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ワンコたちの秘密結社「WAN_Heart」

あるところに、いつだってやさしい風が吹いている小さな原っぱがあります。もしかしたらあなたも行ったことのある原っぱかもしれません。ふとした瞬間、ふんわりとした風が頬にあたって、思わずトクンと胸が高鳴ったことってありませんか?もし今度そんな風を感じたら、目を閉じて、耳を澄ましてみてください。葉っぱたちが風にくすぐられてクスクス笑ってる声が聴こえてくるはずですから。

この原っぱが、最近とっても賑やかになりました。空に向かって大きく腕を広げていたモンキーポッドの上に、赤いハートの形のツリーハウスが作られ、毎日、いろんなワンコたちがやってくるのです。

ハートの形をしたツリーハウスは真ん中から縦に二つに分けるように観音扉がついていて、1日に一度、その扉が両サイドに開け放たれます。それにより、部屋が3つに区切られ、横に並んでいる状態になります。それぞれの部屋の中では、たくさんのワンコたちが、それぞれの役割を持ってお仕事をしています。



私は彼らがいったい何をしているのか気になってしかたなかったので、毎日のようにここにやってきては、その様子を見ていました。

そしてようやく、彼らのやっていることがわかってきたのです。

彼らはふだん、あなたたちの側にいるワンコたちです。そう、今、あなたの足元で気持ちよさそうに足を伸ばして横向きに寝ているその子。

寝ているのにどうやって働くのかって? 

よぉく見てください。時々足をバタバタさせて走ってませんか?ぐにゃぐにゃお喋りしてませんか?それは、原っぱにあるツリーハウスで働いている証拠です。ワンコたちは1日のほとんどを寝て過ごしていると思われていますが、本当は寝ている間に原っぱのツリーハウスで大切なお仕事をしているのです。

え、信じられない?

そうですよね。だっていつ見ても気持ちよさそうに寝てて、突然ひょっこり顔を出して、チョンチョンってかわいい肉球を腕にのせてくる時はたいてい、おやつの催促なんですものね。働いているなんて、思えないですよね。

では、彼らがどんなことをしているか、私が見たことをお話しましょう。




まず、右側に開くハートの半分の扉でできた部屋。

右側に開くハートの半分の扉でできた部屋

足元に、扉の内側に折り畳まれている木製のステップが出され、そこに滑車のハンドルを回すワンコがいます。ぐるぐると下から引き上げるバスケットの中には、ワンコの顔くらいの大きさのピンク色をしたハートが乗せられています。ワンコたちが運んできたハートです。バスケットの前にはハートを抱えたワンコたちでいつも長い行列ができています。この部屋は、運ばれてくるハートを保管する部屋なのでしょう。

いったいこのハートは何なのだろうと不思議に思った私は、一度、仕事を終えて帰っていくワンコたちにこっそり着いていき、ワンコたちの暮らしを覗いてみたことがあります。

それでわかったのです。
このハートは、あなたたちのワンコを想う気持ちです。ワンコが大好きなあなたたちは毎日、あなたのワンコを見て、お友だちのワンコを見て、知らない人のワンコを見て、たくさんのハートを放出しています。あなたたちの言葉でいう「愛」というものでしょうか。ワンコたちはそんなあなたたちの愛に、尾を振り、体をくねらせ、飛び跳ね、全身で喜びを表しています。

でも、時々、そのハートの中には悲しみや苦しみが混ざっていることがありますよね。あなたたちにとってはそれも「愛」の形ですから。

でもね。
ワンコたちはそうじゃないんです。ワンコたちの「愛」の形って、一つなのです。なんの混じりけもないシンプルな愛。ピュアな愛。ワンコたちはあなたたちが大好きだから、あなたたちが悲しんだり苦しんだりすると、辛くなってしまうのです。

だからね。
ワンコたちは、あなたたちとの暮らしの中で見つけたどこかかげりのあるハートを、原っぱのツリーハウスに運んでいるのです。それはもう毎日、たくさんに。

ハートはトラックや飛行機に山積みにされて運ばれてくることもあります。滑車は一つしかないので、ワンコたちがブレーメンの音楽隊のように次々に背中に乗って、扉の上によじ登って待っているワンコにハートを手渡したり、バケツリレーのようにみんなで協力し合ったり、それはもう一生懸命。

運ばれてきたハートは、扉の裏側にある棚に一つひとつ丁寧に置かれます。ハートに混ざっている悲しみや苦しみが消えるまで、しばらくの間、棚の上に寝かしておくのです。

どうやってハートの中の悲しみや苦しみを消すのかって?

