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ニコール。

 風が強く吹いている。あの日の風も、強かった。
体を勢いよく抜けていく、頬を撫でてゆく風が、記憶を呼ぶ。

 「もう気持ちも残ってもいない、残すつもりもない」という言葉が耳元で囁く。いつも、始まりから終りまでを用意している。縋ることも出来ないし、追うこともしない。ただ感情が迷彩色のように混ぜこぜに存在を消し、ぐちゃぐちゃになって真黒な大荒れの雨となり地を濡らす。この身を荒れ揺らす。じきに何事も無かったように白いキャンバスに戻って静寂となる。この傷ついた感情は、どんどん内面を研ぎ澄まし鏡の中の顔は透き通る。喪失の孤独が一番、女を美しくさせる皮肉。この瞬間を、香水のように瓶に詰めて持ち帰ってしまいたい。どんなに捕らえても持続しないと知っている。どんなに満たされていても闇はついて来て、もう嫌だと光りに焦がれる。

 詩的そんなものじゃない。

 「ああ、これで思いっきりハイヒールが履けるわ!」と発言したハリウッド女優のように、輝くような笑顔で、

 「ああ、これで思いっきりあの映画が観れる、本を読む時間が出来た!」と、ゆっくりと自分の為だけに
淹れられたお茶を飲むような気持ちを思い出してただけ。

 女は一筋縄ではいかないものだという話。

#エッセイ #記憶 #感情 #光 #闇 #なんだこれは #女 #ニコールでにこーる

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