見出し画像

市民主導の限界と循環型ゴミ処理の課題~バンガロールの事例②(Deeper寄稿記事転載)

※2021年12月3日にDeeperに寄稿した下記リンク記事の転載です

===============================

前回の記事ではインドにおいて、市民活動が盛んで、先端的なゴミ処理を実現していると考えられるバンガロールについて紹介した。



今回の記事では、バンガロールのゴミ処理の実情をレポートする。
以下では、簡易的に、都市在住者のアッパー層とローワー層に分けて進めたい。


都市部アッパー層: 行政に頼らない市民の自治管理

バンガロール市のアッパー層(高所得者、上位中間所得者)は、日本の一般大衆(中間層)と比べても意識が高く、ゴミ処理問題を自分たちの問題と捉えている節があった。

前回記事で紹介したように、バンガロール市のあるカルナタカ州は「事業者(オフィスや工場)、および50世帯以上の地域コミュニティでは、排出した廃棄物は自分たちで責任を持って処理をすること」とされている。

オフィスや工場から出る産業廃棄物に対する排出者責任は一般的だろう。日本でも産業廃棄物(事業者ゴミ)は、行政に回収や処理の義務はなく、事業者が責任をもって処理しなければならない。一般には知られていないが、日本では1990年からマニフェスト(産業廃棄物管理票)により厳格に管理されている。

バンガロールでは、事業者だけでなく、一般家庭にも排出者責任が課され、自分たちでゴミ処理に責任を持たなければならない。

それはどういうことなのか?

バンガロールでは、一定以上の世帯数(50世帯)の地域コミュニティの場合、一般家庭ゴミにおいても、行政の回収・処理の対象外となっている。

つまり、放っておいたら、ゴミは近所に溜まり異臭を発し、生活衛生上の大きな問題になるので、集合住宅などでは自分たちで処理してください。というわけだ。(お金を払って回収業者へ委託することも含む)

興味深いのは、州行政(BBMP:Bruhat Bengaluru Mahanagara Palike)が一般家庭の廃棄物処理責任を放棄している点だ。予算も少なく、人材もいない中で、現実的に無理なものはやらないと割り切っているのは興味深い。

バンガロール市の公式見解では30-50%程度の家庭ごみが適切に自主処理されているとのことだ。
(複数の有識者によると、実態は15-30%程度と思われるとのことで実態は不明)
では、実際にどんな家庭が対象となるのだろう?

50世帯以上の地域コミュニティで思いつくのは、マンションやアパートなどの集合住宅だろう。
集合住宅の場合は、行政が回収・処理してくれず、自分たちでお金を出し合って回収、分別、処理をする必要がある。

また、処理義務に加えて、新築のアパートやマンションは敷地内にコンポスト/バイオガス施設の設置が義務付けられており、自分たちの施設での処理が原則となっている。施設建設のための補助金も用意されている。

集合住宅以外にも、コロニーやゲートコミュニティと呼ばれる住宅区画も対象となる。
日本ではコロニーやゲートコミュニティの馴染みはないが、外界とは隔たれた住宅エリアだ。

ゲートコミュニティとは、その名の通り、門番のいるゲートがあり、外の世界とは隔たれている住宅街のコミュニティで、自治管理されている。
インドでも、特に富裕層の多いバンガロールやグルガオン(デリー郊外の日本人駐在員も多く住む高級住宅街)に多いという。

画像1

(ゲートコミュニティの一例)

今回バンガロールで訪れた富裕層ゲートコミュニティは老舗の一つで、広大な敷地に、400世帯の豪邸が集まるお金持ちエリアだ。
「ゲートコミュニティ内は敷地の約40%以上を公共エリアとする」法規制があり、敷地内には広い道路、大きな庭園、テニスコート、バスケットコート、ジムなどが併設されている。
※誤解のないように伝えると、50世帯以上の地域コミュニティでの廃棄物の自治処理は富裕層や意識の高いコミュニティに限られているわけではなく、中間層も含めた集合住宅などでも行われている点は明記したい。

