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外資企業から注目が集まる?~セルビア視察②

前回は、地政学や歴史の話を中心に書きました。
今回は、経済、産業について。


国外からの誘致に積極的なセルビア

現政権になり、国外からの民間企業誘致を積極的に進めているセルビア。

国外の大手企業にとってセルビアの魅力を纏めると・・・

■ヨーロッパ、中国、ロシアへのアクセス

地理的にヨーロッパとロシア・中国の間に位置するバルカン半島。どちらへも陸送できる強みに加えて、
欧州・ロシア・米国等への特恵関税制度・FTAによる無関税での貿易が可能です。

前回の記事でも述べたように、EU、中国、ロシアと良好な外交関係を築いており、ヨーロッパ諸国にも、中国・ロシアにもどちらにも行ける立地は優位性があると言われています。

2019年10月には、ユーラシア経済連合(EEU)の4か国目のFTA締結国になっています。


■安価で質の高い労働力

セルビアの平均給与が500ユーロ程。ドイツの平均給与(フルタイム)が4500ユーロ程度なので1/9ですね。

現地でお会いした方は、安価な労働力を強みに上げる一方、
正直、賃金が安い事を堂々とアピールするのは嫌だと感じている人も多いです。
『人材が割安なのが魅力ですよー』って当人たちにとって気持ちよいものではないですよね。。


■EUと比べて緩い規制

環境規制、労働規制を始め規制の厳しいEU。
EUに加盟していないセルビアは、規制が甘い事も企業進出のインセンティブになっているようです。

上記の労働力についても、独仏は厳しい労働規制、強い労働組合があります。
EUに加盟していないセルビアの労働規制は緩く、労働時間、拘束時間、残業、職場環境など、(良く言えば)柔軟に雇用できます。

もちろん規制がない事で負の面もあるわけですが、セルビア内のドイツ企業で働く方からは、
『特にドイツは労働組合も強く、職務範囲が明確に決められている。うちらは気にしないから、複数の業務を横断で担える。ドイツ本社で働いていた時よりも色んな仕事を任せてもらえるので楽しい』という話も聞きました。

国内で環境規制が強まる中、セルビアのようにまだ環境規制が厳しくなる前の国で操業する工場もあり、大気汚染など深刻な環境問題に面しています。

セルビア政府も環境汚染は認識しつつも経済優先で黙認していると、不平を漏らす人も多いです。
先月4月にセルビア政府は、中国の鉱山採掘企業に対して停止命令を出しましたが、『これまで環境省が全然動かなかったのに、画期的!』との声もあり、まだこういう事例は少ないようです。

上記は中国企業の例ですが、EU諸国の企業も環境問題を引き起こしているという話は聞きました。

協力な誘致インセンティブ

上記に加えて、セルビア政府は外資企業の誘致を積極的に進めています。
法人税の軽減税率、初年度の雇用に対する報奨、土地の優遇提供などかなりのインセンティブを出しています。

実際、FDI流入も2012年には1009Mユーロだったところ、2019年には3815Mユーロまで4倍近くに伸びています。
参入する産業としては、自動車関連メーカー、食品加工業、機械産業などになります。


日本企業の進出も進む

内戦以降、日本企業の進出は積極的ではなかったようですが、ここ1-2年で大きく盛り上がっているようです。

元々、2006年に日本たばこインターナショナル(JTI)が進出して以降は、2011年にパナソニックが照明器具部品の工場のほか、
NTTデータ、矢崎総業(自動車のハーネス)、前川製作所(冷蔵冷凍施設)。商社は伊藤忠や三菱商事が積極的に展開しています。

昨年にはトーヨータイヤの新工場設立
今年は日本電産がEV用モーターの新工場の設立を発表しています。

伊藤忠は、前回記事で紹介した廃棄物処理場以外にも、三菱パワーと石炭火力発電所の排煙脱硫装置(円借款)、糖度の高いイチゴの日本向けの輸出もしています。


果実で有名な肥沃な農業地帯

セルビアは肥沃な土地で農業が盛んな国でもあり、EUへの冷凍果物の最大の輸出国の一つとなっています。(フランスでは最大、ドイツでは2位の輸入先)

人口700万人と小さい国な中、プラムは、中国に次いで世界2位の生産国。ラズベリーは、ロシア、米国に次いで世界3位の政策国です。

スーパーにも、ストロベリー、ブラックベリー、ラズベリー、など色々な種類のジャムが売られています。

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豊富にとれる果実から作られるセルビアで最も愛されるお酒がラキヤです。
発酵させた果実から作られる蒸留酒であり、アルコール度数が40度から60度と非常に強いお酒です。

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度数は高いのですが、果実から作られており、とても飲みやすいお酒です。
食前酒で飲まれることもあり、すきっ腹に強い酒を入れるので、飲み過ぎに注意です。

私もカフェで会う打ち合わせでも、夕方以降はラキヤを進められることが多く、日中にセルビアンコーヒーを飲み過ぎた時は、コーヒーではなく、ラキヤと水を注文していました。

