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鳥肌。

 (あ、また…)

 ビル街の雑踏を歩いている途中で、あの視線に気付いていた。新宿副都心線、人々が足早に行き交う騒めきの中にあっても、こちらを見ているのが分かる。
何事もないように装いながら、全神経を集中して、周囲を探る。

(居ない…消えた…)


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 「それって、生霊じゃない…?」
友人のひとりに打ち明けると、彼女は開口一番に、そう言ってマグカップを指差した。
 「ほら、見て…揺れるように波紋が微妙に出てるでしょう?」
彼女のカップ内のコーヒーが、天井のライトの光を反射させ、ブラックの液体の底から何か得体の知れないものを、浮かび上げるように揺れていた。「地震じゃないし、故意に揺らしてもいないから」え?何この…
 「…。あるかも…」

(だとしたら、あの人だ…)

「一般的にはね、霊障って、"電気を通して"って言うんだけど、それは『怒り』が強い場合で、ほとんどの場合は、ジワジワと"水のように"着実に陰険に忍び寄って来るからの『嫉妬』になるのよ。そういう人間の念って、深く哀しくて、また厄介だから。念を飛ばしている事にすら、本人が気付いていない場合もあるけど、大概は、"意識して起こしている"憑いてるのは、同性ね」
彼女は、わたしの背後をジイっと見つめてから、バッグから手早く掌大の包みを渡して、「此れを玄関と寝室に、今日から3日間置いて、三日目の夜に必ず燃やして」
と、去って行った。


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 わたしが、あの人と関わっている事が、どうも気に入らないらしい。発言も気に入らない。外見も…
理由はただ、それだけ。そもそも嫌いになるのに"理由なんて後付けで構わない"って言う人もいる。
そうね、嫌いなんだから。

 あの人を独り占めしたい、その、別なあの人。
連想ゲームのように、不鮮明だった絵がその人を浮き上がらせ、色を持ち鮮やかな真っ赤に染めていく。

 寝室の鏡が割れてしまったのも、ネックレスのチェーンが切れてしまったのも、飼っている猫が、たまに玄関先でフウっと威嚇するように毛を逆立てるのも、
ただの偶然だろう…。

 でも、わたしは勘づいていました。


 何時からかって…?


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 (最初からよ)
 初めて、挨拶をした時から、貴方の思考回路図は、丸見えだったから。
だから、気を抜いてはダメよと伝えていたのに。貴方は、訝しげに頭を傾けていただけ。まるで興味有りませんとばかりに。

 (ヒト ヲ ノロワバ アナ フタツ)

 アナタ シッテイマスカ?


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 貰った包みは、三日目の夜に燃やして捨てた。


 もう、副都心線のホームや、身の回りでの、"あの視線"は消えた。
消えたというよりは、何処か他へ移動したのだろう。
時代のブームと同じく、熱狂しては虚ろう、有って無いようにされていく物象のように…

 死んだ人の霊より、本当に怖いのは、
 生きている人間。

 そう、人間なのよ。


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