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観客一人ひとりの背景・経験・環境によってラストを想像してほしいー『羊飼いと風船』ペマ・ツェテン監督オンライントーク

1月23日(土)にシネスイッチ銀座にて行われました、映画『羊飼いと風船』を手掛けたペマ・ツェテン監督によるオンライントークの内容を全文アップ!

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ーまずは映画を観た観客の皆様へ、一言ご挨拶をお願いします。

みなさんこんにちは、この映画の監督であるペマ・ツェテンです。
この『羊飼いと風船』は、私にとって日本で公開される初めての作品で、これまでの作品はほとんど映画祭や各イベントでは上映がありましたが、長編7作目である『羊飼いと風船』が日本でこうして初めて劇場公開されたということが本当に嬉しいです。みなさんのご支援に大変感謝いたします。

ー『羊飼いと風船』は2度目の検閲で審査が通ったと聞きました。1度目の検閲ではどのような点が引っ掛かったのだと思いますか?

それは恐らく、中国の政策と大きく関わりがあったのだと思います。私が最初に審査に脚本を送った時には、まだ中国の計画出産(一人っ子政策)が実施中でした。ですから、審査が通らなかったのだと思います。2回目は何年も経って送ったわけですが、その時も私は脚本上かなり調節をしましたが、ちょうど政策が廃止になり、検閲が通り許可が出ました。だから恐らく、1回目に審査が通らなかったのは、そういう理由だと思っています。

ー前知識なく観に来たのですが、作品を観る限り女性監督だと思い込んでいたのでペマ監督のお姿を拝見し驚きました。この作品の原点はどういったところにあるのでしょうか?

映画をご覧になった方によく、女性の視点から撮った映画で「フェミニズムの映画ではないでしょうか」、「それを監督は強調したかったのではないでしょうか」という風に言われますが、自分がはじめにこの作品を思いついた時は、女性の苦悩を強調して撮ろうと思った訳ではありません。実は、あるイメージからこの作品が始まったんです。それは、ある時北京の町を歩いていて夕方の空、風に吹かれて飛んでいく赤い風船をみました。そのイメージがとても強烈で、衝動的に映画に撮りたい!と思ったんです。それからチベットにその物語を持っていきたいと考えました。その後、だんだんと脚本の雛形が出来ていくなかで、女性が登場しました。そして、女性を主人公にした訳ですが、女性が今とても辛い選択を迫られている、という話を思いつきました。そこから計画出産(バースコントロール)が行われていた90年代に舞台を設定しました。この一人っ子政策というのは、80年代半ばから行われ、90年代・21世紀まで続いたわけですが、今は政策は行われていません。ですのでこの話は、舞台を90年代半ばに設定しなければ成立しないのです。そこに、チベット人特有の信仰と伝統、そしてその矛盾に直面する女性の苦しみを合わせて、脚本を作っていきました。ですから、最初から特に女性の視点で描こうとは思っていませんでした。

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ーラストは、母親・ドルカルがこれから一体どのような人生を歩んでいくのだろうかと非常に気になる終わり方だったと思います。あえてこの作品はラストシーンを彼女の選択、家族の行く末を明確には提示していませんが、なぜこのような作りにしたのか、監督にお聞きしたいです。

主人公・ドルカルの人物設定とラストをあのように描いたのには、大きな関係があります。ドルカルは今の、現代的な女性のような結論は出せません。なぜなら彼女はチベットに住み、伝統的な信仰や習慣に取り囲まれているからです。その中で彼女の悩みは、ますます大きくなる。そして一体どうしたらいいのか、という大きな悩みがあるからこそ、ラストは簡単には結論付けられません。私自身も監督として、簡単に選択・結論を彼女に与えることは出来ませんでした。彼女の置かれている環境において、大きな矛盾のなか悩んでいる姿、これからどうなるのか、というのは簡単には結論は出せないと言いたかったのです。ですから、観客の皆さん一人ひとりの文化的な背景やこれまでの経験、ご自分の環境によって違うラストを想像すると思います、そしてそれでいいと私は思います。

ー祖父の背中をさする時に使われていた白い粉が気になりました。あれはいったい何の粉ですか?

(監督微笑みながら)あれは、小麦粉と同じようなもので、この地区では裸麦を粉にして、例えばあのシーンのように、マッサージをするときに粉を体につけて揉んであげたりします。

ー90年代後期の物語と仰っていましたが、この物語を現代に置き換えたらどうなるのでしょうか?例えば、亡くなった祖父の生まれ変わりを信じて、子供が「産んで欲しい」と母親に告げるシーンはどうなると思いますか?

確かにこの物語は90年代半ば、95~6年を時代設定としているのでもちろん「今ならどうなのだろう?」と疑問をもたれるかと思います。チベット人はほとんど皆、”魂は死なない”、”輪廻”を深く信じています。ですから、活仏の転生というのは今でも信じられています。その活仏がどこに転生したのかを探すことも、今でもよくあること。ですから、基本的にチベット人は今もこの生まれ変わり(輪廻転生)を信じている訳です。活仏だけでなく、庶民であっても、例えばこの作品のように、ある老人が亡くなると、この人はどこに転生するのか、ということはよく話題になりますし、例えば子供が亡くなった人と関係のある発言をすると、もしかしたら生まれ変わりかもしれないと話しをします。チベットの人たちが今でも輪廻転生を信じていることに変わりはありません。

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ー監督短いお時間でしたが、今日はありがとうございました。最後に一言観客の皆様へメッセージをお願いします。

今日『羊飼いと風船』を観に来てくださった皆様へ心から感謝いたします。非常に特殊な時期であるなか、わざわざこうしてこの映画を観にきてくださったこと、応援してくださっているということ、本当に心から感謝しています。日本の配給会社の皆様、そしてなんと言っても観客の皆様にありがとうと伝えたいです。今日は短い時間ではありましたが、このようにみなさんと交流が出来て、私はとてもうれしかったです。ありがとうございました。ぜひ今日皆さんが観終わって、この映画をよかったなと思っていただければ、とても嬉しく思います。また、このコロナウィルスの一刻も早い終息と、みなさんの健康を祈っております。今日はありがとうございました。

『羊飼いと風船』は、シネスイッチ銀座ほか絶賛上映中です🎈

(予告:https://youtu.be/Vl0iuf5ZduE

▼上映情報はこちら▼

http://www.bitters.co.jp/hitsujikai/theater.html

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