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家族のネコ 2024/2/29


お昼ごはんはワカメごはん、ぶりの塩焼き、かぶの焼いたの、胡麻豆腐、しゃくし菜漬け、お味噌汁はキャベツとおあげ。


実家のネコが亡くなった。
クロ子さんという16歳のおばあちゃんで、おなかに水がたまってしまったらしくここ数日で急な体調不良と逝去だった。

姉から電話が来た時、ひどい鼻声を「花粉症かしら」と思ったが、泣いてたのかアレルギーだったのかは聞けていない。

トラック移動式のペット火葬屋さんに来てもらう予定らしい。19:30から火葬だけど、予定どう?と聞かれ、オンラインで参加したい、と回答した。東京の実家でのお別れ火葬は、大阪にビデオ電話をつないでもらうのが通例だ。

実家は昔から動物を多頭飼いしていて、これまで何度か火葬が催されている。母と姉が実家で見送り、わたしが大阪からオンライン参列する。これはうちの動物たちとのお別れの定番。

時間まで仕方なく仕事を進め、19:30になり姉から着信をもらってLINEのテレビ電話をつなぐ。横たわった黒猫が映り、「見えるー?クロ子さんよ~」姉がその姿にクロ子さんの声をアテレコする。

実家の前に停まった軽トラックは運転席より後ろ側全部が火葬設備になっている。窯なのだろう、銀色の大きな箱に、映画で観る銀行の大型倉庫のような丸くて重そうな扉があり、その中に体を入れるのだ。扉の手前は台になっていて白い布が敷かれ、黒猫。

クロ子さんはわたしが最後に姿を見た時と変わっていないように見える。少しほっそりはしたかもしれないが、毛艶もいいし、目元もきれいだ。ただ不思議なもので寝ているようには見えない。死んでいることがよく分かる。手足のこわばって伸びている様からだろうか。これまで何匹か見送ってきた全員、しっかり死を感じる姿だったことを思い出す。

クロ子さんの周りには彼女の愛用品や好きなものが並べてある。ちゃおちゅ〜る、カリカリごはん、ぬいぐるみ。

「クロ子さん、また会おうねー、待っててねー」母が撫でながら何度も言っていた。姉がクロ子さんの声真似をして応える。「あらーお母さんはいつ死ぬの〜?」そういうジョークを言い合う家庭だ、うちは。なお、我が家は各動物にその性格・キャラクターからイメージされるセリフと声が姉によって当てがわれ、このようなアテレコやり取りが年中交わされている。姉は器用に最大7匹を演じ分けている。

葬儀社のお姉さん(火葬軽トラの運転手であり、焼く人でもある)が神妙な声色で案内をはじめる。お別れが近い。クロ子さんの周りにお花を並べる。たくさんの色とりどりの花だ。かわいいな。クロ子さん良かったね。
「首輪は外されますか?」「あ、はい、そうですね」「あちらでは必要ないと思われますので」というやり取りが印象的だった。天国では首輪不要か。


納棺。

最後まで何度もナデナデされていた。母はずっと泣いていた。姉はアテレコと全体の世話と私へのビデオ通話カメラワークで忙しそうだった。

この後トラックは煙を出しても迷惑にならない広い場所に移動して遺体を焼いてくれる。2時間程度で戻ります、と車は去っていった。
2時間後戻ってきたら電話するね、と姉が言い通話を切った。


切ると、ひとりでパソコンに向かう気にはなれず、なんとなく台所に立つ。キャベツを刻んだり、ほうれん草を茹でて処理したりと細かい用事をした。もんじゃの準備をしてビールをあけた。

もんじゃを作りながらゆっくり食べているとまた電話を受ける。焼きあがったのだ。

骨上げ。

葬儀社のお姉さんが骨の部位について解説してくれて、母と姉が拾い上げて骨壺におさめていく。

クロ子さんとわたしはものすごい仲が良かったわけではない。猫アレルギーのわたしはあまり実家の猫たちと関係性を深められず(飼うこと自体あまり歓迎していなかった)同居人といった感じで、顔を合わせたら挨拶するし、たまにごはんを用意したり撫でさせてもらう位の間柄だった。帰省しても特に歓迎はしてもらえないが、逃げられはしないし、滞在中に一度は膝に遊びに来てくれる。クロ子さんは、わたしがアレルギー反応に耐え切れず母の膝に移動させるまではゴロゴロと喉を鳴らしてくれていた。

火葬に参列するというのはとっても家族な行為だ。

黒くふわふわだったクロ子さんが白く細い棒に変わっている。あの毛並みはもう触ることはできないのか。

クロ子さんの背中に手のひらを乗せると、密で豊富な毛量がダイレクトに伝わる。ふわっとしたやわらかな弾力、これが他の子に比べて厚く深く、一本ずつ主張するとがった毛質なのにやわからかい毛並みで、手のひらにツヤを感じるようなつるっと感があった。そしてさらさらとしていて飽きが来ない。少しでも撫でるとすぐゴロゴロ言い、ナーンナーン鳴きながら喜ぶ子だった。隙あらば母の膝の上へ登り甘え「しつこい子だねぇ」と撫でられていた。

そんなことを考えながら、壺に納められていく骨をスマホ越しに見ていた。


今日のすげえ

葬儀における姉のカメラワークが回を追うごとに上達していてすごい。


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