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足掻く。

 手を繋いでいた。ずっと繋いでいたかった。
(真っ暗なブラックホールのようなものが目前にみえる)
このままでは吸い込まれる。
彼はその手を一層強く握りしめた。怖い…ダメだ、ダメだ、わたしは一緒には行けない…

 「ふふ、分かってるよ」と悪戯そうに振り返って笑う彼の顔をみて、緊張が緩みホッとして笑った。あれから何十年も経って、もうあの頃のわたしではない。この世で果たす義務がある。家族も居る。
「分かっているよ」と、彼はもう一度繰り返した。

 「ね?超えてしまう人と、超えられない人の違いって何だか分かる?」

 「ん?…其れって死ぬか?生き残るか?ってこと?」

 「うん、ま、今尋ねたのは、其れだな」

 「そんなの偶然でしょう?運命だと思う」

 「其れが違うんだな。生き残る人には、第三の目が備わってるんだよ。ほら、自分の額を見てごらん」

 (急いで鏡で確かめる…額の皺だと思っていた場所が開き、瞳が現れた)
思わず、怯んで、鏡を落として割ってしまう。

 「あ、此れ、夢じゃないからね!」彼は、遠い記憶と同じように声を出して無邪気な笑い声を上げる。そして、次に急に黙って続けた。
 「僕にはなかった。唯、其れだけなんだよ」

 「だから、わたしは行けなかった訳か…」

 「だから、与えられた寿命が尽きるまで、キミは足掻くんだ」真っ直ぐな懐かしい眼差しで、彼が穏やかに笑っている。

 「嫌だなあ。散々、苦しい逆境を超えて来たよ。其れも仕組まれていたシステムってことだったか…」

 「だから、キミは倒れそうで倒れない。システムには逆らう必要がない。全て流れだからね。ひとりひとり違う」

 「じゃあ、終わりまで"足掻く"わ。必死に精一杯に…」

 「其れを伝える段階で、再会出来たことが嬉しいよ。しっかり見えても、キミって揺れて危なっかしいから。彷徨う魂。気は強いけどね」

 「弱さを知ってるからこその、強さなの」

 「だから、ルートからは絶対に外れない。其れも安心しているよ」

思い煩うことなく堅実に生きろ。

 "足掻き"ながら。


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