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【読書】ウィットに富んだ会話と群像劇、伊坂幸太郎さんの世界。

群像劇という小説やドラマのスタイルがある。主人公がひとりではなく、複数の登場人物による別々の物語が平行して進み、いつのまにか交わっていく形式だ。

伊坂幸太郎さんの小説を読んで引き込まれたのが、群像劇のすばらしさだった。作品にちりばめられた伏線が見事につながり、ラストには「そうだったんだ!」と膝を打つ。

群像劇を織りなすのは、凄いのか情けないのか分からない多様なキャラクターたちだ。泥棒、殺し屋、死神あるいは人間ではなさそうな何かもいる。猫はもちろん、クルマのデミオもしゃべる。こうした登場人物たちが憎めない。洗練されたとぼけた会話に魅力がある。

社会の弱者を描いたダークな側面があり、まだ伊坂ビギナーだった頃には読むのがしんどいこともあった。しかし、どの作品も文章のテンポが心地よく、ぐいぐい読める。シリーズを横断して別の作品の殺し屋が、ひょっこり顔を出す。あっ彼はどこかで読んだぞ?と本棚から引っ張り出して、登場人物の居場所を探して確認することも楽しい。

ミステリーとはいえないし、SFでもない。純文学というには厳しそうだけれど、それらのどれもでもありそうなスタイルである。気負わずに読めるクロスオーバーなエンターテイメント小説であり、独特の世界に没入する。

最初に出会った伊坂幸太郎さんの作品は『バイバイ・ブラックバード』だった。文庫の新装版が出た時期で、双葉文庫のキャンペーンに応募してクリアフォルダをいただいた。嬉しかった。

この作品は、WOWWOWでドラマ化されている。いま少しずつ観ているのだが、そうそう、そうだった!という納得の仕上がりである。インパクトの強いシーンが思い出されて、小説を追体験している。

あらすじを簡単にまとめると、5股をかけて借金で首が回らなくなった詐欺師の星野くんが、謎の<あのバス>に連れ去られてしまう。彼は過去に付き合った女性たちに別れを告げに行く。このとき婚約者である繭美という人物を連れていくのだが、組織(?)に所属する巨体の怪しい存在だ。

どう考えてもこいつと結婚するのはあり得ないだろうと思うのだけれど、過去に付き合った女性たちはみんな信じ込み、星野くんと過ごした日々を回想して「あれも全部嘘だったんだ」と同じ台詞をつぶやく。ため息をつく。けれども、どこか星野くんを憎めない。

ドラマでは、城田優さんが女装して繭美を演じていて、高身長であり、どこかロシアあたりの組織の殺し屋を思わせるような存在感があった。キャスティングがうまい。こうきたか!と嬉しくなった。本を読んだときには縦より横幅のほうが広い女性を想像していたのだけれど、これもありだ。

ところで、伊坂幸太郎さんの作品はいくつか映画化されているが、ブラッド・ピット主演の『ブレット・トレイン』は、うーん、これはいかがなものか?と思った。原作は『マリアビートル』。東北新幹線のなかに殺し屋がうじゃうじゃ集まり、それぞれのミッションをこなそうとするのだけれど、しくじって困った状況に陥る物語だ。

『マリアビートル』に登場する殺し屋にはコードネームがあり、蜜柑、檸檬、狼、そしてスズメバチ。上野駅で降りることができなかったことからトラブルが拡大していく運の悪い七尾は、天道虫と呼ばれている。彼に仕事をあっせんするのは真莉亜という女性だ。いつも簡単な仕事と言って七尾に任せるのだが、簡単に終わったためしがない。

『ブレット・トレイン』は、いやこれは日本じゃないだろ、とアメリカ人が日本を描くときにありがちな偏見に戸惑った。ついでに言わせてもらうと、アメリカ人の笑いは大げさ過ぎる。しかし、想像の斜め上をいくラストに外国の映画はとんでもないなと脱帽した。破壊力ありすぎ。

とはいえ個人的な感想をいえば、韓国あたりで映画を製作していただいたほうが、原作のノワール感とコメディの混じり合った雰囲気をうまく醸し出せたのではないだろうか。ちなみに途中までしか観ていないが、日本の映画を韓国でリメイクした『ゴールデンスランバー』は、原作に忠実な作品という印象を受けた。

そのほかの映画化された作品としては、最近『フィッシュ・ストーリー』を観た。『終末のフール』っぽいなと思いながら観ていて、後で調べたところ未読だったので、あわてて文庫を入手。原作の短編を読み直して『終末のフール』のエッセンスを入れて映画化しているのではないかと思った。

ちなみに『フィッシュ・ストーリー』の文庫では『ポテチ』にあやうく泣きそうになった。なんと映画化されているようだ。観てみたい。是枝裕和監督の『そして父になる』を連想させるテーマである。この短編では野球選手が登場するが、ベースボールつながりでは、天才的な選手を描いた伊坂幸太郎さんの作品に『あるキング』がある。

その他『死神の精度』を映画化した『Sweet Rain 死神の精度』も観たことがある。死神シリーズは、陽気なギャングシリーズとともに人気がある。

読書好きやファンとして伊坂幸太郎さんの作品について書くならば『重力ピエロ』とか『アヒルと鴨のコインロッカー』など、他にも取り上げるべき作品はいろいろあるだろうと思う。あえてベストセラーを外した作品をピックアップしてみた。全部の作品に触れてみたいけれど、10万字を超えそうになるので控えておきましょうか。

ちょっとだけ追加すると、クルマたちがお話をする『ガソリン生活』も好み。伊坂幸太郎さんの小説にハマっていた頃、小説からインスパイアされて趣味のDTMで曲を作っていた。まったく小説には関係のない曲になってしまったが、伊坂幸太郎さんの作品にはビートルズの楽曲が引用されることも多く、音楽の好みにも共感する。

伊坂幸太郎さんは、読者のエンジンにガソリンを注いでくれるような作家さんだと思う。あ、『砂漠』もいいですね。ひりひりと乾いた読者のこころを水で潤してくれることもあります。

2024.08.12 Bw

ここから先はX(旧Twitter)に投稿した自作曲と伊坂幸太郎さんの小説の読了の感想になります。

伊坂幸太郎さんの小説にインスパイアされたDTMの自作曲。

読了した伊坂幸太郎さんの小説のまとめ。



※『陽気なギャングは3つ数えろ』も読んでいますが、感想を書かなかったようです。




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