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化学肥料と環境再生型農業の未来~食卓を支える化学肥料の現実

前回の投稿から大分時間が空いてしまいました。ここ数ヶ月、ミテモのDeeperというメディアに関心分野の記事を寄稿しています。

※本記事では、Deeperの記事では紙面の関係上、省略してしまった箇所も含めて紹介しています。

廃棄物から有機肥料への転換

前回(7月)には、廃棄物/リサイクルの記事を上げましたが、今回は、これに続き、化学肥料、有機農業、環境再生型農業について、全4回の記事を寄稿しました。

<以下は廃棄物/リサイクルについてのDeeperの記事>


有機廃棄物(食品残渣、農業残渣、生ゴミなど)は日本では焼却処分が主流となっていますが、堆肥化(コンポスト化)や飼料化も行われています。しかし、作っても売れないのが現実です。

一方で、化学肥料は環境負荷の観点などから世界的にも削減が求められています。

化学肥料は世界にどのような恩恵を及ぼしてきたか?
そして、なぜ、今になって削減が求められているのか?
をまずは2回に渡り化学肥料について取り上げました。

79億人の食卓を支える化学肥料の危うい現実

第一弾は化学肥料の歴史や現状把握から。
「化学肥料は世界の人口増加に欠かせない大発明であり、化学肥料の使用量は世界全体で伸び続けきたということ。」


そして第二弾は、化学肥料の何が問題なのか?ついて整理しました。
詳細は記事を見て頂くとして、N2Oの話、炭素貯留の話、環境汚染の話、土壌生物の話、生物多様性などの話になります。


環境再生型農業~持続可能な農法へのトランジション

そして、第三弾は、本丸の農業(農法)について
なぜ、有機肥料は捨てられてしまうのか?化学肥料の代替にならないのだろうか?
そこで、有機農業とはどういう農法で、最近叫ばれる環境再生型農業とは何かについて整理しました。

そして、最終回となる第四弾では、「なぜ、環境負荷の高いこれまでの農法とは決別し、持続可能な農業に今すぐ転換しよう!」といかないのか、その背景について説明し、社会全体で持続可能な農法に切り替えるためのポイントを解説しています。。

全4回で4万字近くになるボリュームでありながら、読んでくださる方も多く、好評を頂いております。
元来、物書きが苦手な私ではありますが、皆様からのフィードバックは大変励みになります。

さて、このノートでは、Deeperの記事には紙面上含められなかった点を2つ紹介したいと思います。

(1)農業は規模の経済が働かない?

一般のビジネス、商売は”規模の経済”が働きます。規模を大きくすれば、安く材料を調達できるし、管理や運営にかかる手間も効率的になります。

しかし、農業というビジネスにおいては、「必ずしも、規模の経済(大規模化することで単位あたりのコストが低くなり収益性が上がる)は働くわけではない」というのが現在では定説になっています。
(一昔前は、農業でも規模を大きくすれば、単位生産あたりの費用が下がり効率的になると言われていました。)

つまり、農業においては、大規模化による効率化のメリットを得られない(得られにくい)と言われています。

以下、英文の記事だがわかりやすく説明しています。
「神話1:大規模な農業が今日世界に供給」「神話2:大規模な農場はより効率的」が誤りであることを解説しています。

上記の記事のうち、関連する部分の要約です。

神話1:大規模な農業が今日世界に供給
最近の国連食糧農業機関(FAO)の報告によると、家族経営の農家が世界の食糧の4分の3以上を生産しています。
FAOによると、世界の農場の3/4は1ヘクタール( 2.5エーカー)よりも小さい農場であると推定してい ます。
神話2:大規模な農場はより効率的
大半の工業/製造業では、大規模なほど効率であり、単位生産あたりの投入量は小さくなります。作成する総量が多くなるほど、単位数量当たりの生産はより安く効率的になります。
しかし、農業は違います。1989年の全米研究評議会の調査では 、「適切に管理された代替農法では、多くの場合、従来の農場よりも生産単位あたりの合成化学農薬、肥料、抗生物質の使用量が少ない」と結論付けています。

機械化は大規模な農場において、コスト削減と労働生産性を向上させますが、大規模な農場は必ずしもより多くの食料を生産するとは限りません。1992年の国勢調査の報告によると、小規模で多品種な農場は、大規模農場と比較して、1エーカーあたり2倍以上の食料を生産しています。

