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社会課題解決のストーリーテリング~スリランカで世界最高品質の紅茶を作るAmba Estateの物語②

前回の記事では、紅茶の歴史を中心に話した。

紅茶がどのように中国から西欧に伝わり、イギリスがどのように覇権を取り、スリランカが世界一の名産地になったのか?スリランカの紅茶産業の黎明期を支えた2人のスコットランド人にも触れた。

前回触れたように、現在でも世界の茶生産は、茶畑からの茶摘みがボトルネックになっている。

さて、いくら機械化が進んでも、茶生産の最大のボトルネックは、お茶摘みの工程
その後の工程をいくら機械化して効率化しても、一番最初の「茶農園からお茶の葉を摘む」のは機械化できない。

このボトルネックは、現代のスリランカの紅茶産業の課題にも繋がり、Amba Estateが起業した大きな理由にもなっている。ここについては次回述べたい。

前回記事より

労働集約的な紅茶産業

前回の最後に、スリランカの茶生産が増えず、全盛期は世界1位だった生産量が5位まで転落しており、その理由が現代の労働力不足にあると紹介した。

なぜ、現代において、スリランカの茶園の労働力不足が課題になっているか。

スリランカは早い段階で無償教育を行ったこともあり、他途上国と比較しても識字率が非常に高い。

減少したとはいえ貧困層に属する人口はなだ多く(2011年時点で人口の約25%相当)、乳児死亡率、妊産婦死亡率はまだ開発途上国の数値である。ただし識字率は92.5%(同報告書)と開発途上国としては極めて高く、全国すべての子供に9年間の無償の義務教育を適用している。

海外情報ナビより

前回の記事にあるように、トーマス・リプトンが持ち込んだプランテーション式の労働は、強制労働・奴隷労働を想起させる。
茶摘み労働者への評判は決して良くはなかった。

識字率や教育レベルが高くなれば、親は必然と、茶摘み労働ではなく、もっと労働賃金の高い仕事に就かせようとする。

茶生産において、最初のステップの茶摘みは人の労働力が必要。それ以降のプロセスがどれだけ機械化されても人間の労働力がボトルネックとなる。

茶生産1位の中国、2位のインドは、14-15億人の人口を抱える大国だ。
都市部がいかに経済発展しようとも、地方や田舎にいけば安い賃金で農作業を行う労働力は豊富にいる。

スリランカの一般的な茶摘み労働の賃金は1日2-3ドルにも満たないという。(現地マネジャー談)

これでは、人手をが確保できない。
現在スリランカで茶生産が衰退、伸びない理由は、この労働力不足にあるという。

消費者の視点に立てば、工業化以前は上流階級の嗜好品として高価だったお茶が、これだけ大衆に広がっているのは、安価な労働力による下支えがあるともいえる。(今後は人権サプライチェーンのデューデリジェンスの流れなどで改善されることを願う)

2020年の世界の取引市場の茶葉価格は、1キロあたり2.5ドル前後だ。

International tea market: market situation, prospects and emerging issues FAO May2022

中国、インドでお茶生産が多いのは、国土の広さ、つまり農地面積の広さもあるのでは?と思ったが、そうではないらしい。
国土が広いといえど、茶葉生産に適した土地はそこまで多くなく、中国やインドの生産量が多いのは、労働力の確保が主要因だと言っていた。

お茶という植物は色んな国・地域で栽培可能だが、生産量と品質の面から適しているといえる土地は多くはない
年間の平均気温は14-15度以上。ただし夏は40度以上、冬はマイナス5度以下になる土地では難しく、同じ日の日中と夜間の気温差が高い方が良質な茶葉となる。

雨量も最低でも年間降水量1500mm以上で、理想は2200-2300mm程度とされる。

前回も取り上げたが、年中収穫できるスリランカと違い、インド(北東インドのアッサム地域など)では、年間を通じて茶葉の生産ができない。乾季に雨が降らないからだ。
さらに、インドやスリランカ、ケニアのような赤道に近い熱帯では、上記の気温を得るには必然的に標高も高くなる。

気温、降水量、寒暖差、標高などが複合的に合わさって適切な産地が選ばれる。(海抜0mでも他の条件が揃えば栽培はできるらしい)