今回はアッパー層の中でも富裕層のコミュニティと、上位中間層のコミュニティの2つの例を紹介したい。

①富裕層が住むゲートコミュニティ

この富裕層が住むゲートコミュニティでは各家庭から年間の施設管理費を徴収しており、その予算の中で、公共エリアの維持管理、家庭ごみの回収、分別、処理を行っている。
各世帯が持ち回りで自治会(Committee)を運営しており、管理人のマネジャーを選出、フルタイムで雇用している。(マネジャーの下にはワーカーが数名いる)

■ Dry wasteとHazard Wasteについては、お金を払い外部業者に回収/処理を委託している。
■ Wet wasteは、敷地内のコンポストサイトで肥料にしている。作った肥料は、公共エリアの庭園や街路樹に使ったり、各家庭に安価で販売もしている。(15kgバッグで200円弱)

画像2

(緑の箱が堆肥化しているサイト(筆者撮影))

さらに、固形廃棄物以外に、独自の下水処理施設も持っているのは驚いた。各世帯の下水がここに集まり、沈殿、微生物発酵、汚泥処理などをしている。処理した水は、公共エリアの庭園や街路樹の水やりなどにも使用している。

画像3

(下水処理層の上側。下側にも処理槽が2つほどある。(筆者撮影))

②上位中間層のコミュニティ
※写真掲載の許可が下りずテキストのみ

次は300世帯の集まるアパート(集合住宅)だ。
ここでは、一世帯あたり250円程度の管理費を支払う。(毎月500-700円/世帯が一般的だが、ここでは自主回収するボランティアグループがいて、その分の人件費がないため安くなっているという。)

1)各世帯は、毎日、Dry / Wet / Hazardなどにゴミを分別して、玄関の前に置く。
2)すると、回収人が毎日回収して、1階の分別室にて分別する。

■Dry wasteはお金を払って業者に回収を委託している。
■Wet Wasteはコンポストサイトが1階に併設されており、日量1トン弱を処理している。

このように、アッパー層の間では、行政に頼らず自治管理が進んでいる点が興味深い。
廃棄物処理の現場が生活の身近にあれば、分別する意識も高まる。

ただし、住民のモチベーションは必ずしも環境意識の高さからきているのではなく、不衛生な場所に住みたくない、キレイな場所に住みたいという生活衛生上の観点から来ているようだ。


都市部ローワー層:行政頼みで進まない対策

自治管理が進んでいるアッパー層と異なり、ローワー層の問題は深刻だ。

行政(BBMP)のゴミ回収の仕組みが脆弱で、回収は不定期だ。いつ回収してもらえるかわからない。
自分たちで処理する仕組みを持てなければ、住民は途方に暮れる。そのため、街中への不法投棄が跡を絶たない。

画像4

(立ち寄ったお客さん先の玄関横に積まれたゴミ溜め(筆者撮影))

実際にバンガロールの街中は、ビジネス街、高級店の並ぶ繁華街であっても、ダンプサイト(ゴミ溜め)が点在し、異臭を発している。

インドでも環境意識の高い街として誇るバンガロールでも、都市中心部にダンプサイト(ゴミ溜め)がある光景は衝撃だ。

画像5

(街の中心地にある中間保管施設。オシャレな店も多い中、ゴミの臭いが漂う(筆者撮影))

ちなみに、私はナイロビ(ケニアの首都)、カンパラ(ウガンダの首都)など東アフリカの国に10年近く滞在していた。ケニアやウガンダも廃棄物処理に関しては相当問題視されており、世界的に最も対策が遅れている地域だが、都市中心部でこんなに多くのダンプサイトを見かけることはなかった。

もちろん、中心街を外れた郊外には点在しているし、都市中心部でも低所得者エリア、スラム街ではよく見かけたが、大通りやビジネス街、繁華街ではほとんど見かけなかった。

また、今回の出張で、首都デリーやジャイプール(人口300万人の二級都市)にも滞在した。
デリーも東西南北を移動したが、街の中心部でゴミ溜めはほとんど見かけなかった。ジャイプールも同様である。
※デリーについては2018年くらいから行政のゴミの回収が大幅に改善し、ここ数年で一気に街が清潔になったようである。

