社会課題解決のストーリーテリング~スリランカで世界最高品質の紅茶を作るAmba Estateの物語③-茶葉製造工程
今回がスリランカ紅茶の最終回!
前回までに、①紅茶の歴史と課題、②Ambaの事業とアプローチについて書いた。
今回は茶葉加工(製造)について。
※最初に断っておくが、筆者は農業および紅茶に関しては素人である。茶葉製造も、今回スリランカで見学するまで見たことがなかった。
今回、Amba以外に複数の工場のツアーにも参加したので、そこで聞いたこと、ネット上の調査を補足して述べたい。
Ambaの手作り・ハンドメイドの丁寧な作り方の前に、一般的な工場生産の茶葉製造について学んでいこう!
Uva Halpewatte Tea Factory
一般的な工程は、Ambaと同じくスリランカのUva州EllaにあるUva Halpewatte Tea Factoryのツアーで教えてもらったものをベースにする。
ちなみに、Hlpewatteには1月1日(元旦)に伺った。
いくらスリランカが旧正月を大事にするとはいえ、2023年の元旦は日曜日。
さすがにツアーはしていないのでは?と思いつつ、トリップアドバイザーから予約できてしまった。小額だがツアー代も払ったので、これで行ったら閉まっていたでは嫌だなと、事前に連絡してみる。
すると「1/1だよね?No Problem!10時に来てくれ!」というではないか!
元旦の朝に行ってみると、ツアー参加者は僕らを抜いて2名!オーストラリアから来ているカップルだけだった。
山の中腹にある絶景の工場!!!
ただ、工場の動いているオペレーションは見ることが出来なかった。。。。理由は、日曜日であることに加え、1月はウバ州の茶栽培にとっては繁閑期にあたる。
しかし、我々のために動かせる機械は稼働してくれ、実際に茶葉が運ばれ、乾燥され、分別する様子などは見ることができた。
ここは景色もよく、みな親切!
ツアーの後にテイスティングも出来、ショップで購入もできる。ぜひ、こちらも訪れて頂けると嬉しい!
工場での茶葉製造の工程
コーヒーやチョコレート、ワイン、ウイスキー、日本酒などと同じく、紅茶製造も様々な方法が存在する。
各工程、時間は産地や農園、茶葉の種類によっても異なる。
また、Halpewatteは中堅規模の製造工場だ。大規模になると大きく異なる可能性もある。
以下は、Halpewatteで行われている工程として参考程度に見て頂きたい。
①茶畑で茶葉を摘む
まずは茶畑に出向こう!
Tea(茶)と呼ばれる植物(チャノキ:学名Camellia sinensis)は、樹木である。放っておけば背の高い木になる。
そのチャノキの葉っぱが「茶葉」となる。
通常、茶畑では、上の写真のように、人間の背丈くらいの木の高さに調整されている。
木に葉っぱが生い茂っており、一般的には、太陽に近い上の方の葉っぱが、ミネラル豊富で栄養素が高く良質と言われる。
下の方にいくと、太陽の陰になるため、ミネラルの栄養価は下がる。
ただし、質が悪いかというとそうでもない。
紅茶ショップで「オレンジペコ」「ペコ」などの言葉を聞いたことはないだろうか?
これは紅茶の等級(グレード)を指す言葉。
※紅茶のグレード
グレードというと、高い方が美味い!品質が良い!と思いがちだが、美味しさとも品質とも無関係だ。
茶葉の大きさと外観を表しているだけで、「品質」ではない。
このグレードの中で、上の方の葉っぱか、下の方の部位かを示す言葉がある。
下の方の部位になり、製造工程で細かくなってしまったグレードを「ダスト(D)」と呼ぶ。
名前の通り、ダスト(カス)のように小さい粒子なのだが、ダストだから品質が悪いわけではない。
紅茶にも色々な飲み方がある。「ダスト」は砂糖たっぷりのミルクティーに向いているとされる。
インドやスリランカで街中で、小さいカップで1杯10-20円で飲めるチャイなど、ダストが最適だそうだ。
ただ、一般的な大衆向けの安いティーパック製品は、このダストが使われる。なので、傾向としてダスト=安いのは間違いではない。
インドのスーパーで購入する安いティーパックを開けてみたら、確かにダストだった。
ダストでも、今回のようなHalpewatteやAmberという高級茶葉を作る工場で生まれる、本来はペコやオレンジペコになる部位が細かくなったダストは逆に高級品とも言われるようだ。
以下はチャノキの葉っぱ。つまり、茶葉。
話を茶摘みに戻す。
お茶は樹木である。
放っておけば大木になる。大木になったら茶摘みはできない。
上の葉っぱ部分だけを摘まんでいても、植物なのでどんどん成長する。
そのため、定期的に下の葉っぱや枝も根こそぎ切り取る必要がある。
それでも成長するので、3-4年に一度は、長く太くなった幹を伐採していくらしい。
Amba Estateでみたお茶の木は100cmにも満たない背丈だが、樹齢は100年を超えている!!
