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雑談meetsシネマ〈13:飛び去ったコート〉

SF映画を観ながら謎を解く、映画雑学フィクション劇場。

第13回は、酸性雨が降る東洋的なスラム街が印象的な、あのSF映画。
本当は6人? 5人?

【BR】雑談meetsシネマ_04

今日の映画は何ですか?

クマ 酸性雨の夜に東洋的なネオン輝くスラム街――やっぱ、これだな!

カントク ハリソン・フォード演じる、デッカードの鬱々とした感じもいいです。役作りがハマってます。

ショウコ 女性を背中から撃ち抜く陰キャ野郎です。

DJ レプリカント相手だし、許してあげようよ。そういうシナリオよ。

Sushi Master ‘Two are really enough’

クマ 実際、暗いからなあ。公開当初はコケてるだろ?この映画。

カントク 今じゃサイバーパンクの代名詞です。SF映画でも屈指の人気作。フィリップ・K・ディック小説の初映画化という意味でも記念すべき作品です。

雨模様は好きですか?

御簾照 言わずと知れた原作は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』――

ショウコ いらっしゃいませ。

クマ おう! 言わずとしれたリドリー・スコット監督の『ブレードランナー』だぞ。

DJ じゃ、言わなくていいわよ。

御簾照 この世界観は、唯一無二でしょうね。その後、亜流は多く出てくるわけですが。作り込まれた雰囲気がファンを生みました。

ショウコ 雨なんかは、偶然と言えば偶然ですけれどね。

カントク 野外撮影所で撮ってることを隠すためのごまかしですし。

Tyrell ‘She's beginning to suspect, I think.’
Deckard ‘Suspect? How can it not know what it is?’

クマ それが良い味出すんだから、わからないよな。俺もデッカードみたいなトレンチコート、最近手に入れてさ。雰囲気出てファンができるかな。

カントク クマさん、コートどこで手に入れました! うちの役者の衣装から“飛び去ったコート”じゃないですか?

ツケ払いをしたことはありますか?

【BR】雑談meetsシネマ_02

DJ えっ、クマさん盗んだの?

ショウコ 最低です。

クマ ちゃんと買ったよ! 古着屋で良い感じのやつを。

カントク ……そうですよね。

御簾照 どうしたのですか? カントクさん。

DJ そうよ、いくらクマさんでも盗みはしないわよ。

ショウコ お店へのツケは盗みみたいなものです。

クマ お、おい。ツケはちゃんと払うって!

カントク ……あのぉ。僕の話をしてもいいですか?

DJ ごめんごめん。

カントク 僕が演出した劇で使ったコートが無くなったんです。役者がちょっと客席にかけておいたら……。役者やスタッフは持って帰ってないし……。

クマ 客が持ってったんだろ?

カントク お客は身内ばかり、ほんの数人で……

クマ ……言わせてわるかった。

6人目のレプリカント見たかったですよね?

御簾照 でも出入りしてた人は多いんじゃないですか?

カントク 小屋の方もいれば、ケータリングさん、清掃会社さん、自販機のメンテナンスさんもいました。でも、その人たちは客席には入ってきていないんです。

クマ 分かった! 幻の6人目のレプリカントがいるんだ!

DJ 何それ?

Leon ‘Wake Up Time to Die.’

ショウコ 『ブレードランナー』で地球に侵入したレプリカントは最初、6人だってセリフがあったんです。1人はすでに処刑済み。すると、残りは5人。デッカードが出会うのは4人。残り1人が映画には出てきません――

カントク でも、それは予算の都合で、6人目のレプリカント「メアリー」を登場させられなかっただけです。なのに、先に「6人」というセリフを録ってしまい、差し替えずに公開したため幻の6人目の謎が生じました。その後、ファイナル・カット版では処刑したのは「2人」と修正されましたけれどね。

御簾照 そういう、「実は」が多いのが、『ブレードランナー』がカルト的人気を誇る理由ですよね。ご存知のとおり「ブレードランナー」も「レプリカント」も映画オリジナルの名前ですし。実は。

DJ そして、いつものとおり、クマさんの推理は何も当たっていないと。実は。

クマ ……おもしろくねえなあ。

『ブレードランナー』で好きなシーンはありますか?