ローワー層の場合、行政による適切な回収が行われずに、住民は仕方なく(?)近所のダンプサイト(ゴミ溜め)に放棄する。そのため、Dry waste、Wet wasteなどの分別も行われない。

そのゴミ溜めにウェストピッカー(Waste Picker)が集まり、資源価値のあるゴミは抜き取られていく。資源価値のあるゴミとは、Dry wasteの中でも、ペットボトル、ビン、カン、金属類などだ。
仮にゴミを分別して出したとしても、この段階でWet WasteとDry Wasteが混ざり合ってしまう。

街中に不法投棄されたゴミは、Street Wasteとして行政などが回収し、焼却プラント、最終埋め立て場、そしてコンポストプラントなどに運ばれる。

さて、ここまではゴミの”サプライチェーン”の上流を取り上げた。一般家庭や事業者から出たゴミが、分別、回収、運搬されるプロセスだ。

次は下流の、二次分別、運搬、最終処理の流れを見ていきたい。
まずは、Wet Wasteの処理方法としてコンポスト施設を紹介したい。

大型コンポスト施設の実態(Wet Waste)

今回、バンガロール視察で最も楽しみだったのは、最初に挙げた大型コンポスト施設への見学だ。

何とかして見学できないかと、多方面の知り合いに協力してもらい、創業者・代表の方のメールやWhatsAppを入手し、連絡を試みたが、結局は連絡をとるとはできなかった。

それもそのはずで、実はこの施設は環境汚染のスキャンダルが原因で倒産していたのだ。

倒産の事実を示す、記事やニュースは公にされていないのだが、3-4名のバンガロール廃棄物の有識者が同じことを言うので、おそらく事実であろう。

画像6

(イメージ写真(記事中の施設とは無関係です))

何があったのだろうか?

上記のベストプラクティスのケーススタディーとして取り上げられたのが2017年。
「大都市バンガロールで民間企業が大型コンポスト施設を20年以上継続しており、処理費に頼らなくても、コンポストの販売収益で黒字経営を達成している」という内容だ。

しかし、実態は大きく異なるようだ。有識者の意見を纏めてみた。
(業界関係者の噂話を元にしているため、どこまで事実かは怪しい点は留意頂きたい)

💡
・2018年に環境汚染が摘発され、それが原因で倒産状態。コンポスト施設自体は休止(または廃止)になっている。

・一日600トン以上を処理して堆肥化しているとのことだったが、実際は好気性発酵のコントロールが上手く行かず、農業の現場で使える堆肥を生み出せていない。

・10年以上もLeachet(浸出液:好気性発酵時に出る異臭のある汚水)を処理せずに周辺に垂れ流していた。
ただ、場所がバンガロール市から60キロ離れた田舎にあり、周囲も自然環境に目立った変化が出るまで気づかなかった。

・記事など公にはなっていないが、スキャンダル後にも多くの虚偽事項が出てきた。
例えば、販売していた堆肥には、他所の処理場で作られた堆肥を購入し、そこに自社の処理場で焼却した焼却灰を混ぜてかさ増しして販売していた。などである。


大型コンポスト施設はこれ以外にも、公営の大型コンポスト施設(有名なのはKCDC)民間の大型コンポスト施設(有名なのはMSGP)が複数存在している。

それらの大型コンポスト施設の実態はわからない。
が、関係者達は、大型の施設はどこも課題を抱えていおり、ベストプラクティスなどと呼べないと声を漏らす。

どの施設も順調にはいっていない。
それでも、大型の施設は広大な敷地を保有している。発酵が上手く進まなくても、そのまま広大な敷地に埋め立てている。
例えば、xxx(名前は伏せる)は、100エーカーの土地に毎日2000トン近くの廃棄物が運ばれている。ここは大きな谷状の地形にあり、外からは実態が見えない。

