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自走するエンジンを持つ、ということ(仮想卒業式のスピーチ原稿)。

強風が吹き荒れて、冬のコートを仕舞うタイミングを逃していますが、春はもうすぐそこまで近づいています。

今日、みなさんは卒業式を迎えました。
晴れやかな顔を眺めることができて、とても嬉しく思います。

一年間、いろいろなことがありました。
楽しいこと、つらいことがたくさんあったでしょう。

けれども最後は笑顔がいいですね。
その笑顔が強風よりも強く、寒さや不安を吹き飛ばしてくれます。

卒業式のスピーチというと、スティーブ・ジョブズさんがスタンフォード大学で行ったスピーチが有名です。

YouTubeで視聴できますが、もうご覧になった方はいますか?(ちらほら手が挙がる)。なるほど。素晴らしい。まだ視聴したことがない方は、ぜひ一度ご覧になってください。

スティーブ・ジョブズさんは、いま多くの方々が使っているiPhoneを作ったアップルという会社を創業しました。スタンフォード大学のスピーチでは「Stay hungry, Stay foolish」、日本語に訳すと「ハングリーであれ、愚かであれ」という言葉が有名です。

といってもみなさんは、気の置けない仲間たちと旅行に出かけて、ふすまを破って写真を撮るような「愚かな人」には、ぜったいにならないようにしてくださいね(あーという声と、くすくす笑い声)。

彼は「Your time is limited, so don’t waste it living someone else’s life.」という言葉も残しています。きみたちの人生は短い、他人の人生つまり他人のことばかりに関わって時間をムダにしてはいけないよ、と言っています。

要するに、自分の人生を生きよう、ということです。

永遠のようにみえる人生ですが、ふりかえってみるとあっという間に過ぎ去ります。もちろん他人に関わらないといっても、困っている誰かを助けることは大切です。そのために他人に関わる時間は尊い。しかし、他人ばかりを意識していると、大切な自分の人生を浪費することになります。

では、人生を浪費にする他人とのムダな関わりとは何でしょうか?

たとえば根も葉もない、うわさ話。他人の悪口を延々と続けること。誰かとの競争に打ち勝ち、他人を貶めようとする罠に夢中になること。会社や社会に対する、どす黒い愚痴。どうでもいい自慢話に付き合ったり、自分語りを聞かせること。自分の時間を奪う相手から、不毛な相談を受けること。

あるいは、誰かにほめられたり注目したり、構ってもらいたくて評価を得たくて、やっきになることもあります。

いいね!やスキの数を集めようとして忖度したり、策略を練ったり、奇をてらった何かを企んだりすること。それも自分の人生を生きているようで、他人に翻弄されているといえるでしょう。

SNSは貴重な経験もできますが、もし読者や他人ばかりを意識しているとすれば、他人の評価に踊らされているだけになります。ちっともクリエイティブとはいえない。

それらは、人生においてムダ以外の何ものでもないといえます。
では、どうすればいいのでしょうか?

自分のいま、ここ、そして未来に、意識を集中することです。

何かに集中した状態をフローまたはゾーンと呼ぶことがありますが、その状態に入ってしまうと他人はもちろん、あらゆる不安や悩みが消滅します。

それが自分の人生を生きることです。

どんなことでも構いません。ぴっかぴかに何かを磨くことでもいい。磨くものが自分であれば最高ですが。

他人の人生から解放されて自分の人生を生きるには、自分のこころに「自走するエンジンを持つ」ことが大切です。これが今日、私がいちばんみなさんに伝えたい言葉になります。

稲森和夫さんという日本の経営者がいらっしゃいますが、彼は人間には3つのタイプ(3本の指で示す)があると述べています。不燃、可燃、自然じねんのひとです。

まず(1本の指)不燃のひとは、何を言われてもやる気がないひと(ああ分かる、という声)。まあ、やりたくない面倒な気持ちも分かります。でも、とにかく動かない。みずから行動を起こさない。

次に(2本の指)可燃のひとは、言われたら動く。エンジンがかかる。ところが、言われた通りにしかできないひとです。サラリーマンにもいますね。エンジンを入れるのはいつも他人。評価やお金がもらえないとやらない。

最後の(3本の指)自然じねんのひとは、みずからこころに燃料を投下して、持続的に考えながら行動できる。いわば永久機関のように動き続けるひとです。こういう人物が増えることを稲盛和夫さんは理想としています。

モチベーションという言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、やる気の原動力になります。このとき、自分で問題意識つまり問いを発見し、どうすればいいのか方向性を決め、行動を起こす。誰かに言われてやる外発的なモチベーションではなく、内発的なモチベーションを創造できるひとが、自然じねんのひとになります。

自分で決めたことだから、他人や社会を責めることはできません。責任転嫁できない。ただし「やーめた」もできる。誰かから言われてそうするのではなく自分で決めて行動することが、自分の人生を生きることであり、成熟したオトナのふるまいです。

他人の評価に一喜一憂してもよいけれど、その評価に囚われたときに、自分の人生を見失うものです。

だから注目されようとして、力を入れなくても破れてしまうような弱いものを破き、公開する必要のないものを公開して後悔する。いじめも同じです。

暴力やいじめの現場にいたとしても、それが間違っていることを指摘する発想も勇気もない。というのは、しっかりとした自分がないし、自分の人生を真摯に生きていないからです。他人の面白さに乗っかることでしか楽しめない。空気ばかりが気になって、与えらえたお題がなければ自主的な表現は何もできない。

ところで、みなさんは生まれながらにしてエンジンを持っています。胸に手を当ててみてください(胸にてのひらを当てる)。

ほら、どっどっどっとエンジンの音が聞こえるでしょう?

これは人類が遠い昔から使い続けてきた古いエンジンです。いまは21世紀。EV、電気自動車の時代ですから、これから人類のエンジンは、しゅうぃーんという音に変わるかもしれません(笑)。

人間は脳だけで考えるのではなく、お腹の腸や心臓も考えているという医学的な発見があるそうです。人間は身体の臓器全体で考えている。会社組織や社会も同様といえるでしょう。それぞれの個々が考える器官として存在しています。

身体と五感をフル活用することによって、人間の思考はより高性能なエンジンにパワーアップできます。いまのところ身体のないAI、人工知能にはできない人間だけが持つ優位性です。

だからこそ、みなさんの身体を大切にしてください。
みなさんの身体は個人だけでなく、社会や地球という全体を構成するひとつの大切な存在として認識すべきです。

使い古された言葉ではありますが、身体の健康を保つことにより思考はまっすぐに働くようになります。

みなさんの健康を心から祈っています。
また、どこかで会えるといいですね。

その時を楽しみにしています。
だから、さよならは言わずに「また、いつか」で終わります。

また、いつか。どこかで!

※10分以内のスピーチを想定。

2024.03.23 BW



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