京佃煮「津乃吉」吉田大輔さんに聞く やっぱり「無添加」がいいの?
ライターのヒラヤマです。おうち時間が増えたり、いろんなところに取材に行くたびに調味料が増えていくんですが……。商品をチョイスする際についつい見てしまうのが添加物の欄。
「余計なものを加えずにつくっています」「保存料・着色料・化学調味料を加えていません」なんて聞くと、なんだかすご〜くいいものな気がしちゃいませんか。日々の買い物もついついそういうのを選びがちです。
でも、無添加って何がいいのか?と聞かれると回答に窮する部分もあるんですよね。
ときどき食べにいくラーメン屋だってうまみ調味料ドバドバ使われているし(たぶん)、というかサクッと行く外食でそんなことまで気にしてないし……。なんなら原稿書きながら食べてるお菓子も、商品表示を見たらグリシンだの、還元水飴だの、油脂加工品だのいろんなものが入っているけど「うまいね〜コレ」なんて言って食べたりしてるわけです。
無添加ってやっぱりいいものなの?そんな問いを聞いてみたいなと思ったのは、佃煮屋「津乃吉」の代表・吉田さん。無添加のちりめん山椒や佃煮を販売しています。
シンプルな材料と丁寧な手仕事でつくられる食卓のおとも
店舗があるのは京都市東山区・清水五条駅の近く。家族経営の小さな佃煮屋さんです。
看板商品のちりめん山椒「山椒じゃこ」はふっくら蒸しあげたおじゃこに、小豆島の杉樽仕込み醤油、遺伝子組み換え原料不使用の麦芽水飴など、厳選されたシンプル(かつ味わいはふくよか!)な調味料で味付けをし、毎日手作業でつくられています。
そして、津乃吉のすてきなところが、製造過程で出た調味料を使い切ること。
山椒じゃこを製造するときに出た、おじゃこのだしがタップリ溶け出した調味液は丁寧に回収され、継ぎ足し継ぎ足しつくられている昆布だれと合わせて、もうひとつの看板商品である「京だし」として生まれ変わります。
吉田さんいわく、塩味や甘味などのバランスが円に近い、何かが突出していない味わいを意識しているそうです。
ほかにも、山椒や椎茸と合わせた昆布の佃煮、大根と生姜を煮切った調味料で炊いた贅沢煮など、ラインナップもいろいろ。どの商品も、食べた人の舌に穏やかに染み渡ってくるおしとやかさがあるのに、気づけばご飯がごっそりなくなっています。凄腕の剣豪みたいな感じです。
取材の前に、店舗の上にあるご自宅で朝食をごちそうになったんですが、津乃吉の商品たちがずらりと並んでいて、ごはんをたくさんおかわりしてしまいました。
べつに無添加を推したいわけじゃない
あらためて。今回お話をうかがう、津乃吉の代表・吉田大輔さん。
ー:「津乃吉」の佃煮、おいしいですよね。だし醤油も。津乃吉の商品は、たとえば〇〇エキス……みたいな、食品添加物に指定されていないものも入れてないですけど、そこに津乃吉の矜持があったりするんですか?
吉田さん:う〜ん、津乃吉の商品はべつに無添加を推したいわけじゃないんですよね!
ー:あらっ!?そうなんですか。
吉田さん:そうそう。うちの父親が日常的に食べてた食べ物のレシピが元になってるんですよ。それが添加物を使っていないレシピで、商品として売り出す時に、僕たちなりに「おいしいと思う味」を突き詰めていった結果なんですよね。。HPにも書いてますよ、「津乃吉は無添加の商品が作りたいわけではありません。 美味しいものを作るのに添加物が必要なかったのです」って。
「職業 無添加」という袋小路に陥っていた過去
ー:吉田さん個人としては、添加物は悪ではない?
吉田さん:そうですね。これは人から教えてもらったんですが「食べ物のなかに敵をつくらない」という言葉を大事にしてます。津乃吉の商品は無添加でやっているし、僕自身もそれがおいしいと思っているけど、気さくに添加物が入っている食べ物を食べることだってあるわけです。どこの街にもあるようなチェーンの大衆居酒屋で、たぶんうま味調味料とかバンバン使ってるおつまみを頼むけど、街の仲間と一緒に飲む酒はおいしいと思う。
ー:うんうん。
吉田さん:その時々で身体が欲してるものって変わると思うんです。無添加であるとかそんなことよりも、食べるときにハッピーであるかどうかがすごく重要だと思うんですよ。僕がこうやって考えられるようになったのも、ある出来事がきっかけでした。
ー:ある出来事?
少し昔話になるんですが、僕自身、津乃吉が無添加であることを推していた時期もあったんです。というのも、大学を卒業して数年間、添加物をたくさん使う食品会社で働いてたんですよ。
ー:えー!?意外な過去!!
