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デンマークでサッカーをする-2

 

 正直、 デンマーク人と一緒にプレーするのは、試合中のコミュニケーションを考えると非常に難しい。試合中に聞くデンマーク語は、活き活きとしてとてもいい。試合中はほぼ私は喋れない状況だが、ひとつひとつのプレーに指示をだしてくる。
 上手い下手というレベルで判断ではなく、いかに組織的にプレーできるかがカギとなり、ホントに試合前よく話し合い、試合中の指示も多くなる。自分のミスを認めないこともしょっちゅうで、時には言い合いに発展する。基本的に中盤のボランチやセンターバックをやりたがる者が多く、ゴールキーパーはみんなやりたがらない。ここでは積極的に自分がやりたいところを声に出し、アピールする必要がある。私は、スピーディーでよく走れる(デンマークのマラソン大会で良い記録を残した)私のことをみんな知っていることもあり、自然によく走るサイドバックのポジションをつとめることにした。 
 デンマークのサッカーは、「一人サッカー」や「個人技」をあまり好まない。攻める時には組織的に、守る時にも組織的にというようにプレーする。試合がはじまると、まるで私が大好きなデンマーク代表のサッカーを見ているように、パスを回し、攻める。デンマークではサッカーに限らずスポーツとなるとかなり熱くなる。試合中にもヒートアップすることも多い。「勝ちに行こうという意識は強いが、一人よがりにならない」というのがデンマークサッカーなのだ。個人的な感想だが、日本のサッカーは、相手を意識しながら戦う仕草が見られる。相手が強そうとか、弱そうとか、そして少し遠慮をしてしまうように見える。デンマークでは遠慮などしていると逆にケガをするかもしれない。ガツガツ来るのだ。


写真は本文と関係ありません。

 前回、2020欧州選手権で起きたエリクセンの悲劇に触れたが、混乱するサッカースタジアムで、エリクセン救済に際し冷静な行動をしたのがデンマーク代表キャプテン・シモン ケア (Simon Kjær)だ。心停止で倒れたエリクセンの気道を適格な判断で確保したシモンは、混乱するエリクセン選手の妻に掛けより声をかけて落ち着かせるなどした。彼のとった一連の行動は、世界的に賞賛された。が、これはシモンの個人技ではないと思う。これもまたデンマークの組織的プレーが生んだファインプレーではなかったかと思う。また後のインタビューでシモンは「デンマークチーム限らず、相手チームにも同様な事故が起きれば自分は同じをことをしただろう」という主旨のことを話していた。 

 今回、唯一の外国人(日本人)だった私は、最初から相手チームにマークされていた。でも相手チ-ムのデンマーク人が、自分たちより背丈が小さい者に素早く動かれるのを嫌がることをよく知っていたので、私は何度かエグいプレーをした。私は左サイドバックを守っていたが、試合中、プレー的に前が良いと言われ、左のサイドのウイングを任せられた。センターバックに入っていたウフェとエリックのコンビ、前線にいるマーチン。私はほぼ、マーチンにボールを渡していた。マーチンは私を信頼してくれ、「ユータローからもらったパスでゴールを決める」と自信満々だった。私が少しでも相手の裏を取ろうとする動きを見せると、ウフェとエリックが愛情のあるパスを何度も出してくれた。彼らからもらうパスには「いつも子どもたちを楽しませてくれてありがとな。ユータロー」と、まるで私にメッセージを送ってくれていたようだった。試合はあっというまに終わり結果はドローだった。相手はほとんど10代、20代チームの若者だったが、試合はホントに楽しかった。

 試合後はマーチンとウフェ、エリックと話した。
 「Hvornår kommer du hjem?」(いつ日本に帰ってしまうの?)
と聞かれ、ああ、もう少しでさよならだ、と実感した。みんなに 「Vi ses」(またね) と言い、一人になって空を見上げた。賑わったお祭りが終わった後の寂しさを感じていた。過去にデンマークでケガをことがあり、今回の試合は「リベンジマッチ」にもなるかもしれないと思っていた。しかし実際は、この日の試合は「メモリアルマッチ」になった。何度デンマークに来ても思うことは、楽しみから寂しさに変わるこの感じ、何度デンマークに来ても変わらない。はじめてデンマークに来た時も同じような思いをした。やっぱり私はデンマークが好きなんだなって思いを空に打ち明けていた。
(この項終了) 


著者紹介 遠藤祐太郎(えんどう ゆうたろう)
1986年東京生まれ、20066年日本児童教育専門学校卒業。
2009年に保育士資格を取得。
立川市内の保育園に勤務した後、2014年8~12月までオレロップ体育アカデミー(フォルケホイスコーレ)留学。
2015年2月~8月までデンマークのベァネゴーン イ オレロップ保育園に勤務。同年8月帰国。2018年『デンマークで保育士-デンマークの子どもたちからもらったステキな時間』を出版。
現在は都内の私立保育園と学童に勤務。趣味はスポーツ。



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