【童話読み聞かせ】みんなよい顔
ちょっとおちゃめな魔法のようなことば「ペケロンパ」。童話の読み聞かせを「聞かせよう」。そして、みんなで読み聞かせを「してみよう」。
このペケロンパ・プロジェクトは読み聞かせによって子どもとの暮らしを応援しています。詳細はこちらの記事でご紹介していますので、良かったらご覧ください。
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▼まずは動画で聞いてみよう!
▼読み聞かせをしてみよう!
このお話の目当て
子どもたちが、顔のかたちでニックネームをつけられたり、わる口をいわれたりして、劣等感さえもつことがある。しかし顔はそれぞれ特長があるもので、自信をもって、おたがいに愛しあうことのよさを強調してみたい。
読み聞かせのポイント
ぶた、山羊、猿が鏡を見て、自分の顔に、がっかりする場面は、声を落としてその気分を出してください。山奥で、おじいさんにあうところは、声をはずませて、その喜びを出してください。
おはなし:出村孝雄 / え:佐藤由吾 / こえ:安藤麻紀
/ 作:出村孝雄 / 制作:Bit Beans
▼おはなし
ひろいひろい野原に、一軒の家がありました。
その一軒家には、おじいさんがひとりですんでいました。
おじいさんは、ひとりぼっちだけれど、さびしいことはありません。おじいさんの家には、ブー、ブー、ブーのブタと、メー、メー、メーのヤギと、キャッ、キャッ、キャッのサルが、飼ってあったからです。
ぽかぽか、お日さまの照っている暖かい春の日に、おじいさんは、えんがわに出て、ウツラウツラ、居眠りをしていました。
そこへ、おじいさんの飼っている ブタとヤギとサルがやって来ました。
「おやおや、おじいさんが、こんなところで眠っているよ。さあ、起こしてやろう」
ブタとヤギとサルは、かわるがわる、おじいさんのせなかを、コツ、コツ、たたきました。
「ブー、ブー、おじいさん」
「メー、メー、おじいさん」
「キャッ、キャッ、おじいさん、起きてくださいよう」
おじいさんは、目をさましました。
「うわあ、よく眠った。おお、かわいいブタとヤギとサル、お前たちが起こしてくれたのだな」
ブタとヤギとサルは、おじいさんのからだに、からだをすりつけるようにしながらいいました。
「おじいさん、ぼくたちね、おじいさんに聞きたいことがあるんです」
「ほほう、どんなことかね、なんでも聞いてごらん」
すると、ブタが、ブー、ブー、ブー、息をはずませながら聞きました。
「おじいさん、ぼくねえ、ぼくの顔を見たことがないけれど、このブタの顔は、人間の顔に、にていますか」
「うん、ブタの顔か……。どこが人間ににているかな……。あ、そうだ、顔に毛がすくなくて、ツルツルしているところが、人間ににているよ」
「わあ、このぼく、このブタの顔のツルツルしているところが、人間ににているんですか……。人間ににている、人間ににていて、うれしいなあ」
すると、ヤギが、おじいさんの顔に、あごをすりよせていいました。
「おじいさん、このヤギの顔は、人間ににていませんか」
「うん、ヤギの顔……。そうだ、ヤギの顔も、いつかは、このおじいさんのように、あごひげがはえてくるよ、それが人間ににている」
「わあ、このぼくの顔も、あごにひげがはえて、人間ににてくるの……。人間ににている、人間ににていて、うれしいなあ」
すると、こんどはサルが、口をとがらせながら聞きました。
「では、おじいさん、このサルの顔は、どうでしょう。人間ににていませんか」
「おお、サル、サルは、顔のかたちが、人間にとてもよくにているよ」
「わあ、いいなあ、このサルの顔が、人間ににているって、人間ににていて、うれしいなあ」