コンポストプラント運営の難しさ~中規模プラントの例から

大型プラントの訪問は叶わなかったが、中規模(日量40トン)のコンポスト施設を紹介頂き、訪問してきた。

訪れたのは、バンガロール市内(中心部から車で15分)で、25年ほどコンポストプラントを運営している施設だ。
日量は40トン。主にBulk Wasteと呼ばれる廃棄物を処理している。

💡
Bulk Wasteとは、工場やオフィスから排出された産業廃棄物(事業ゴミ)と、分別済みの一般家庭ゴミを指す。
分別済みの一般家庭ゴミとは、アッパー層のコミュニティが自治管理で分別したゴミである。
コミュニティ内で適切にコンポストなどの処理が行われている場合もあれば、自分たちでは上手く行かずに外部に委託している場合もある。
その外部に委託されたゴミがこの施設に運ばれてくる。

ここのオーナーとの議論から、
”コンポストプラント事業は、インプット側もアウトプット側も需給バランスが非常に難しい”
という、コンポストプラント経営の難しさが見えてきたので紹介したい。


①コンポスト販売(廃棄物処理後のアウトプットである堆肥)における需給バランス

当たり前だが、コンポスト(堆肥)は農業に用いられる。その農業自体、肥料が必要な時期は雨季など特定のシーズンに集中し、年間通して安定的な需要があるわけではない。
加えて、コンポストは微生物(生き物)であり、管理せずに放置したら堆肥としての価値を失う。在庫として長期で保管するにも管理コストがかかる。

また天候にも大きく左右される。雨量が少ない年(干ばつ)は農産物が作れずに生産量が下がり、堆肥の需要も下がる。
一方で、雨量が多い年は、堆肥の需要は高まるが、逆に、コンポストの生産性が下がってしまう。(乾燥が前提の好気性発酵のため)

この需給のアンバランスもあり、農家と直接取引は出来ないという。また、農家相手だと貸し倒れリスクも高い。そのため、行政が間に入り売買を仲介する仕組みがある。作った堆肥は一旦は行政が買い取る仕組みだ。


②流入する廃棄物(インプット)の成分調整のバランス

いくらBulk Wasteを扱っているといっても、そのゴミの中身はバラバラだ

好気性発酵の肝は、上手く発酵が進むように諸条件を管理することだ。インプットのゴミの成分が異なれば、当然、水分量、カロリー、pH値など発酵条件も変わる。
毎回、同じ成分のゴミを、同じ量だけ集められれば問題ないが、産業廃棄物にしたって、工場から出てくる廃棄物の中身はバラバラだ。

「今年はコロナ禍だったので、クッキーやチョコレートなどが大量に余ったので廃棄したい。」などだ。
まして、一般家庭からのゴミは蓋を開けてみなければ何が入っているか全く読めない。

複数の専門家に聞いたところ、技術的には日量数百トンクラスの大型コンポストプラントで堆肥化することは難しくない、という。技術よりも圧倒的に課題なのは、「毎回、安定したトン数で、安定した成分のゴミを継続的に得てくる」、営業・オペレーション側にある。

うちの営業部隊が頑張って色々な企業やコミュニティに営業しているが、その都度、受注できるゴミはバラバラ。量もバラバラだ。

また、営業が頑張って、多く受注してもキャパオーバーになる。許容量を超えるゴミを無理やり処理しようとすれば好気性発酵ではなく嫌気性発酵になり、堆肥にはならない。
インプット側のゴミの量や成分を安定させる必要がある。

とはいえ、せっかく受注できた案件をみすみす断わるのも難しい。先方から無理を言われたら断りづらい関係性もある。(一般的に廃棄物処理業者は弱い立場にある)
自分たちでコントロールできない量のゴミ、成分を受け入れざるを得ず、悩むこともあるという。

画像7

(イメージ写真(訪問した施設とは無関係です))