また、世の中には、お茶の幹を伐採せずに、自然のまま大木として育て、その葉っぱから作る茶もあるらしい。
つまり、十数メートルの木に登り、上に生えている葉っぱを頂戴していく。
当然手間がかかるので超高級品だそうだ。
(以下、台湾の野生のチャノキから取るお茶)
②セミドライ工程(萎凋:いちょう)
発酵のプロセスの前に、風をあてて萎れ(しおれ)させる。
萎凋(いちょう)呼ばれるプロセスだ。これにより、発酵に必要な酸化酵素の働きを活発化させる。
Halpewatteの方が説明してくれる。右が萎れる前、左が萎れた後。
工場では、以下のように長いレーンに茶葉を置き、下から空気を送り、10-15時間かけて乾燥させる。
この時間は、Halpewatteのこの時期(12ー1月)の茶葉の場合である。
同じ農園でも、乾季と雨季では時間は異なる。
写真のように、この工程を経ても、茶葉は緑色のままである。(発酵するまでは茶色にならない)
③Rolling(揉捻:じゅうねん)
お次は、萎れた茶葉をグルグル揉んでいく、揉捻(じゅうねん)という作業だ。
茶葉を揉むことで、発酵を促進させ発酵が均一に進むように促す
イメージは、手の平でもみくちゃにする感じ。
右がプロセス前、左がローリングした後だ。
工場ではローリングマシンという機械で丸めていく。
この工場では、30分×4回行うとのこと。
せっかくなので動画も載せておこう。
④発酵・酸化 (Fermentation/Oxidation)
さぁ、ここまでで発酵の準備は整った!
茶葉は発酵させることで紅茶となる。
この工場、風通しの良い場所(室内か日陰)に置く。ここで適切に発酵が進むと黒色になる。Black Tea(紅茶)となるわけだ。
この工場では、乾季は1時間、雨季は3時間程度と言っていた。
さて、ここで生物学をしていた方は疑問に思うだろう。
「発酵」ではなくない??
そう。通常「発酵」とは、外部から菌を付着して微生物により分解されることを指す。
しかし、茶葉製造についてはどうやら違うらしい。。
茶の場合は、茶葉の中にある酵素の働きで、葉の中にあるカテキンなどが「酸化」することを発酵と呼ぶ。
以下記事によると
※不発酵茶「緑茶」
発酵させなければ黒色にはならない。
我ら日本人が飲む「緑茶」は、その名の通り「緑色」のままだ。
この発酵を意図的に止めて作るのが、「緑茶」(Green Tea)だ。
茶葉の中にある酵素の働きを止めることで発酵を抑えることで作られる。
自己酵素反応(茶葉自身の酵素)を不活性化(止める)という。
そのため緑茶は、「不発酵茶」と呼ばれる。
緑茶の製法も色んな種類があるらしい。一般的な日本茶は、水蒸気に入れて蒸すことで、酵素を不活性化させる。
ちなみに、本来の意味での「発酵」。つまり、微生物を付与して発酵させるお茶もあり、「後発酵茶」と呼ばれる。プーアル茶がこれに当たるらしい。
⑤乾燥工程(Dry)
発酵後に乾燥させる。
ここで乾燥させないでも、紅茶として飲むことは可能とのこと。
ただし、乾燥させなければ、水分が残る。つまり、発酵工程が止まらない。数日もすると、その水分でカビが生えてくるらしい。
ここでしっかり乾燥させると、数か月(長いと数年?)経っても飲める茶葉になる。
僕らが夏場の熱気のあるキッチンに放置していてもカビが生えないのは乾燥しているからだ。
※ただ、日本のような高温多湿の気候で、湿度の高い部屋に長い期間放置すれば、徐々に水分を吸収する。周囲の菌などの生き物が付着して生息しカビが生えるとのこと。茶葉は風通しの良い場所に保管しよう。
⑥異物を取り除く(Cleaning)
この状態では、乾燥・発酵させただけなので、茶葉には草くずだったり、繊維だったり、余分なものが含まれる。
そこで大きなローリングの機械をグルグル回し、静電気の力でこれらのくずを取り除いていく。
こちらも動画も載せておく
※これ以外にも、もう一工程、違う機械で取り除いていた記憶もあるが、曖昧だ。。
⑦等級分け(Grading)
さぁ、ここで最初に出てきた等級分け(グレーディング)を行う。
主に茶葉の大きさによって区分けをしていく。
茶こしのようなザル・ふるいを使って、網の目の大きさで分別していく。
上の方が大きくて、下が細かくなる。機械でブンブン回して水平方向に回してふるいにかける。