その秘密も解き明かすことができましたよ。
それについては後でお話することにして、次は真ん中のハートの部屋を紹介しましょう。



真ん中のハートの部屋

真ん中の部屋は、このワンコたちのお仕事を統括しているオフィスのようです。中央に置かれた長テーブルにいつも5頭のわんこが座って、大量の書類に目を通し、肉球サインをしたり、パソコンに記録したり。目の回るような忙しさに、ついテーブルをホリホリして書類を散乱させてしまうことも。でも大丈夫。飛び回る書類を上手にキャッチして集める係のワンコたちもいます。

この部屋の真下の木の根元には、ハートにかける黄色いリボンを、ちょうどよい長さに切っているワンコたちもいます。右の部屋で寝かされているハートの悲しみや苦しみが消えたら、この黄色いリボンがつけられるようです。



最後に、左側に開くハートの半分の扉でできた部屋。

左側に開くハートの半分の扉でできた部屋

ここから、黄色いリボンがかけられたハート、つまり、悲しみや苦しみが消えたハートが、ワンコたちによって再びあなたたちの住む町へ運ばれて行きます。気球やスクーターに乗って運ぶワンコ、風船や頭にプロペラをつけて運ぶワンコたちが、窓や滑り台から次々に飛び立ちます。みんな、とってもいい笑顔で。あ、時々、飛ぶのを怖がって扉にしがみついているワンコもいますけどね。



このツリーハウスの扉は1日に1度だけ開くとお伝えしました。開いている時間は少しだけです。1日の作業が終わったら、観音扉は静かに閉まり、赤いハートの形に戻ります。そして、原っぱに静けさが戻り、葉っぱがクスクス笑う声しか聞こえてこなくなるのです。

私は、この扉が閉まる前に隙間からするりと忍び込んで、中で何がおこっているかをこの目で確かめました。

驚きました。
扉が閉じたツリーハウスの中は薄暗く、外の葉っぱの笑い声も全く聞こえてきません。その中でワンコたちが何をしていたと思いますか?

ワンコたちはただそこに居ました。
何のミッションもなく、ただただそのワンコらしく、自由に。

ほとんどのワンコたちは気持ちよさそうに、そう、あなたの足元でそうしているように、時々体をぴくぴくさせながら寝息を立てていました。疲れたのか、すべての足を天井に向け、白目をむいて寝ているワンコもいました。閉じたツリーハウスの中は見た目よりもずいぶん広く、お友達と激しくワンプロをしている子、一人でぐるぐる走り回っている子、無心にカーペットをホリホリしている子など、それぞれが思い思いの時間を過ごしていました。

「なんだ、遊んでいるだけなのね」
と扉の隙間から外に出ようとしたとき、私は見たのです。

右の扉の裏の棚に置かれていたハートが、一つ、また一つと、ぽっと内側からやわらかい光を放ちました。ワンコたちが運んできたハートがよりやさしく、より軽くなった瞬間なのでしょう。夜店に飾られた提灯のように、見ているだけで心が弾むような灯りでした。そう、彼らのメインの仕事はこれなのです。すぐに内側から光り出すハートもあれば、何カ月もその時を待つハートもあります。ワンコたちがそこにいることで、丁寧にゆっくり時間をかけて、一つひとつハートの中の悲しみや苦しみが癒され、しだいに消えていくのです。


私はワンコたちの活動にすっかり心を動かされてしまいました。実は、私も、あなたたちが小さい頃は、いつも一緒に遊んでいました。ワンコたちと同じように、あなたたちの無垢な笑顔に、胸を躍らせていたのです。

「私もまた、あの頃のような気持ちになれるのかな。」
そう思うとワクワクが抑えきれなくなって、気づけば私は、仲間たちを率いて、ワンコたちのお手伝いをするようになっていました。

ワンコたちがあなたたちの町で黄色いリボンをかけたハートを放つとき、私たちが横でふっと息を吹きかけています。するとあなたたちは、ちょっと驚いた顔をして、そして、胸をトクンと鳴らすのです。いつかのあの時のように。そんなあなたの嬉しそうな顔に、ワンコは私を見上げてしっぽを振り、「ワン」と甲高く鳴きます。あなたはいつだって「どうしたの?変な子」ってワンコの頭をくしゃくしゃと撫でますが。



悲しみも苦しみも不安も悔しさもない、ただ愛おしいと思う気持ちだけで構成されたハートは、他のどんなハートよりも強く早く誰かの頬に触れ、それを感じる人の心に、同じハートを生みます。そしてその人がやさしい気持ちになってまたそのハートを放出する。この最強のハートが町中に、日本中に、世界中に、いえ、地球上にいっぱいになるまで、ワンコたちは原っぱのハートのツリーハウスで働き続けるのでしょう。



もし、今度、あなたの頬にふんわり風があたって、思わずトクンと胸が高鳴ったら、目を閉じて、耳を澄ましてみてください。葉っぱたちの笑い声の奥に、大きなモンキーポッドの上の赤いハートのツリーハウスが見えてくるでしょう。真ん中の部屋の上には、風をよむ風見鶏と、いつも3時33分を指しているハートの形の時計、そして「WAN_Heart」と書かれた看板があるはずです。その時はぜひ、遊びにいらしてくださいね。

え、見えなかったら?

そしたらまた、私が、ワンコたちの秘密結社「WAN_Heart」の様子をお伝えしましょう。あなたがお越しになられる日まで、ずっと、ずっと。



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