③処理費が得られない廃棄物処理サービス

上記のインプット、アウトプットの需給バランスに加えて、最も深刻な課題は、一般市民はおろか、行政レベルでも廃棄物処理サービスに対する価値が理解されていないことだ。


例えば、行政担当からも

💡
廃棄物の回収/運搬、分別にコストがかかるのは分かるが、処理費は払う必要ない。
廃棄物からコンポスト(堆肥)が生まれるんだから、そのコンポストを販売して処理費を賄うべきだ。

という話を聞く。

大前提として、そもそも、”ゴミはゴミ”だ。お金をかけて適切に処理すれば副産物としての堆肥が生まれるが、それはあくまでも”副産物”であり”製品”ではない

堆肥化は製造業ではない。材料としてゴミを仕入れて、加工して堆肥という最終製品を作っているのではない。廃棄物処理の方法として、費用対効果も高く環境にも優しい方法としてコンポスト処理した結果、堆肥という副産物を生み出しているに過ぎない。
「コンポストの販売収益だけでゴミ処理費用を賄え!それが企業努力だろう」というのは、ゴミ処理の責任を他人に押し付けるための屁理屈だ。

さらに、排出事業者(ゴミを出す企業やオフィス)からは

💡
”なぜゴミの回収費用がこんなに高いんだ。むしろ、こちらはお金になる材料を提供しているのだから、逆にお金を払ってもらいたいくらいだ!”

なんて愚痴も言われるようだ。

これなど、まさに、自分が排出したゴミを処理する責任を棚において、他者に押し付ける典型だ。しかし、この発言こそがゴミ問題解決が難しい根幹を物語っている。

企業も一般市民もゴミが溜まると不衛生だから困る。目の前のゴミをどこかに運んでくれること(回収/運搬)には価値を感じる。回収/運搬にはお金を払うが、目の前から消えたゴミがどうなろうと知ったことではない。

本来、もっとも難易度が高く難しい領域が”処理”である。
しかし、”処理”に適正価値を感じてもらえずに、処理サービスに適正な対価が支払われていない。目の前からゴミを退かしてくれる回収や運搬とは異なり、価値が見えづらい。


上述の大型コンポストプラントが上手く運営できない原因もここにある。
結局、適切に処理するだけの処理費が得られていないので、処理にコストをかけられない。
適切な分別や発酵管理、異臭処理、汚水処理を行うとビジネスとして成立しない。


現在、バンガロール市(BBMP)では、一般家庭ゴミの廃棄物処理費用を1トンあたり200ルピー程度(約300円)と見積もっている
この処理費用は、回収/運搬から分別、処理、最終処分までの全体の処理費用だ。
しかし、コンポスト業者によると、我々の経験ではどんなに好条件で得られたとしても、1トンあたり3000ルピー(4500円)はかかると指摘している。その差は10倍以上だ。

参考までに、日本における廃棄物処理費用は1トンあたり10万円程度と言われている。

この費用をトンあたりの単価に換算してみると、収集・運搬は2万2千円/トン、中間処理は2万1千円/トン、埋立処分は5万円/トンと計算されました。
収集・運搬はほとんどが運転・維持管理費で、過去8年間はあまり変化がありません。
国立環境研究所「ごみ処理とリサイクルの費用はいくらか」

環境に優しく、焼却より安価で処理できるコンポストプラントだが、社会に実装するのがいかに難しいか、イメージ頂けただろうか。

次はDry Wasteについて。

経済成長に伴いDry waste(資源廃棄物)も悪化

Dry wasteは資源化しやすい廃棄物のため、アッパー層も回収業者にお金を払い処理を委託している。ローワー層も、ゴミ溜めや中間処理施設から資源化できるゴミはWaste picker達が回収しリサイクル業者へ販売する。

一見すると、問題がないように聞こえる。

しかし、現実は逆だ。
ここ10年で市民の環境意識は急激に高まっている一方で、不法投棄、不法焼却は減るどころか、この10年で大幅に増加している。

画像8

(バンガロール郊外のゴミ溜め(筆者撮影))

