の神殿じゃないの?」の答え合わせとなります。
主の丘の複合神殿の最上部は「拝火神殿」
ラストは、おまけ話で締めくくりたいと思います。
先程「何年経っても救世主がなかなか登場しないことから、神殿だけがどんどん建ってい(く)」とお伝えしました。
丘の上に建つ、神殿の最上部には「拝火神殿」があります。
ゾロアスター教は別名「拝火教」と呼ばれており「燃える火」を崇拝しているのです。
ボスキャラのファイヤーアント*が守っている場所も「火の祭壇」であることは偶然の一致ではないでしょう。
*ファイアーアントの「蟻」もまた、ゾロアスター教フラフストラ(有害生物の意)から取られており、非常に練られたストーリーなのです。
この設定(燃える火のところ)にも意図を感じます。
燃える火のところ=アートゥローシャン
拝火神殿の中にある燃える火のところをゾロアスター教では「アートゥローシャン」と言い、アルメニア語で「アトルシャン」と発音します。
その者こそが、祈りの丘の神殿(主の丘の拝火神殿の中心=燃える火のところ)から登場する主人公「アトルシャン」なのです。