グレーディングを終えると、大きさ別に茶葉が揃う。
以下は7-8種類に分かれた後
⑧色による識別
Halpewatteでは、最後に、茶葉の色で選別する。
濃い黒色と薄い黒色で分別する。濃い方(奥側)が高品質とのこと。
現在では、AIによる画像解析での光学分別をしているようだ。大掛かりな機械だな。。
おまけ:試飲
最後にグレード別で試飲させてもらった。
Halpewatteの農園に最も適している(美味しい)のは、Pekoe(ペコ)とのこと。こちらも賞を受賞していた気がする。
試飲したのは以下。
右から、
OP(Orange Pekoe):最も大きい茶葉。カフェインが少なく、日中でも夜でも飲むのに適している。
Pekoe:この農園に最も適したグレード。カフェインが少なく、アフタヌーンティーにも良いと。
FBOP(Flowery Broken OP):OPより細かくなったもの。この辺りから紅茶特有のえぐみが出る。
FFSP(Finest Broken Orange Pekoe Fanning Special Tea):テイスティングした中では最も細かいもの。かなり苦味を感じる。
セイロンティー特有のグレードのようだ。Broken OPの一種?
こちらがHalpewatteのウェブサイト!ここからツアーの申し込みもできるので、ぜひ!
Amba Estateでのハンドメイドの工程
さて、お次はAmba Estateでの製法
①茶摘み
高品質を謳う農園では、日の当たっている上の方の枝を含めて摘み取る。
Ambaの場合は、さらに厳選して、文字通り葉っぱしか摘み取らない。
その中でも、見た目で一番上に出ている若い葉っぱが、Amba Estateの1st Grade(一等級)。一番上とは言い切れない部分が、2nd Grade(二等級)とのこと。
ちなみに、高級を謳う農園でも、1stも2ndも区別なく、トップクオリティとして扱われる。
また、この一番上の、まだ開いていない丸まった状態の茶葉も摘んでいる。
紅茶(Black Tea)ではなく、White teaとして超高級品として出している。(ツアーのテイスティングで飲むことができる)
②セミドライ工程(萎凋:いちょう)
通常は多くの茶葉を均一に乾燥させるため、外から機械で風を送り込んで乾燥させる。
Ambaでは、風通しの良い屋外に置き、自然の風だけで乾燥させる。
その分スペースも取るし、時間もかかる。
③Rolling(揉捻:じゅうねん)
工場では、大きな機械を使って丸めていた。Ambaでは二種類の方法でローリング(丸めて)している。
一つ目は、同じく機械を使う方法。ただし、工場よりはだいぶ小さな機械を使う。
通常の工場で使われる大きな機械ではなく、部屋における小さな機械で、少量ずつバラつきがないように丸めていく。
少量ずつ少しずつ加工することで、ムラを無くしている。
2つ目は、昔ながらの手で丸める方法。ハンドローリングを呼ばれる。
200-300gの茶葉をざるの上におき、人が1時間かけて掌でグルグルに捲いていく。
1時間の労働でたったの200-300g(乾燥前)のみ!
めちゃ贅沢な方法だ。。
そりゃ、価格が高くなるわけだ。。
ツアーの最後のテイスティングでは、ハンドローリングで作った茶葉も試飲できる。
僕では、味が違うことは認識できても、どっちが良いのか?全く分からなかった。。
④酸化・発酵
ここの違いは理解できていない。。
ツアーの時は、「通常の工場ではFermentation(発酵)を行うが、AmbaではOxidation(酸化)を行う」と言われて納得したのだが、、
調べてみると違いが分からない(苦笑)
上述のように、紅茶製造においては、「発酵」と呼ばれるプロセスは「酸化」のことで、外から微生物を付与しているわけではない。
僕のリスニングが正しければ、「どちらも室温で行うが、”発酵”では、温度が高いほど進行が早くなる。”酸化”は温度が低いほど進行が早くなる」とも言っていた。(詳しい方、教えて頂きたい)
そうそう。
Amba Estateでは、不発酵の緑茶、半発酵の烏龍茶なども作っている。
上述のように、緑茶とは、発酵させず、葉中の酵素の働きを止めることで不活性化させて作る。では、烏龍茶とは何者だろうか?