自家製のラキヤも多く、家庭の味があるようです。
EU加盟後は自家製のアルコール酒製造は禁止になると言われ、ラキヤを愛するセルビア人から不満が上がりそうです。

また、ワインの生産も盛んで、56,000ヘクタールのブドウ園があり、年間約2億3000万リットルのワインを生産しています。

大小130以上のワイナリーがあるそうですが、大半は家内工業の小さなワイナリー。
私もNovi Sadの隣のワイナリーの町、sremski karlovciでワイナリー巡りをし、美味しいワインを堪能してきました。

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ただ、多くが家内工業で、安定した量の供給ができないため、美味しいワインでも、海外にはあまり出回っていません。日本にはほとんど入ってきていないようです。

美味しいワインでも、小さいワイナリーでは首都のベオグラードにも卸しておらず、その場か近隣の町にしか卸していない場合もあるようです。

観光の話になったので話を戻します。

農業でいえば、果実に限らず、トウモロコシや小麦の重要な生産地でもあります。


R&Dセンターを誘致するも、持続可能な発展へ課題も

安価な労働力をメリットにした工場の誘致だけでは単なるアウトソーシングの場になり、持続的な経済発展には繋がりません。
そこで、外資企業のR&Dセンターの誘致も進んでいるようです。

高度人材の大量採用は長期的な技術力、経済力の底上げにつながるので政府としても勧めたいところ。

そんな中、第二の都市NoviSadに2018年に作られたドイツの大手自動車部品メーカーのコンチネンタルのR&Dセンターを巡って課題があると聞きました。
(本問題、私自身、一次情報で事実確認はできておらず、事実と異なる可能性もあります。ベオグラード、ノヴィサドにいる、別々の関係者から聞いた話しなので、問題になっている事実はあるようです。)

上記のように、政府は外国企業誘致のために、積極的な優遇策を提供しています。
土地や法人税に加えて、雇用一人当たり初年度は総額25000ユーロの報奨を渡しています。
(人件費相当は1万ユーロだが、福利厚生などを合わせると2.5万ユーロになるとのこと)

一般労働者の平均給与が月額300-500ユーロのNovi Sadにおいて、高度人材の給与はより高いとはいえ、年間2.5万ユーロ/人の優遇策は相当なものでしょう。

当企業も、政府に対して大量雇用を約束した手前、躍起になって人材を集めるべく、様々な手段を使って人材を集めています。

その結果、地元の中小企業、大企業から優秀なエンジニア、研究者がヘッドハントされています。
給与も福利厚生も5割増しなど好条件を提示して引き抜いています。
ただでさえ、超大企業のアドバンテージがある中で、これらの優遇策。地元経済の中心となる中小零細企業にとっては勝ち目がありません。

ノヴィサド大学からも優秀な研究者(教授陣など)が引き抜かれているようです。
(話を聞いた方は、友人の大学教授が2名、好条件で大学から当企業へ転職したとのこと。)

スタートアップ関係者は、このままだと、5年後、大学の質が下がり、地域の技術力は大きく低下すると懸念しています。

※補足をすると、長年、ノヴィサドの技術力、テック産業を支えてきたのは、ノヴィサド大学の教授陣とのこと。
1990年代の内戦時、経済制裁などで多くの多くの研究者や大卒のエンジニアなどが国外へ頭脳流出する中、防ぐべく、ノヴィサド大学の教授陣でスタートアップを起ち上げ雇用していったそうです。実際、2000年代に入り大学発のベンチャー数社は、ドイツやフランスの会社へエグジットしています。

持続可能なエコシステムにしていくには、
・新卒エンジニア採用に限定して報奨を与える
・大学への巨額な寄付、大学と連携した技術者育成プログラムの実施、共同R&Dプロジェクトの実施
・未経験のエンジニアへの教育の実施
・地元SMEsとの連携
など、組み込んだ誘致策にしてくと持続可能なエコシステムになるのではないでしょうか。


中所得国の罠にハマらずに成長できるか?

今後、物価・人件費は上がっていくでしょう。
遅かれ早かれ、10年以内にはEUにも加盟するでしょう。
さらに物価や人件費は上がります。西欧諸国への人材流出も増えるでしょう。


アジア・アフリカ諸国のような人口成長による経済成長は見込めません。
拡大家族が核家族化する中で、世帯数が急増する中での国内需要の増加も見込めません。


現在は物価、地価、人件費の安さから外国企業の呼び込みで経済成長を図っているセルビアですが、
この期間に、向上する所得から生まれる富を国外流出させず、国内に留め徴収し、
国がしっかりと付加価値の高い産業や社会へ投資できるか?
競争力のある付加価値産業を生み出せるか?
リープフロッグのようなイノベーションを生み出せるか?
が肝になります。

経済政策を担当する役所の担当者に話を聞いたところ、
『国が具体的な経済政策、成長戦略を示さずに、丸投げされている。』と嘆いていました。


次回は人材、ITなどについて書きたいと思います。

~続く~


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