経済発展に伴い、ゴミの成分も多様化。プラスチック一つとっても10種類以上のプラスチックが混在。製品や梱包材など様々なプラスチックが増えてきた。そのため、分別や処理のコストも大幅に増加している。

だが、その分のコストを企業や一般家庭(コミュニティ)に転嫁出来ないのが現状だ。
自身の家庭を想像してほしい。ゴミの量が100キロから200キロと倍になったことで回収費用が倍になることは納得がいく。しかし、ある日突然、ゴミの量は100キロのままなのに、処理費用が2倍と言われたらどうだろう?文句も言いたくなる。

そのため、多くの回収業者は増加する分別・処理コストをサービス価格に転嫁できず、そのまま引き受けている。
結果、分別しても赤字になるだけなので、リサイクルに回さずに、不法に燃やすか、不法に廃棄して片付けている。

ちなみに、日本のゴミ処理は原則、地方自治体が責任を持って取り組んでいるため、このような問題は顕在化しにくい。市民の関心が高かろうが低かろうが、処理費用(焼却プラントの建設費・維持費、焼却灰の処分費用など)は地方自治体の予算で賄われてる。つまり、税金で賄われている。

もちろん、日本においても、市民の環境意識が低ければ、廃棄物処理の予算がつかない事態はあるが、ここまでダイレクトに影響を受けることはない。(行政の予算がないからといって、燃やすゴミの回収が週3回から1回に減ることはないだろう)


やはり、市民の自主性に任せるボトムアップ型では上手く行かないのか?

お金に余裕があり、環境意識の高いアッパー層であれば、衛生上の観点からも自主的な回収や処理に関心が働く。しかし、社会全体、都市全体で考えた場合に、全てを自治で任せるのは現実的ではない。

実際、インドの中では環境意識の高いバンガロールでさえも、街中にダンプサイト(ゴミ溜め)が点在している様子には驚いた。

また、インドでも非常に上手くいっている事例として、Surat市、Indor市の2つの事例をよく聞いた。
Surat市はグジャラート州南部の人口600万人の大都市。Indor市はマディヤ・プラデーシュ州南西部の200万人都市だ。

どちらも、廃棄物処理において非常に上手くいっている事例として有名だ。

実態は、次回の出張時に訪問して見てみたいと思うが、有識者の話を総合すると、成功の秘訣は優れた地方行政の仕組みだそうだ。
数ある社会課題、経済対策の中で、廃棄物処理の優先度を高め、それをモチベーション高く周りを巻き込みながら変革していった行政担当者の存在を指摘する。

確かに素晴らしい事例なのだが、「成功の秘訣は、その土地に志も高く、能力も高いスーパーマンな行政担当者がいるからです」では限られた地域でしか活用できない。素晴らしい行政担当者が出てくるまで課題が待ってくれるわけでもない。

何より、廃棄物問題を解決する事業を作る上で「素晴らしい行政担当がいるところ以外は再現性が低いので横展開出来ません。」ではスケールしないし、ビジネスとして成立しない。(ビジネスとして成立しなければ、一スタートアップ企業ではこの分野の社会課題解決に寄与できない)

ある特定の地域でのパイロットプロジェクトが上手く行ったとしても、その成功が行政システムに依存していて、再現性がなければ投資を集めることもできない。

バンガロールに来る前は、「分散型のボトムアップの解決策のヒントが得られるかもしれない」と淡い期待を描いていたが、実際にバンガロールに訪れ、大都市の廃棄物問題をボトムアップで解決する難しさを痛感した。

とはいえ、アッパー層が市民主体で廃棄物処理に取り組む活動は期待が持てるし、ローワー層においても、全てを行政に委ねなくても回る仕組みはあるかもしれない。

まだまだ解決の糸口は見えていないが、引き続き、この分野に関わりながら、解決策を探っていきたいと思う。

記事を読んでいただきありがとうございます!サポートしていただけると、より良い記事の励みになります!