吉田さん:水と油を無理やり混ぜ合わせてミルクみたいなものををつくるとか、果汁がほとんど入っていないのに、フルーツの味がするジュースをつくるとか、そういう仕事をしてたんですよ。加工技術を詰め込んで、全然違うものからそれっぽいものをつくってしまえるという製造の裏側を知って、それを受け入れられない時期もきてしまって。だから津乃吉を継いだ当初は、添加物を批判して、うちの商品が無添加であることを強調して売ってたこともあったんです。
ー:そもそも無添加であることが重要な商品ではないのに。
吉田さん:そうそう。一番大事な「おいしい」という部分をないがしろにしてきていた。
ー:まあ実際、良いとか悪いとか以前に、世の中で販売されている佃煮の大多数に添加物が使われてますからね。
ー:その無添加強調の考えを改めて、いまの吉田さんのスタンスになったのが、さっき言っていた「ある出来事」ですか?
吉田さん:そうです。津乃吉を継いで数年後、とある飲食店さんと一緒にフードのイベントをやったんですが、その時に家族づれでお客さんとして来てくれた方がものすごく食べるものにセンシティブな人で。添加物もそうだし、産地とか、放射能とか……。出されるお皿全てを疑ってかかってたんですよね。「本当に〇〇は入ってないの!?」って。
ー:殺伐……。
吉田さん:そう!ものすごく殺伐としてて。猜疑心の中で食べたってなんも楽しくないじゃないですか。テーブルに張り付いて、お皿を睨むみたいに吟味してて、一緒に来てた子どもたちも楽しくなさそうだったし。さらによくないなって思ったのが、怪しいと思った品には手をつけないんですよね。子どもの前で、ものすごい量を平気で残すんですよ。結局、僕が提供した商品もほとんど箸をつけてくれなかった。
ー:よくないな〜!嫌いな相手だから暴力振るっていい、みたいな理論になってる。
吉田さん:その光景を見て「なんか……違う!」って思って。そのタイミングで「食べ物のなかに敵をつくらない」って言葉を別で知って、ものすごく自分自身のことも顧みました。添加物の製造現場って、科学技術でないものを生み出すみたいなことをしているけど、それを否定していいことにはならないよなと思って。
ー:否定すると、その否定の言葉でどんどん自分自身ががんじがらめになってくんですよね。
吉田さん:そこではじめて、無理やり自分が津乃吉の商品を無添加で推していたことに気づいたんです。「職業 無添加」になっていた。無添加だろうがそうでなかろうが、食べる場がハッピーなのが一番重要じゃないか!ということに思い至って、すごく自分自身が楽になりましたね。
「おいしい界」のおいしいを目指したい
ー:おいしかったらええやん!で全て済ませられるといいけど、そうはいっても、無添加であることがマーケット的に受けている部分は正直あるでしょう?
吉田さん:その葛藤は……あるよねー。会社のことや事業のことを考えると、外的に評価されている要因、つまり無添加であることを明記して売っていかないといけない部分ではあるっていうのが、正直なところ。
ー:「無添加なんだね!」という情報をきっかけに津乃吉のファンが増えるならそんなに悪いことではないのかな……。入り口は無添加かもしれないけど、津乃吉の商品ってやっぱりおいしいですからね。「普通にウマいから買う」に移行する人がほとんどではないかと思うんですけど。
吉田さん:それでいうと、もちろん買っていただく、津乃吉の商品をおいしいって言っていただくのは非常にありがたいことなんですけど。たまに言われるんですよ。「無添加なのにおいしい!」って。
ー:だーっはっは!
吉田さん:そういう評価をいただくたびに、う〜〜ん難しいな!という気持ちです(笑)。無駄なものが入っていないことを美徳とする、そこにこだわる人の中には少なからず「無添加はおいしくなくあるべき」という偏見を持った人がいる気がするんですよね。薄味であるべきとか。
ー:うま味調味料を添加すれば、安価に簡単においしくできるけど、別にうまみ調味料を使わなくても十分おいしいものはつくれるわけで。手間と製造効率の問題なんだけどな〜。
吉田さん:べつに無添加でも、うまみ調味料が入ってる商品に負けないくらいおいしいものはつくれるんですよ!とは言いたいですよね(笑)。
ー:イメージが生んだ偏見ですな……。
吉田さん:こういう目的と手段があべこべになってるケースって、食の場ではけっこうある。たとえば、オーガニック野菜にこだわる人が「キュウリがちゃんと曲がってておいしい」っていうとか。これも、自然のままに育った野菜は形が不揃いであるべきっていう偏見ですよね。おいしくすることと形をよくすることは全然別のレイヤーで語られることであるのに……。おいしくなくても無添加なら、あるいはオーガニックならよし!みたいな風潮は正直あると思いますね。おいしくすること、形良くすることは悪ではないのに。
ー:本末転倒すぎて落語みたいな話だ。
吉田さん:無添加は、おいしいものをつくるという目的のための手段だし、オーガニックは、持続可能で自然のサイクルに近いなかでおいしい野菜をつくるという目的のための手段なんじゃないかなと。それぞれは独立して考える事柄だと僕は思います。