世界銀行は、食料安全保障が大きな課題である発展途上国においては、小規模農園のほうが、大規模農園よりも食糧生産の向上に向くと、支持しています。大規模な農場はトウモロコシや小麦などの特定の作物を大量に生産することに長けていますが、小規模かつ多様な農場は1ヘクタールあたりに、より多く、かつ多様な食料を生産できます。

上記の記事をみても、大規模農園と比べて本当に単位あたりの収穫高が高いのかはわかりません。
しかし、気候のボラリティや国家の食料安全保障リスクを考えた場合、小規模農家が多様な産物を生産する現在の流れを止めて、
大規模な単一作物のプランテーションを増やす方向には動いていません。

つまり、記事に取り上げた環境再生型農業にしても、大規模農場を前提に考えるのではなく、世界の主流を占める小規模農家の間で浸透させなければなりません。

それゆえ、記事中にある小規模農家への移行のインセンティブが重要になります。

(2)日本の耕作地は有機農業に適していない?


日本において有機農業が浸透しない理由は記事中にも含めました。
しかし、耕作地としての適正については本論から逸れることもあり、記事からは省略しました。

日本は土壌そのものに課題を抱えていると言われています。
私自身は土壌や農業の専門家でもないので、正確なことは分かりませんが、日本の土地は”農業”に適していないと指摘されています。

日本の土壌は肥沃で物理性もよく、微生物が棲みにくい環境ではありません。しかし、「アルミニウムなど重金属の含有量多く、化学肥料がなければ農地として高い生産性を出せず、化学肥料が普及するまでは農地としての利用が進んでいなかった地域も多い。」(例えばリンと結合して植物にとって吸収しづらい形になるなど)とされています。

以下の記事から抜粋します。

黒ボク土に多く含まれている活性アルミニウムと粘土のアロフェンは、リン酸との結合力がきわめて強くて、ひとたび結合したリン酸を容易には解放しない。土壌は、一般に、リン酸と強く結合するが、黒ボク土の場合は他の土壌に比べてとくに強くリン酸と結合する。このため、黒ボク土では、植物がリン酸欠乏になって、生育がきわめて悪くなってしまうのである。
(中略)
前述のように、黒ボク土には大きな欠点があって、このことが、農耕地としての開発を困難にしてきた。弥生時代に日本列島に伝来したとされている水田稲作の伝播についても、黒ボク土地帯を避けて移動したことが知られている。
(中略)
このような、農耕地として不向きな黒ボク土地帯が開拓されるのは、土壌肥料学の研究が進んだ近代になってからである。

黒ボク土は、通気性や排水性がよく、また一方では、保水性もよい。また、土壌が軟らかくて耕しやすいという長所もある。このため、黒ボク土は畑の土壌としてはきわめて物理性がよくて、作物の栽培に適している面もある。化学肥料あるいは有機質肥料として多量のリン酸を施用すれば、作物の生産量は他の土壌と同等か、それらを超える場合も希ではない

「火山国ニッポンと土壌肥料学」より

(他参考:[理化学分析センター担当者コラム]より)

火山国の日本では、北海道、東北、関東、中国、九州地方の丘陵地、台地を中心に広く分布していて、畑や牧草地などの主要な土壌となっています。土壌がリン酸を強く結びつけるために作物はリンを吸収しづらく、かつては、生育に適さない土壌でした。しかし、リン酸肥料が普及したため、柔らかく水分保持力が高いという良好な物理性もあって、現在では広く畑作物が栽培されるようになりました。
「代表的な日本の農耕地土壌1」(農環研ニュース No.107 2015.7)より

日本の農耕地の26%が黒ぼく土である。元来の土壌特性から、化学肥料を削減し有機肥料への移行が難しい要因の一つとも言われています。

私自身、日本の土壌は肥沃だと思っていたので、上記の話は意外でした。


さて、せっかくなので記事の中で省略した話も紹介してみました。
今月(10月)からインドに来ております。廃棄物処理、特に都市の有機廃棄物(Municipal Solid Waste)の好気性発酵(Aerobic Fermentation)について調査をしております。この分野に関心がある人、ぜひお話しましょう!


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