【童話読み聞かせ】池に落ちたモグラ
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
------------------------------------------------
▼まずは動画で聞いてみよう!
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
ひとに親切にしてもらったときの喜び、その喜びを与える親切な行為の大切なことを味あわせたい。
読み聞かせのポイント
モグラがカメに助けてもらった喜び、さかなたちが、池の中の水がなくなっていくときの悲しみ、モグラが川の水を導入するとわかってさかなたちの喜ぶ場面は、この話のヤマですから、感情、表情をこめて語ってください。
おはなし:出村孝雄 / え:波田佳子 / こえ:温水洋一
/ 著書:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
大きな、大きな、川がありました。その川のすぐそばに、池がありました。
池には青い水がいっぱいあって、コイが泳いでいます。フナも泳いでいます。メダカもいます。そのほか、たくさんのさかなが、楽しくくらしていました。
ある日のことです。フナが、池の中を、スーイ、スーイ泳いでいますと、頭の上の方で、ポチャーン……と、音がしました。
「おや、なんだろう」
フナが上の方を見ると、黒いものが、池に落ちてきて、いまにも沈みそうになっています。
「おや、あれはなんだろう」
よく見ると、その黒いものは、モグラでした。
一ぴきのモグラが、水の中に、頭をつっこんだり、出したりしながら、
「助けてえ、助けてえ」
と、呼んでいます。
「あ、あれはモグラだ。いつも土の中に、あなを掘っているモグラだ。これは大変だ!このまま、ほおっておけば、モグラは死んでしまう……。そうだ、池のさかなたちに、集まってもらおう」
フナはおどろいて、大声を、はりあげました。
「おおい、大変だあ。モグ、モグ、モグラさんが、大変だよう……。みんな、ここへ集まってえ」
フナの声をきいて、池の中のさかなが、みんな集まってきました。
「あ、ほんとだ……。モグラさんが、池の中へ落ちたんだ。さあ、どうしてモグラさんを、助けてやろうか」
池の中のさかなたちは、みんな心配そうに、モグラの苦しんでいるのを、ながめていましたが、小さなメダカが、目をまるくしていいました。
「ぼくはだめだ。からだが小さいから、とても、あのモグラさんを、助けることはできないよ……。ああ、コイ、コイくんは、からだが大きいから、だいじょうぶでしょう。ねえ、コイくん、コイくん。早く助けてやってよ」
コイはびっくりしていいました。
「だめ、だめ。あのモグラは、ぼくたちのせなかには、乗れないよ……。ツル、ツル、すべってしまうから、だめだよ。それに、ぼくたちさかなは、水のないところへは、出られないからね……。さて、こまった。どうしよう」
すると、フナが、ひれを、ピチ、ピチ、動かしながら、いいました。
「あっ、いいことがある。カメ、カメさんに、たのんでみよう。カメさんなら、モグラさんを、せなかに乗せることができるからね」
「そうだ、そうだ。フナくんのいうとおりだ。カメさんなら、あのモグラさんを、助けることができるよ」
そのころ、カメは、岩の上で、眠っていました。
そこへ、いそいで泳いできたのは、フナでした。
「カメ、カメ、カメさーん」
カメは、目をさましました。
「う、うん、だれ?ぼくを呼んでるの」
「フナです。ここにいます……。そら、カメさんのいる岩の下の水の中です」
「おや、フナくん、なにか用かね」
「はい、はい、大変です。それは、それは大変です」
「フナくん、なにが大変なの?」
「あのねえ、カメさん。モグ、モグ、モグラさんがねえ」
「モグラさんがなにしたの」
「モグラさんがねえ、池の中へ落ちて、アップ、アップ、死にかけているの」
カメは、これをきいて、びっくりしました。
「えっ、モグラさんが、死にかけているって……。それは大変だあ」
カメは、池の中へはいると、サブ、サブ、泳ぎはじめました。
そのころ、モグラは、息が苦しくなって、もう、からだは、池の中へ沈んでいきそうでした。そこへ、サブ、サブ、泳いできたのはカメです。
「モグラさん、もうだいじょうぶですよ……。ぼくはカメ……。さあ、さあ、このカメのせなかに乗りなさい」
モグラは、アップ、アップ、苦しんでいましたが、やっと、カメのからだに、つかまりました。
「カメさん、ありがとう。そら、どっこいしょ」
モグラは、カメのせなかに乗ることができました。
「モグラさん、しっかりぼくのからだに、つかまっていらっしゃいよ……。さあ、泳ぎますよ。そら……」
サブ、サブ、サブ、カメは泳ぎだしました。カメのせなかに、乗せてもらっていたモグラは、やっと岸に、あがることができました。
池の岸の近くには、たくさんのさかなが、泳いできました。
「モグラさん、助かってよかったね……。ほんとに、よかったね」
モグラは、岸の上で、池の中のさかなに、ペコン、ペコン、頭をさげました。
「さかなさんたち、ありがとう……。さっき、ぼくはね、モグラの友だちといっしょに、土にあなを掘っていてね、すべって、池の中へ落ちてしまったの……。それを、さかなさんたちに、助けてもらって、ありがとう……。ほんとに、ありがとう」