吉田さん:無添加は味つけをしすぎてはいけない、というきらいのせいかな、スーパーで無添加を謳っている惣菜なんかを齧ると、ものすごく味が薄いことがある。もっと塩入れたらカチッと味が決まっていいのに残念だなって……。
ー:そこは戦略的に薄味すぎる味にしてるのかもしれないけど……。結果的にボケた味になるのはもったいないですね。
吉田さん:津乃吉の商品を「おいしい」って言ってもらえるのは、そりゃ、嬉しいですよね。でも無添加業界のなかでの「おいしい」ではなく、おいしい業界のなかでの「おいしい」で僕はもっと勝負がしたい!(笑)
ー:(笑)
自分が好きだからこそ意識している「津乃吉」の世の中への見せ方
HPのトップにはシズル感のある商品の画像がスライドに。見ているとお腹が空いてくる。
ー:実直に「おいしいもの」を目指してつくり続けている津乃吉ですけど、アピールポイントになっている部分が悩みのポイントでもあるというのは、すごく面白かったです。津乃吉って、佃煮屋さんのなかではずば抜けて「イケてる」と思うんですよね。
吉田さん:お、ありがとうございます。
ー:津乃吉はそのへんすごく気を使ってると思うんですよ。材料を厳選しているところ、「無添加が全てではないけど、無添加でやっているよ」というスタンス、企業理念やブランドイメージのテキストとか。津乃吉のHPのWebデザイン、商品のラベルデザインなんかも、なんだったら吉田さんのビジュアル自体も計算されているなとすごく思う。
吉田さん:多くの人に商品の魅力を伝えようと思うと、ブランドイメージがわかりやすくパッケージングされていた方が認知度が上がるというのはやっぱりあるんですよね。なんというか……それまではガタイが大きくて怖いだけのイメージの人も、キャップ被ってオーバーサイズのファッションをして「B-BOY」というカテゴリに属することでカッコいいって思われるみたいな。
ー:たとえはわかりにくいですが、言おうとしていることは非常にわかります(笑)
吉田さん:(笑)。やっぱり最初の入り口はビジュアルだったりもするじゃないですか。おいしいものを作ってますよ〜ということをわかりやすく伝えることって、おいしい界で勝負するにはすごく重要だと僕は思ってます。ただでさえ、佃煮屋の職人なんてあんまり顔が出ない職種なので。
ー:ブランディングはあるんでしょうけど、でもぶっちゃけ吉田さん自身が「そういうのが好き」なんじゃないんですか……?素材のチョイス、自動化してない製造の規模感……。そのテのものが好きな人にめちゃくちゃ刺さるんですよね、津乃吉って。HPのヘッダー画像の、家族が手繋いで鴨川歩いてる画像なんか、ブランドのために仕方なくやってるんじゃないでしょ!好きでやってるんでしょ(笑)。
吉田さん:好きでやってるーー(笑)!!言われて気づいたけど僕自身が、津乃吉のターゲットど真ん中やわ!わはは!
ー:京都で、家族で佃煮つくってて、そこで出た液体もムダなく使い切っていて、社長は洗いざらしのリネンのシャツ着てるんですよ。こんなの手に取っちゃいますよ。完成されすぎてて清々しい(笑)!
吉田さん:手に取ってしまうわ〜!
ー:「深淵を覗き込むとき深淵もまた」……(笑)。
お気づきかと思いますが、ものすごく家もおしゃれです。
ー:津乃吉の魅力は、なにであれ、おいしいことだと思うんです。おいしいものを実直につくりあげている。でも、無添加が全てではないにせよ、無添加へのポジティブなイメージを多くの消費者は持っていて。一種の安心感のものというか。
吉田さん:うんうん。
ー:そして津乃吉はおいしいうえに、お洒落な生活を想起させるんですよね。ブランドのビジュアル、社長のライフスタイル・ビジュアルも……。これは真理だと思うんですが「おいしくてお洒落」と「無添加」はものすごく相性がいいんですよ……!
吉田さん:お〜〜!
ー:そこが「おいしい界でもっと勝負したい!」っていう吉田さんの叫びにもつながってくるのかもしれませんよね。とはいえ、無添加の商品をつくっている人から、無添加が絶対的な善ではないという言葉を直接聞けてなんだか嬉しかったです。
取材を終えて
取材後はしっかり買い物!
添加物を使っていなくても、おいしくなければ食べるのが苦痛だし、無添加にとらわれて「楽しい」感情を置き去りにしちゃうのもツラい。「食べるときにハッピーであるかどうか」って、すごく大切な視点だなと思いました。
無添加にこだわりたいところはこだわりつつも(これも楽しいんですよね〜)、23時だけど食べちゃうかーって袋ラーメンすすったり、山椒昆布を小鉢に乗せつつも市販のウインナー炒めて出したりする、ハッピー最優先な食卓であろうと思いました。
(取材・文/ヒラヤマヤスコ)
取材協力
津乃吉
京都市東山区新宮川町通五条上る田中町507-8
営業時間:9:00~18:00
定休日:日曜
電話:075-561-3845
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