ブタもヤギもサルも、じぶんの顔は、一度も見たことがありません。でも、その顔が、人間ににていると聞いて、大よろこびでした。
ある日のこと、おじいさんは、町から大きな鏡を買って来ました。
「ああ、この鏡を見たら、うちのブタもヤギもサルも、自分の顔がよくわかるだろう」
おじいさんは、その鏡をえんがわの柱にかけておきました。
しばらくすると、そこへブタがやって来ました。
豚は、鏡をみてびっくりしました。
「ブー、ブー、おや、この顔、だれだお前は」
ブタは、鏡というものを知りませんでした。鏡にうつっているのが、ブタの顔であることも知らずに、おどろきました。
「むこうに、変な顔のものがいるぞ。なんだ、あの顔、鼻が上をむいて、口がとんがって変な顔だなあ……。お前はだれだ」
その声を聞いて、おじいさんが、部屋の中からいいました。
「おお、ブタ、それがお前の顔だよ、お前が鏡にうつっているのだよ」
ブタは、がっかりしました。
「なあんだ、これがぼくの顔か、いやな顔だなあ。鼻が上をむいて、口がとんがって、いやな顔だ、ああ、いやな顔だ」
ブタは、力をおとして、小屋の方へいってしまいました。
しばらくすると、ヤギが、鏡の前に立ちました。
ヤギも鏡を知りません。鏡にうつっているのが ヤギの顔とも知らずびっくりしました。
「わあ、変な顔のものがいるぞ……。頭に角がはえて、あごがとんがっている。あれはだれだろう」
ヤギは、大きな声でいいました。
「こらっ、お前はだれだ」
すると、部屋の中から、おじいさんの声がしました。
「ヤギよ、それがお前の顔だよ。お前の顔が、鏡にうつっているのだよ」
ヤギも、がっかりしました。
「チェッ、これがぼくの顔か。角がはえて、あごがとんがって、いやな顔だ」
ヤギも、力をおとして、小屋の方へいってしまいました。
しばらくすると、鏡の前にやって来たのはサルです。サルも鏡を知りません。鏡にうつっている顔が、サルの顔とも知らず、大声をはりあげました。
「キャッ、キャッ、変な顔のものがいるぞ……。まっかな顔で、ひたいにしわがいっぱいある……。こらっ、お前はだれだ」
すると、部屋の中から、おじいさんがいいました。
「サルよ、それがお前の顔だよ。お前の顔が、鏡にうつっているんだよ」
サルも、がっかりしました。
「ああ、これがぼくの顔か。まっかな顔で、ひたいにしわがいっぱい……。ああ、いやな顔だ」
サルも、力をおとして小屋の方へいってしまいました。
小屋に集まったブタとヤギとサルは、もう、すっかり元気がなくなってしまいました。
「ブー、ブー、このブタの顔、ツルツルしていて、人間ににていると思っていたのに、鼻が上むいて、口がとんがっていて……。いやんなっちゃったあ」
「メー、メー、このヤギの顔も、ひげがはえていて、人間ににていると思っていたのに、角がはえていて、あごがとんがっているんだもの、ああ、がっかりした」
「キャッ、キャッ、このサルこそ、顔は人間ににていると思いこんでいたのに、まっかな顔に、ひたいにしわがいっぱい、悲しくなっちゃった」
ブタもヤギもサルも、みんな考えこんでしまいました。
しばらくすると、サルが、なにか思いついたように、ハッとして立ちあがりました。
「ねえ、ぼくたち、山へいってしまおう。山にはブタの仲間も、ヤギの仲間も、サルの仲間もいるんだよ。ぼくはサルだから、サルの仲間と暮らした方が、はずかしくなくていいと思うんだよ」
「ブー、ブー、ぼくもブタの仲間といっしょになった方が、はずかしくないだろうな」
「メー、メー、そうだ、ヤギはヤギの仲間にはいった方がよさそうだ」
ブタとヤギとサルは、山へ行くことにきめました。
このとき、サルが、さみしそうな顔をしていいました。
「ねえ、みんな、おじいさんと別れるのは、悲しいねえ。おじいさんには、もう会えないから、そっと、おじいさんの顔を見ていこう」
