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渡り鳥。

「もう、欲しいものなんか無いんだ。本当に欲しいのは…」
彼は確かにそう言った。
新宿の伊勢丹のメンズブランド店内。

背中を押しやり、フッと笑って、店員に合図をして、その場を離れた。

戻って、会計を済ませて、少し後ろを歩く紙袋を抱えた彼は、「何で?」をふて腐れ気味に繰り返す。

『キミは可愛いから、弟みたいに可愛い子に、着せ替え人形みたいな扱いをしても、それ普通でしょう?』

勢いよく走り寄って来て、両肩を掴まれて、
「弟だったら、深い関係になってないよね?」とムキになる顔まで『美しいな』と眺めていた。

ファッション業界で仕事を通じて知り合った、大学生の彼。

わたしの若い"燕"だ。


「Cafe La Milleでお茶したい…」と彼が目配せして来る。

『バーニーズで香水を買いたいから、付き合ってくれるなら、その後行こう』と言ったら、子供みたいに笑顔になるのだから…

無知で未熟な男性は慈しむもの。(愛しむともいう)

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出会ってから、半年以上が経過していた。

若さはいろんな意味で、素晴らしい。
好奇心旺盛だから、素直で吸収もはやい。
個人にもよる所だが、わたしの"燕"は賢かった。
わたしの本棚から、沢山の本や、映画を貪り、
わたしの好みから、バイト代から、素朴なプレゼントをくれたり、
わたしにどのような態度を取れば、相手にしてもらって、関心を向けてもらえるのかを探る。

わたしが教えたあのことも、男としてすっかり馴染んで、
女がどのタイミングで、どのように触れられれば、どのように感じるかも覚えて応じる。

「何で、部屋の合鍵渡してくれないの…?」

『ひとりが好きだから。四六時中、自分以外の人が、
部屋に居るなんて、息が詰まるから嫌』

「人を好きになるって、自分以外の人にも優しく出来るってことなんじゃないかな…?」

『会いたいときに会えれば良くない?』

男女が逆転している。

考えてたより時間は迫っていて、終わりがみえる。
突き進んでも、痛手を負うだけ。

彼は、突然、わたしの行動を管理したがり、洗濯物や食事のことや、休日の過ごし方に、口を挟むようになっていた。

自分がお母さんみたいになるのも嫌だし、ましてなれない。彼にお母さんみたいに、指示されるのもまっぴら御免。

試着室に、彼を預けた後、新宿三丁目の歩道を歩きながら、【ことの終わり】を、改めて直視せざるを得ない状況だと、気づいた。

「ねぇ、愛してるなら…」

『愛してる、なんて簡単に言うものじゃないよ』

愛ってなんだろう。


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