DJ あっ、このシーン、怖いわよね。プリスのメイク。

ショウコ 『ノスフェラトゥ』にインスパイアされた黒目メイクですね。

Pris ‘I Think Therefore I Am’

カントク 僕はこのシーン好きですよ。慣れてないメイクって感じがまた、レプリカントの不器用さを感じさせるじゃないですか。

御簾照 レプリカントに哀愁を感じるのが、この作品の深みですよね。

カントク それに、この部屋のほこりっぽい感じ、うちの劇団には付き物ですから、親近感湧くんですよ。

クマ 衣装のコートだって安物だろ、きっと?

カントク ……そうですね。しかもその日の公演で、コーヒーこぼしてましたし。

DJ それ……いる? ショウコちゃん、『ブレードランナー』で好きなエピソードは?

ショウコ キューブリックですね。

御簾照 ……そうですね! キューブリックですよ!

クマ 分かったのか?

ホラー映画は好きですか?

DJ キューブリックって、あの?

ショウコ はい、スタンリー・キューブリック監督です。

カントク 暗すぎるラストシーンについて、映画会社から直しを迫られたのに撮影時間はなく、キューブリック監督に『シャイニング』の未使用フィルムをもらい、つないだ話ですか?

御簾照 はい。どんな映画も1人ではできません、『ブレードランナー』とて同じ。ハリソン・フォードの役作り、ディックの原作、キューブリックのフィルム……様々な要素が組み合わさった作品です。
コートも同じ。1人の仕業でなく、偶然の共犯者がいたのですよ。
コートにコーヒーがこぼされた。早く洗ったほうがいい。すると、いつまでも客席には置きません。誰かが客席の外へ移します。そして、その後、外部の方が偶然に持っていったのでしょう。

DJ 外部?

御簾照 劇場スタッフ、ケータリングスタッフ、清掃会社の方、自販機のメンテナンス。そのうち、劇場スタッフは身内でしょうから候補から外します。

クマ ならば、清掃会社か! あっ、ケータリングスタッフが間違って持って帰ることもあるか?

御簾照 あり得ます。ただし、ケータリングスタッフと自販機のメンテナンスは、外から持ち込む仕事。一方、清掃会社は内から持ち出す仕事です。クリーニングの一環で、衣装を持っていった可能性が高いのではないでしょうか。

デッカードはレプリカントでしょうか?

【BR】雑談meetsシネマ_05

カントク たしかに小屋の方には聞きましたが、清掃会社さんには聞けていません……

DJ コートが勝手に飛び去るわけないわよね。

カントク 御簾照さん、ありがとうございます。清掃会社に聞いてみます。

Roy ‘All those moments will be lost in time, like tears in rain. Time to die.’(それらすべての思い出はやがて消える、雨の中の涙のように。終わりのときがきた。)

クマ あっ、ほら、鳩が飛び去るぞ。

御簾照 ロイ演じるルトガー・ハウアーのアイデアですね。セリフも。

ショウコ このシーンも鳩は水に濡れて飛べませんでした。飛び去っていくシーンは別撮影です。実は。

DJ ショウコちゃんも好きね。

カントク ファイナル・カット版では、明るすぎる空の色はレタッチで暗くなってます。実は。

御簾照 ファンが多いからこそ、この手の裏話には事欠きません。「雨の中の涙のように」消えることはない。

クマ 俺たちの話も終わらないぞ。最大の謎、「デッカードはレプリカントか?」について語り合うぞ。

ショウコ ハリソン・フォードは人間説をとってます。

カントク 僕は――

DJ 今夜も話は尽きないわね。


イラスト 無重力尚靴履(ゼログラ)さん



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