そのとき、コイが、池の水の上に、浮いてきました。
「モグラさん、モグラさんの友だちが、きっと心配しているよ……。さあ、早く、友だちのいる土の中へ帰りなさい」
「はい、みなさん、さようなら」
モグラは、また土を掘って、もぐっていってしまいました。
それから、いく日も、いく日も、たってからのことです。この池が、大変なことになりました。
どうしたことか、雨がすこしも降りません。日照りがつづいたのです。池の中のさかなたちは、みんな、心配そうな顔つきで、集まりました。
大きなコイは、目をショボ、ショボ、させながら、いいました。
「困ったな。たくさんあった池の水が、こんなに少なくなってしまった……。ぼくたちにとって、いちばん大切なのは、水だからな」
すると、小さなメダカが、目を、パチクリさせました。
「えっ、では、水がなくなったら、ぼくたち、さかなは、どうなるの?」
「そりゃあ、死んでしまうさ」
「いやだあ、死ぬことなんか、いやだあ、いやだあ」
メダカは、もう泣き出しました。
フナも、大きな、ためいきをつきました。
「あああ、こんなとき、雨が降ってくれれば、いいのになあ」
そのときです。池の中を、ザブ、ザブ、カメが、泳いできました。
「おう、さかなさんたち、大変だよ」
「えっ、カメさん、なにが大変?」
「あのねえ、いま、むこうで、お百姓さんたちが、いっていたけどねえ。こんなに雨が降らないで、日照りばかりがつづいたら、この池の水は、あと三日で、なくなってしまうんだってさ」
「えっ、あと三日で、池の水がなくなるって……。ああ、どうしよう……。わたしたちは、あと三日で、死んでしまうんだあ……。いやだあ、いやだあ」
さかなたちは、みんな、泣き出しました。
それから一日たちましたが、雨は降りません。二日たちましたが、雨は降りません。とうとう三日たちましたが、やっぱり雨は降りません。
池の水は、もうあとわずかになってしまい、さかなたちのせなかが、水から出てしまうくらいになりました。
さかなたちは、みんな、アップ、アップ、苦しみはじめました。フナは目を、ショボ、ショボ、させていいました。
「ああ、苦しい……。コイくん、コイくん。きみは、いつも元気がいいから、こんなときでも、だいじょうぶでしょう」
「フナくん、だめだよ……。ぼくだって苦しくって、苦しくって、もう死んでしまうかも、知れないよ」
池の中のさかなたちは、もう、ぐったりと、してしまいました。
そのときで。どこからか、声がきこえてきました。
「ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ」
「あ、あれは、なんの声だろう」
声は、だんだん、近づいてきました。
「ヨイショ、ヨイショ、ヨイショ……。池の中の、さなかさん。コイさん、フナさん、メダカさーん」
と、どうでしょうか。池の岸に、たくさんのモグラが、やってきました。
一ぴきのモグラが、池の中を、のぞきこむようにして、いいました。
「このあいだは、ぼくを池の中から助けてくれて、ありがとう……。今日は、モグラの友だちをつれて、お礼に来ました」
「えっ、モグラさんが、お礼に?」
と、いったのは、コイでした。ほかのさかなたちは、もう、ものをいう元気もありません。
「さあ、さなかさんたち、もう心配いりません。このあいだ、カメさんから、池の中の水がなくなって、さかなさんたちが、苦しんでいるのをきいたんです……。さあ、こんどは、モグラの仲間が、みなさんを助けてあげます」
「おや、ぼくたちさかなを、どんなにして、助けることが、できるの?」
「コイさん、ぼくたちモグラは、土を掘ることができるでしょう……。この池と、そばの大きな川を、水でつなぐように、あなを掘ってきたのです……。ほら、もう少しで、そのあなが掘れてしまいますよ」
モグラの仲間は、また、
「ヨイショ、ヨイショ」
かけ声をかけて、あなを掘りはじめました。
そのうちに、モグラの大きな声が、きこえてきました。
「そうら、あなが掘れました……。それっ、水が行きますよ」
と、どうでしょう。池の中に、川の水が、ザーッと、音をたてて流れこんできました。
「わあ、水だ、水だ、水だあ」
さかなたちは、急に元気が出てきました。
池の水は、ぐんぐん、ふえてきました。
コイも、フナも、メダカも、ほかのさかなたちも、スーイ、スーイ、池の中を、泳ぎまわりました。
池の岸の上に集まったモグラたちは、
「ああ、よかったねえ」
と、いって、池の中をながめていました。
------------------------------------------------
他の作品もご覧になりたい方はwebサイトに、youtubeに、遊びにきてください。一人でも多くの方に見ていただければ嬉しいです。
▼webサイト
▼youtube
------------------------------------------------
え・波田佳子
▼WEB
https://www.yoshikohada.com/
------------------------------
こえ・温水洋一
この記事が参加している募集
サポートは投げ銭よりもスキの方が嬉しいです