きんぽうげ
5月の野山を黄色く彩るキンポウゲ。
でも、キンポウゲという種名の花はないという。
正式和名は、ウマノアシガタ。
ツヤツヤの黄色い花が妙に色っぽい。
そして、強烈な毒を持つ。
ボクは18歳の時上京した。
その年はドロドロの一年だった。
学校にもほとんど行かず、
酒と煙草と音楽と女でドロドロの一年だった。
今でいう遠距離恋愛だった彼女は、
キンポウゲのように艶やかで、
逢う度に僕を求めた。
「会えない時間が~愛育てるのさ~」
安井かずみさんの歌詞は愛の核心をついているが、
ボクらにとっては、会えない時間が疑心暗鬼を育て、
それが過剰な愛欲となって若い二人の肉体を蝕んだ。
泣きながら電話でお互いを求め合い、
そして、彼女の告白で裏切りを知った。
酒漬けの毎日を送り、瓶ごと睡眠薬を飲んだ。
深夜の新宿で街角に咲く花に声をかけた。
その気なんかまったくないのに。
ボクの男は全く役に立たなかったのに。
ウイスキーで黄色くなった目で闇を見つめ、
ボクはデビュー前からよく知っていた、
甲斐バンドのLPを毎晩のように聴きまくった。
特に「きんぽうげ」を何度も何度も聴いた。
当時はきんぽうげという花すら知らなかった。
ただ、そこに、彼女の面影を求めていた。
憎しみと、愛欲は裏腹だ。
でもそのことに気付くには若すぎた。
ただ甲斐バンドのきんぽうげを聴くことだけが
ボクの生きる理由になった。
今でもボクの中では、好きなバンドのベスト3に、
甲斐バンドは入っている。
中でも「きんぽうげ」と「ポップコーンをほおばって」は
一番好きな2曲に変わりはない。
甲斐バンドの曲はほとんどがマイナー(短調)だ。
80年代のバンドのようなメジャー(長調)の曲は少ない。
だから、今どき流行りのCITY POPには入らない。
70年代はそういう時代だったんだ。
それが良かったんだ。
恋愛だって軽くなかったんだ。
生きるか死ぬかだったんだ。
Z世代が聞いたら笑われるかもしれないね。
でも、今でも甲斐BANDはきんぽうげを歌ってくれる。
他に「代わり」はいないんだ。
荒井由実や中島みゆきやシュガーベイブやはっぴいえんどと同じように、
みんなオリジナリティーがあったんだ。
だから、今でもボクの心をとらえて離さない。
18歳の頃の痛い思いを懐かしむだけの
ただのオヤジの戯言かもしれない。
でも、今でも、きんぽうげの花を見ると、
やっぱりあの頃を思い出す。
彼女のブラウスの胸のボタンと共に。
birdfilm 増田達彦
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