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『流浪の月』凪良ゆう著

せっかくのゴールデンウィークだというのに、首都圏では3度目の緊急事態宣言が発令となった。

ギリギリの発令により不満の声が大きくて、こんなんじゃ誰も守らないだろ!と国を疑う反面、いろんな事情があるんだろうなあ、と政治家の立場を慮ったりもしてる。

かくいう私は、長期連休はぐだぐだ過ごし、思いっきり暇を味わう派なので、わざわざ声高々に宣言して頂かなくても引きこもるのです!
インドア万歳!

今回は、2020年本屋大賞受賞作、
凪良ゆうさんの『流浪の月』についてレビューします🌝

①あらすじ

両親と別れ、母方の叔母の家に引き取られた主人公の家内更紗(さらさ)は、9歳の時、誘拐事件の被害者となった。公園で更紗に声をかけ、一緒にマンションで2ヶ月ほど暮らした19歳の青年・佐伯文(ふみ)はその犯人と逮捕され、誘拐された小学生が警察官に抱えられ泣き叫ぶシーンは居合わせた人の携帯電話で撮影・拡散されていった。その後も更紗は「傷物にされた可哀想な女の子」、文は「ロリコンで凶悪な誘拐犯」としてレッテルを貼られ続ける。そして事故から15年過ぎ、24歳になったある日、更紗は偶然文と再会する。その外部からは見えない真実や、恋愛でも友情でもない言い表しにくい2人の関係性を描いている。
(Wikipediaより)

作者の凪良ゆうさんはラノベの分野で活躍されていた方だそうで、私にとって初めての凪良作品だった。
去年の本屋大賞受賞作ということで、いまだに書店でも平積みにされて並ぶ今作に、期待しながら読み始めた。

更紗と文の関係は、周囲からは理解されない、形容し難いものだった。
小児性愛者である文と、両親がおらず叔母の家に預けられている更紗。偶然出会ったふたりは、文の家で過ごす2ヶ月間、お互いが抱えている生きづらさを、お互いの存在で埋めていた。

そこには性的な接触もなかったのに、
「誘拐」「監禁」「ロリコン」
これらのパワーワードで世間に放たれた"事実"に、ふたりは一生翻弄されていく。

"事実と真実はちがう"
ということが、本作における最大のテーマになる。

②感想

「少女誘拐監禁事件」
とかいう見出しのニュースを何度か見たことがある。
「気持ち悪い」とまず思う。
犯人に対しての嫌悪感と、同時に被害少女に対する辛い思いをしたに違いないという同情心。
どんな犯罪よりも、通常とは違う性的嗜好が顕著に出ている性犯罪ほど、不快なものはないと思う。

しかし、実際に更紗と文の間には、私がニュースを見て想像するような事実はなかった。
ふたりは、ただふたりにとって居心地の良い空間で楽しい時を過ごしただけだった。
本当は自由な少女なのに、伯母の家で怯えながら生きていた更紗と、厳しい親に育てられ、普通とは違う秘密を抱えた文。
別に秘密を打ち明けることはなくても、一緒に居るだけでお互いの欠陥を満たせる存在というのは、普通にある関係性だと思う。
だが文は逮捕され、この関係は「更紗ちゃん誘拐事件」として報道されてしまう。

誘拐されたという"事実"により、更紗はどこに行くにも可哀想な被害女性という扱いを受ける。

多くの人の中にある『力なく従順な支配者』というイメージから外れることなく、常にかわいそうな人であるかぎり、わたしはとても優しくしてもらえる。世間は別に冷たくない。逆に出口のない思いやりで満ちていて、わたしはもう窒息しそうだ。

誰に何を伝えてもわかってもらえない。
私は別に何もされてない、という本人の訴えは、「更紗ちゃん誘拐事件」に簡単にかき消される。
どうして誰も彼女の意見を聞かないのかと憤る気持ちもありながら、でももし私も被害女性に会ったとしたら、辛かったんだろうなと同情してしまうと思う。犯人は悪くない、と言われても、洗脳されたんだろうか、とか勘繰ってしまうかもしれない。
もし自分の善意が誰かを傷つけていたとしたら、とても怖いと思った。

「誘拐事件の犯人」となった文は、名前を変え、喫茶店で働いていて、そこで更紗と再会する。次第に会うようになるふたりに、また事件の影が忍び寄る。
関係性を説明することも、理解してもらえないことも疲れ、ただただ求めてもいない忠告を受け入れるふりをするのは、どんなに辛いか、想像も出来なかった。

わたしたちは親子ではなく、夫婦でもなく、恋人でもなく、友達というのもなんとなくちがう。わたしたちの間には、言葉にできるようなわかりやすいつながりはなく、なににも守られておらず、それぞれひとりで、けれどそれが互いをとても近く感じさせている。
わたしは、これを、なんと呼べばいいのかわからない。

関係性に名前をつける必要なんてないのに、どうして説明できないといけないのだろう。
本人同士の問題なのに、なぜ周囲の理解を得る必要があるのか、終盤は悔しい気持ちしかなかった。

事件当日、更紗も文も、お互いの存在意義を、言葉にして説明できるほど大人じゃなかった。
だから大人の理解を得られなかったせいで「事件」になってしまったと思っていたけど、むしろ、大人になってからのほうが言い表せない関係の方が多いとも思う。
ふたりは、やっぱりお互いに出会うのが早すぎた。

事実と真実はちがう。世間が知ってるつもりになっている文と、わたしが知ってる文はちがう。文は相手が嫌がることを無理強いする人じゃない。わたしは、それを、真実として知ってるの。

更紗は、文と一緒にいるとき、すごく強くなる。真実は大切な人にだけ伝わっていればいいと思う。
だけど、事件に振り回され続ける二人の運命がただ悲しかった。

ラストはふたりが幸せそうであったことが、唯一の救いだった。

③まとめ

普段は割とさらさらと感想を書くのに、今回は感情の整理が難しくて、悩みながら書いた。

ふたりは出会わない方がよかったのか、と問われるとそれはNOだと思う。
どんなに辛い運命でも、多分出会わなければ苦しすぎてもっと最悪なことが起こったかもしれないし、逆にこんなにも大切に思える人と出会える方が幸せと言えるかもしれない。

さすが本屋大賞受賞作は期待を裏切らない面白さだったなあ、と書店員さんたちの審美眼をこれからも信じようと心に決めたのでした😍🍧

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