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従業員と会社を守るストレスチェック制度とは

 新型コロナウィルス感染症の蔓延によって怒った日常生活の変化やリモートワークなどの普及により、従業員のストレスは高まる傾向にあり、メンタルヘルス不調により休職・退職する従業員も少なくありません。
 経営者や管理者は、メンタルヘルス(こころの健康)に関する基本的な知識を持ち、従業員や部下の不調のサインを見逃さないようにすることが大切です。
 従業員のストレスの程度を把握し、従業員自身のストレスへの気づきを促すとともに、職場改善につなげ、働きやすい職場づくりを進めることによって、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止する(一次予防)「ストレスチェック制度」について解説します。


1.ストレスチェック制度とは

 「ストレスチェック」とは、ストレスに関する質問票に従業員が回答し、それを集計・分析することで、職場のストレス要因、心身のストレス反応、周囲のサポートなどを調べる簡単な検査です。
 従業員が自分のストレスの状態を知ることで、ストレスをためすぎないように対処したり、ストレスが高い状態の場合は医師の面接を受けて助言をもらったり、過度なストレス要因が職場にある場合は、会社が必要な措置を検討したり、職場環境の改善につなげたりすることで、「うつ」などのメンタルヘルス不調を未然に防止するための仕組みです。

2.ストレスチェックの義務化について


 平成27年12月1日より、労働安全衛生法が改正され、常時50人以上の従業員が働く事業場においては、ストレスチェックの実施が義務化されました。(50人未満の事業所は当面の間、努力義務となっています。)

3.ストレスチェックの実施手順について


※参考:厚生労働省「eラーニング「15分でわかる法に基づくストレスチェック制度」」

(1)導入前の準備


 まず導入前の準備として、「メンタルヘルス不調の未然防止のためにストレスチェック制度を実施する」旨の方針を会社として表明し、衛生委員会等でストレスチェック制度の実施方法などを話し合います。
 衛生委員会等で話し合って決まった内容を社内規程として明文化し、従業員に周知します。社内規定は、厚生労働省の「ストレスチェック制度実施規程(例)」を参考にするといいでしょう。
 参考:厚生労働省「ストレスチェック制度実施規程(例)

(2)ストレスチェックの実施


 ストレスチェックの実施にあたっては、対象となる従業員に質問票を配布し、記入してもらいます。
 使用する質問票には、
  ①ストレスの原因
  ②ストレスによる心身の自覚症状
  ③働く人に対する周囲のサポート

 の3つに関する質問項目が含まれている必要があります。
 どのような質問票を使えばよいか分からない場合は、国が「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」を無料で公開しているので、そちらを活用してみましょう。
 参考:厚生労働省「厚生労働省版ストレスチェック実施プログラム」ダウンロードサイト

 回答された質問票は、実施者(またはその補助をする実施事務従事者)が回収します。回答した本人および実施者・実施事務従事者以外の者が、回答内容を閲覧してはいけないので注意してください。

(3)ストレス評価、面接指導の要否の判断


 回収した質問票をもとに、医師などの実施者がストレスの程度を評価し、高ストレス(ストレスによる心身の自覚症状の点数が高い者や、自覚症状が一定程度ありストレスの原因や周囲のサポートの状況の点数が著しく悪い者)で医師の面接指導が必要な者を選びます。
 選定基準や評価方法は、実施者の意見および衛生委員会等での調査審議をふまえて、決定しますが、厚生労働省が公開している基準を参考に決めることもできます。
 参考:厚生労働省「数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法

(4)ストレスチェック結果の本人への通知


 ストレスチェックの結果(ストレスの程度の評価結果、高ストレスか否か、医師の面接指導が必要か否か)は、実施者から直接本人に通知されます。
 従業員本人の同意がなければ、会社はその結果を見ることはできません。

4.ストレスチェック実施後のフォローについて


(1)本人からの希望があれば、医師による面接指導を実施


 ストレスチェックの結果で「医師による面接指導が必要」とされた従業員から申出があった場合は、医師に依頼して面接指導を実施します。

(2)医師の意見聴取と就業上の措置の実施


 会社は、面接指導の後概ね1ヶ月以内に、面接指導を実施した医師から、就業上の措置の必要性の有無とその内容について、意見を聴き、それを踏まえた必要な措置を実施します。
 必要な措置とは、たとえば就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等のほか、当該医師の意見を衛生委員会等へ報告することなどをいいます。
 事業者が従業員に対して就業上の措置を決定する場合には、あらかじめその従業員の意見を聴き十分な話し合いのうえで、従業員に対して不利益な取り扱いにならないよう十分注意する必要があります。

(3)職場分析と職場環境の改善(努力義務)


 事業者は、ストレスチェックの実施者に、ストレスチェック結果を一定規模の集団(部署、事業所、グループなど)ごとに質問票の項目ごとの平均値などを求めて、比較するなどの方法で、どの集団が、どういったストレスの状況なのかを集計・分析してもらい、その結果を提供してもらいましょう。(分析する集団の回答者数が10人未満の場合は、個人が特定されるおそれがあるので、全員の同意がない限り、会社は集計・分析の結果の提供を受けてはいけません。原則回答者数10人以上の集団を集計の対象としましょう。)
 会社は集計・分析結果を踏まえて、管理監督者向けに研修を実施したり、衛生委員会等で検討したりなどを通じて、職場環境の改善を行いましょう。

5.ストレスチェックをすることのメリット


 ストレスチェックによって、従業員にとってのストレス源やストレス度を知ることで、具体的な対策が立てやすくなります。原因が分かればそれを取り除いたり、軽減したりと具体的な対策をとることができますし、ストレスの度合いが分かれば、ケアの必要性を明らかにすることにもなり、医師の面接指導を受けるきっかけにもできます。
 また会社にとっても、従業員が突然心身の不調で休んだり辞めてしまうといったリスクを減らせたり、職場の問題点が把握できて働きやすい職場環境づくりができるといったメリットがあります。

6.まとめ


 契約職員や嘱託職員、パートも含めて常時使用する労働者が50人以上の事業場では、ストレスチェックの実施が義務付けられています。
 定期健康診断とは別に従業員のストレスチェックもしなければいけないので会社にとっては負担と感じるかもしれません。
 しかし、ストレスチェック制度は、ストレスによるメンタルヘルス不調での休職者や退職者が発生するリスクを未然に抑えることができ、従業員がイキイキと働ける風通しのよい職場づくりのために具体的にやるべきことが見つかる制度です。まだ実施していない会社は、ぜひこの記事を参考に、ストレスチェック制度をスタートしてみてください。


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