※半発酵? 烏龍茶
僕らもおなじみ、烏龍茶は半発酵茶(Semi-oxidation)だ。
起源は諸説あるようだが、緑茶作りの副産物として生まれたようだ。
Ambaの人曰く、
元々は緑茶の失敗作?として生まれた烏龍茶。
その失敗作に「龍(Dragon)」の字をつけるのが良いよね!と言っていた。
当然、現代では発酵のプロセスを管理し、発酵の度合いで色々なタイプの烏龍茶がある。
上記の萎凋のプロセスなどをコントロールし、ある程度まで進んだら、高熱で炒って発酵を止めてしまう。
⑤残り(Dry,Cleaning,Grading)
以降、乾燥、異物除去、グレーディングはざっと流しただけで、よく見ていない。
テイスティング(試飲)
さぁ、ツアーの最後はお待ちかね!飲み比べだ!
Ambaでのテイスティングは確か以下の8種類。
White Tea :
茶葉摘みの段階で、葉が開く前に摘み取ったもの。こちらは発酵させずに飲む。(紅茶ではない)Green tea (緑茶)
烏龍茶 (半発酵茶)
TPOP:
ここから紅茶。これは葉っぱ一枚を丸ごとを使ったグレードの高い紅茶。さらに、ハンドローリングで丁寧に作った贅沢品だIllegal Tea:直訳すると、「違法なお茶」
以下で説明するSpice chai(スパイスチャイ)
シナモンなどがスパイスが入ったストレートティー。スパイスチャイというと、ミルクの入ったものを想像するが、これはストレート。めちゃ美味い。Butterflyのハーブティー
こちらは紅茶ではなく、Butterflyのハーブ茶Butterfuly teaにライムを絞って紫色にかわったもの
※7)と8)はハーブティーなので“お茶(TEA)”ではない。(ハーブティーとはハーブを煮だしただけ)
Ilegal Teaとは?
5番目のIllegal Teaとは何か?
スリランカの茶農園の労働者で広まった昔ながらのお茶とのこと。
イギリス経営時代のお茶工場は管理が厳しかった。労働者たちは、そこから茶葉をくすねて、地元で自分たちの製法で作った。
これはこれで、ハンドメイドで作った紅茶で大変美味しい。
Amba EstateでIllegal Teaを作っているのは、伝統文化としても残していきたい想いもあり、商品化している。
おまけ1:絶品のAmbaのランチ♪
上記のツアーは、2時間程度のツアーとテイスティングがついて、たったの5ドル(600円)と良心的だ!
今回、Amba Estate内のゲストハウスには宿泊しなかったが、ゲストハウスも完備している。ラグジュアリーなファームステイが体験できるようだ。
シーズンにもよるが、一番安い部屋で一泊40-50ドルから宿泊できる。今度行くときは宿泊もしたい。
ショップでは、Ambaの各種製品が売られている。紅茶や、ホワイトティー、緑茶などの茶葉に加え、敷地内で自家栽培している、オーガニックコーヒー、バニラ、各種スパイス、シナモンなども売られている。
※スリランカは元々はコーヒーの名産地。スリランカコーヒーの復興が最近ブームになっている。
せっかくEllaの街から1時間かけてきたのだからと、いくつかのトレッキング散歩と、ランチも頂いた。
驚いたのがこのランチ!
ランチが、感動するくらいに美味い!!!しかも安い!!!
キッシュとサラダのセットが3.5ドル
パンプキンスープが2.5ドル
こんな山の中で食べる料理だし、値段もローカル価格だしと期待していなかったら、涙が出るくらいに美味かった!
特にサラダの野菜が超絶新鮮!!
ここで栽培しているオーガニック野菜だそうで、
美味いサラダって、素材の味でこんなに旨いのか!と感動した。
キッシュもサラダもスープも2人前ずつあり、一人で食べるには相当な量だったw
おまけ2:トレッキング
AmbaはEllaの街から車で40-50分の程度離れた山の山頂付近にある。
片道15分から数時間かかるトレッキングルートが整備されており、ツアーの前後でも丸一日楽しむことができる。
Ellaの街が標高1000m。
Amba Estateに来るには、メインの道路で20分ほど山を下り、標高600mまで一気に下る。
そこから脇道にそれて、30分ほど山道を登るとAmba Estateに着く。Ambaの標高は1100m
この山々に囲まれた一帯のトレッキングは気持ちよかった。
僕もツアーの前後で1つずつ体験した。
最後は観光案内になってしまい、申し訳ない。
興味を持たれた方は、ぜひスリランカに訪れてください!
3回の渡り、スリランカの紅茶産業について記事にした。読んでくださった方々、ありがとうございましたー!
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