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どんなワルでも味噌汁はおいしい!発酵食堂カモシカ・関さんが教えてくれた発酵の世界

こんにちは!ライターのヒラヤマヤスコです。

寒くなってくるこの時期「ああ、そろそろだな」と今冬の予定を立て始めます。それは、味噌やキムチなど、冬の発酵物を仕込むこと。

ここ4年くらいは味噌やらキムチやらザワークラウトやら、冬のあいだにいろんなものを仕込んで発酵させているんですが、手前味噌や手前キムチのおいしさといったら……。

京都で発酵が好き・気になるという人なら「発酵食堂カモシカ」の名前を知らない人はいないでしょう。ここ数年の間に一気に加速した発酵ブームよりもっと前から、京都の地でいろんなものを醸し続けてきたカモシカさん。

代表の関恵(せき めぐみ)さんとは発酵を題材にしたイベントを美食倶楽部でご一緒する予定なんですが、その前に、関さんが発酵をテーマに商売をされる理由や、発酵というテーマを京都の地でどんなふうに捉えているのかをあらためて聞きたくなったんです。

嵐山を散歩しながら「発酵食堂カモシカ」へ行ってきました。余談ですが、人が戻ってきた嵐山エリア、それでも去年に比べたら断然歩きやすかったです。

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「この網(つな)を掴まざるを得ないだろう」

ー:発酵、この数年でものすごくメジャーになりましたよね。「発酵食堂カモシカ」はいま何年目ですっけ。

「発酵食堂カモシカ」は2014年オープンなので、来年の2021年で8年目になります。製造場所&ショップである「発酵マルシェ」はその1年後に開店しました。

画像2発酵食堂カモシカの店内。

ー:ほんと、ここ2〜3年は「発酵」というキーワードが当たり前になりましたよね。雑誌やメディアで発酵のことが取り上げられる「発酵ブーム」も過去あった。こういう潮流はカモシカさんがあってのことなんじゃないかなあと、私は思っちゃうんですが。

うーん、それ、よく言われるんですよね。「発酵ブームがきたね」とか。でも、これが流行ると思ってはじめた訳ではないんですよね。

ー:では、関さんがカモシカをやろうと思ったきっかけって何なんでしょう?

前職としては医療系のコンサルティングをしていたんです。それに実家も薬局で、医療関係者がもともとまわりに多いこともあって、昔から病気や終末期への関心も高かったんですね。

医療技術はどんどん発達していますが、ひとたび病気になってしまうと医療の力でできることってじつは少ない。病気になってから何かするより、病気にならないために暮らす方が大事で。睡眠や運動……健やかに生きるために掴んでおきたい「綱(つな)」のようなものって、あると思うんです。

ー:綱。

ええ。「発酵」は食というカテゴリのなかで重要な綱(つな)なんじゃないかなと。

ー:なるほど。重要だと思ってそのうえ、まじでお店をやっちゃうっていうのがすごいですよね。

大きな変換点になったのは東日本大震災ですね。当時は千葉に住んでいて、避難の意味もかねて京都に戻ってきたタイミングで、食べ物を安全に食べる、健康に生きる手段の模索として、京都の地で発酵をテーマにした商売をしようと思いました。発酵食品には、美味しい、保存性が高い、解毒力がある、という今後も私たちの生活環境が悪くなって行った時に、どうしても必要となる要素が揃って居ました。

ブームがくるから早めにやっておこう!ではなくて、今後、世の中は「好きや嫌いを超えて、発酵というこの網(つな)をつかまざるを得ないだろう」という気持ちでしたね。


現実の都市生活のなかの発酵

画像3発酵マルシェの店内には、さまざまな発酵食が並ぶ。

ー:発酵って、いまどんどん広がりをみせていると感じていて。家々でつくる手前味噌や漬物などから、郷土食としての発酵、またガストロノミーなど専門性の高い外食の場でも発酵の技術が展開されています。「発酵食堂カモシカ」はどの層に向けた発酵を意識していますか?

個人的には発酵って広がってきたとは言え、個人的にはまだまだ発酵は一部の「意識が高いの関心事」ではないかと思っています。だからこそマスに寄り添っていきたいなとは思いますね。ある種のスイッチ的な存在でありたいというか。

ー:スイッチ的な存在……?

おっしゃる通り、発酵ってどんどんマニア度がましていますよね。それだけ掘り下げていくと深いテーマなんだと思います。ひとたび発酵の世界に入っていくと掘り下げてしまうもの。最初の入口が見えていないだけという人は多い。

なんでもない近所のおっちゃんが味噌づくりにハマる可能性だってあるわけです。私は、近所のおっちゃんが発酵にハマるきっかけになれたらいいなあと。実際、そういう方がふらっと入ってきてお客さんになってくれることがたくさんあってうれしいですね。

ー:ここをきっかけに発酵沼にハマる人生、楽しいだろうな〜!!