ブタもヤギもサルも、おじいさんのいる部屋を、そっと、のぞいてみました。
おじいさんは、机にもたれて、ウツラ、ウツラ、居眠りをしていました。
ブタもヤギもサルも、おじいさんのそばに来て、おじいさんの顔をのぞきこみながら、ささやきました。
「おじいさんは、ほんとに、やさしいよい顔をしているねえ。人間の顔って、ほんとによい顔だねえ……。では、おじいさん、さようなら」
それでも、おじいさんは、居眠りをつづけています。
とうとう、ブタとヤギとサルは、山へいってしまいました。
しばらくすると、おじいさんが目をさましました。
「ああ、よく眠った。……おや、いつも元気な、ブタやヤギ、サルの声がしない、どうしたのだろう……」
おじいさんは立ちあがって、小屋をさがしてみましたがいません。
「おや、どうしたのだろう。ブタもヤギもサルも、どこかへ遊びにいったのかもしれない」
おじいさんは、ブタ、ヤギ、サルたちの帰るのを待っていましたが、一日たっても、二日たっても帰ってきません。
おじいさんは、心配して、山へさがしに出かけました。
「ブー、ブー、ブーのブタやーい。メー、メー、メーのヤギやーい。キャッ、キャッ、キャッのサルやーい」
おじいさんは、杖をついて、トボ、トボ、歩いて、山おくへはいっていきました。
「ブー、ブー、ブーのブタやーい。メー、メー、メーのヤギやーい。キャッ、キャッ、キャッのサルやーい」
おじいさんは、つかれて歩けなくなってしまいました。
森の中の大きな木の下に、すわりこんでしまったおじいさんは、呼びつづけていました。
「ブタやーい、ヤギやーい、サルやーい」
そのときです。
山おくの森の中にきていたブタとヤギとサルは、おじいさんの呼ぶ声を聞いて、びっくりしました。
「あっ、おじいさんの声だ、おじいさんだ、おじいさんだ」
みんな、おじいさんのそばにかけよってきました。
「おじいさん、おじいさん」
「おお、おお、ブタ、ヤギ、サル、どうしてお前たちは、こんな山へきてしまったのだ……。え、どうして、わたしの家から逃げだしたのだ」
「ブー、ブー、ごめんなさいおじいさん、このブタの顔は人間の顔ににていません。だから山へきてブタの仲間にはいろうと思ったんです」
「メー、メー、ヤギも人間の顔とちがいます。それで山へきてヤギの仲間になろうとしました」
「キャッ、キャッ、キャッ、サルもそうなんです。山のサルの仲間になってしまおうと思ったんです」
これを聞いたおじいさんは、じっと、考えこんでしまいました。
それから、静かにいいました。
「ブタよ、ヤギよ、サルよ、わたしはなあ、お前たちがいなくなってさみしくて、会いたくて、たまらなくなったんだよ。お前たちは、どうであったか」
すると、みんな、かわるがわるいいました。
「ブー、ブー、おじいさん、ぼくたちもそうです。山へきたけれど、おじいさんに会いたくなりました」
「メー、メー、おじいさん、おじいさんとお別れしたら、悲しくて泣いてばかりいました」
「キャッ、キャッ、おじいさん、ぼくたち人間ではないけれど、やさしいおじいさんが大好きです。いつまでも、おじいさんのそばに、おいてください」
これを聞いて、おじいさんが、にっこり笑いました。
「ああ、いいとも、いつまでもいっしょに、暮らすことにしよう……。長い間、いっしょに暮らしていると、どんな顔をしていても、好きになるものだよ……。なあに、みんな、よい顔をしているよ。そら、ブタはブタの顔を、ヤギはヤギの顔を、サルはサルの顔をしている、それでよいのさ……。わしは、お前たちが大好きだよ。さあ、家へ帰ろう」
ブタも、ヤギも、サルも、おじいさんといっしょに、山をおりていきました。
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