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森鴎外全集

Kindleで300円で買った森鴎外の全集を読んでいる。短い作品が多いので、閑な時間を見つけては少しづつ読んでいる。まとめて読むと明治・大正の風俗に親しめて面白い。文語調の作品でもなんとか読める。

ただ、私は着物の説明がほぼ理解できない。鴎外は人物を説明するときに、人となりの説明のために、着ているものを詳細に描写をするのだが、着物を描写する用語がほぼ理解できない。

例えば、「輪の太い銀杏返しに、光沢消しの銀の丈長の根掛をして、翡翠の釵を指している。素肌に着たセルの横縞は背が高いからの好みか。帯は紺の唐繻子と縞お召しとの腹合わせである。」とか、

「薩摩絣の袷に小倉の袴を穿いて、同じ絣の袷羽織を着ている。被物は柔らかい茶褐の帽子で、足には紺足袋に薩摩下駄を引っ掛けている。」とか、

こんな文を読んだだけで、人物の映像、人物の人となりがイメージできます?

そもそも、用語がわからない。

銀杏返し、根掛、セル、唐繻子、お召し、腹合わせ、薩摩絣、小倉の袴、袷羽織、薩摩下駄。これらが何なのかわかりません。

せっかくなので調べてみた。

「銀杏返し」をウィキペディアで調べてみると、「銀杏返しは、幕末ごろ10代前半から20歳未満ぐらいの少女に結われた髷で、芸者や娘義太夫にも結われるようになり、明治以降は30代以上の女性にも結われるようになった。」

「根掛」は、「日本髪の髷の根元に巻き付けレ用いる紐状の飾り物。もともと派手な身なりの娘義太夫の芸人などが舞台で身につけていたものだが、大正頃に一般の家庭の夫人の間にも流行し気温社の髷である丸髷に飾られるのが一般的になった。」

「セル」は、平織りの毛織物のこと。カジュアルな着物に使われる生地らしい。

「唐繻子」はコトバンクによれば「絹織物の一種。練り絹糸を用い、経糸を浮かせて織った経繻子織物。中国の蘇州・杭州で産した繻子織物の日本での名称。女帯地に用いられる。」

「お召し」は、ウィキペディアによれば、「お召しまたは御召縮緬は、主として和服に用いられる絹織物の一種。羽二重などとともに最高級の素材として、略礼装・洒落着に好まれる。」とある。さらに「先染めの糸を用いた平織りの織物で縮緬の一種。江戸幕府第11代将軍・徳川家斉が好んだことから「御召」の名がある。」とのこと。

「腹合わせ」は、腹合わせ帯のこと。表と裏で異なる生地で縫い合わせた帯で、昼夜帯や鯨帯とも呼ばれる、ようはリバーシブルの帯だそうだ。

縮緬って何? 絣って何? など次々と疑問がわいてきて全部調べようとするとキリがない。リアルタイムで鴎外の小説を読んでいた人たちは、このような着物の描写を読んだだけで、登場人物が金持ちなのか貧乏人なのか、堅気かそうじゃないのかがすぐにわかったんだろう。

風俗は同時代を生きた人の間では、あたりまえで、説明するのもアホらしいくらいだけれど、時代が隔たってしまうと、全く理解できなくなる。たった30年前のバブル期の風俗だって、今の若い人に説明しようとすると骨が折れる。ものそれ自体を言葉でいくら説明したとしても、ものにまつわるイメージ、社会での受け取られ方を理解してもらうのは難しい。

鴎外が描写する明治・大正の風俗に馴染むことができれば、地続きで現在から遡って江戸時代につながれるかもしれない。それも、全集を読む楽しみだ。

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