ありがとうございます。

ー:ただ、現代人って忙しいじゃないですか。都会的暮らしにどっぷりで、発酵ってもっと余裕のある人がするものだと思っている人が多い印象もあります。

私がマスに寄り添っていきたいという理由でもあるんですが、都市で得られる便利さ、発酵によって得られる豊かさ、両方享受してなんぼだと思うんですよね。山奥で大自然に囲まれてのんびり生きながら発酵物をつくるなんていうのは多くの人にとって現実的ではないじゃないですかじゃないですか。

ー:たしかに……。

味噌は小さな台所でも仕込むことができます。散らかった部屋だし夜も遅いし自炊はなかなかできないけど、本当は食事をちゃんとしたいという現代人は多い。

コンビニやスーパーのお惣菜を買う日だって、その側に自分で仕込んだ味噌でつくるお味噌汁があれば、忙しい現代人の現実のなかで発酵というひとつの手段が気持ちや心を楽にしてくれるし、体を健康にしてくれると思うんです。


使命はプロシューマーを増やしていくこと

画像4これはある日のわたしのお昼ごはん。手前味噌の味噌汁は身体にすっと入ってくる。

ー:私も毎年お味噌や漬物を仕込んでいるんですが、おもしろいのは手前味噌を差し入れした友達が「自分もつくりたい!」と言って翌年仕込みに挑戦したりするところ。おいしい味噌を買おうと思えば簡単に買えるのに、みんな自分でつくってみたいんだなと。

消費文化は成熟したけど、つくるという行為がまだまだ未開拓ですよね。その話でいうと、わたしは「プロシューマー」の人たちを増やしていきたいんです。

ー:「プロシューマー」?

未来学者のアルビン・トフラーが1980年に著書の中で示した概念で、コンシューマーとプロデューサーを掛け合わせた言葉になります。簡単に言えば、消費もしながら生産もおこなう人たちのことを指します。

いままでは誰かがつくったものを買うことが豊かさの指標でした。コンシューマーとプロデューサーが完全に分かたれていた。これからはつくる人と消費する人が同じ、自分自身がひとつの小さな生産者となることが貨幣経済とは別のベクトルでの豊かさにつながるのではないかなと考えています。それが未来の形じゃないかなって。

ー:いま、消費するだけの世の中に対して疑問を持つ人もどんどん増えてきている印象ですしね。

でも、プロシューマーなんだから食べるものは全部自給自足であるべきなんてことは思いません。社会的な役割分担はあるべきだと思いますし、その分担のなかでうまくやるのが楽しく長く続けていけるコツだと思います。例えば私も家庭菜園でお野菜を少しだけはつくっていますが、ほとんどは信頼できる農家さんにお野菜をつくってもらって、漬物にするのは私たちがやる……という感じです。

どんなワルでも味噌汁はおいしいもの

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ー:最後に改めて、関さんの思う発酵の魅力ってなんでしょうか。

「しみじみおいしい」懐かしさがあるところでしょうかね。誰もがおいしいものを食べたいとおもう普遍的な願いのなかで、かつ日常の当たり前に寄り添ってくれるのが発酵だとおもっています。「しみじみおいしい」はどこまでも人の拠り所になる。

どんなワルでも味噌汁を飲むときはホッとしてしまう。ホッとさせてしまう何かがある。

発酵っていろんな菌が介在します。なかにたくさんの命が詰まっているんです。つまり、発酵食はたくさんの命を身体のなかに取り入れること。自分のなかに存在する命を増やしていくこと。味噌汁を飲んでホッとする瞬間、そこには生きることの本質が詰まっているんじゃないでしょうか。

その魅力を掘り下げる入り口になりたいですし、一生をかけてやっていきたいですね。発酵は飽きませんから。


<告知>発酵食堂カモシカ×美食倶楽部。12月21日にイベントやります!

美食倶楽部では、発酵食堂カモシカさんとコラボでイベントを開催します。題して「家呑みは”発酵”で進化する〜みんなでつくる時短発酵メニュー×ゼッタイ旨い酒のペアリングNIGHT!」。詳しくは、こちらをご覧ください。

【関さんとお店の情報】

関 恵(せき めぐみ)

発酵食堂カモシカ代表。京都府出身。医療系コンサルティング会社の実務自分自身の出産、東日本大震災の被災などを経て、病気になるまえにできること=健康食としての「発酵食」に食の本質を見出し、カフェレストランである発酵食堂カモシカと、物販・製造をおこなう発酵マルシェを嵯峨嵐山で営む。

発酵食堂カモシカ 
住所:京都市右京区嵯峨天竜寺若宮町17-1
営業時間:火〜土曜:11:30〜17:00(ランチ・イートインは15時まで、そのあとはお惣菜お弁当販売)
定休日:日、月曜
TEL:075-862-0106

発酵食堂マルシェ
住所:京都市右京区嵯峨天竜寺若宮町21-2
営業時間:11:30〜17:00
定休日:日、月曜
TEL:075-748-0186





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