※公式のソースが見つからなかったが、以下によると中国でも広範囲に栽培されているようだ。

中国のお茶産地は、中国中に広がっています。陸羽の『茶経』に「茶は南方の嘉木」と在るように、南の亜熱帯地帯を中心に産地が形成されていますが、中国の地図を見てみると、中国の真ん中を流れている長江を境目に北と南に分けることが出来ます。

もう少し詳しく見てみると、大陸での茶の生産は、北緯18度から37度、東経94度から122度の広大な範囲で行なわれており、その総面積は110万ヘクタールにのぼるといわれています中国茶の産地-4つの茶区 [中国茶] All About

スリランカの栽培面積は、こちらもソースの信用性はあるが、22万ヘクタール程度とのこと。
(Tea Production in Sri Lanka – Tea Exports & Main Tea Growing Areas)

スリランカは中国と比較して生産面積は1/5程度。生産量は1/10程度となる。

さて、数十年の中で、年々労働力が確保できず、世界的な投資も縮小していった。
Ambaのマネジャー曰く、「スリランカでは今でも150年前の産業革命時代にイギリスが持ち込んだ機械が使われているところもある。」

「今後、スリランカがどんなに頑張っても、生産量は抜かれていくだろう。」とのことだ。

戦略コンサルを辞めて、農業経営に転身!?

さて、衰退するスリランカの紅茶産業。
そこで、スリランカ政府などがコンサルティング会社に紅茶産業の戦略策定を依頼したそうです。

以下、スパイスアップの神谷氏から聞いた話を纏める。

代表者のサイモンはスリランカ生まれ、インド育ちのイギリス人。

元々、戦略コンサルティングファームのA.T.カーニーのディレクターだったサイモンは、2001年にスリランカの紅茶産業の戦略を検討するプロジェクトを担当することに。

その際に策定した戦略を、自分たちでやってみようと、プロジェクト終了後、コンサルティング会社を辞めて、農業経営者に転身した。

世界からの注文、訪問者が絶えない小さな茶園「アンバ・エステート(AMBA Estate)

とのこと。

戦略コンサルのプロジェクトで関わったアイデアを、「自分たちでリスク取って金出して実現してみるか!」って、漫画みたいなストーリーだ(笑)

自身もコンサル出身だからわかるが、確かに、ごく稀に、クライアントのために戦略を策定し、プロジェクト支援に入る中で、クライアント企業に転職する方もいる。

しかし、クライアント先に入るわけでもなく、自身でリスクを背負って起業。
さらに、投資先行型で足の長い農業ビジネスで取り組むのは凄い。。

さて、ではどのような戦略・思想を描いたのか?

「スリランカはもう生産量の量で勝負する国ではない。とことん品質を追求し、ブランド力で勝負するべきだ。」

フランスワインを見てみろ!既にカリフォルニアワイン、チリワイン、南アワインが出てきて、生産量は多くない。それでも、ハンドメイドでブティック型で作るフランスワインのブランドは現在でも圧倒的だ。
スリランカの紅茶の未来はそこにある!

そのためにも、茶摘み労働者から紅茶職人への転換が必要である。
プランテーション時代の労働のイメージを払拭し、若者がなりたい職業に名実ともに変える必要がある。

そのためには大規模な農園は要らない。
小規模でも良いから、世界に名だたる最高品質のセイロンティーを作れることを証明し、皆の憧れるモデルを作る。

これが、Amba Estateが目指した姿とのこと。

(ふー、ここに至るまで長文にお付き合いいただき、ありがとうございます)

素人集団がゼロから起ち上げ

Amba Estate自体は120年前に作られた茶農園を原点としている。

この茶園は110年もの歴史を持っています。
イギリス人たちが、南インドからインド人たちを労働者として連れてきました
厳しい労働環境の中、コツコツと貯金をして、自分で農園を切り拓いた珍しいインド人がいました。

高級オーガニックハンドロールド紅茶のアンバ茶園(Amba Estate)の茶畑・工場見学 | スリランカ観光情報サイト Spice Up(スパイスアップ)

その衰退していた茶農園を、2006年に上記のサイモン率いる、現経営陣が引き継ぐところからスタートする。

2006年当初は、まずはオーガニック栽培にこだわり茶農園を運営していく。
当時は、生の茶葉を栽培するのみで、茶葉の加工はしていなかったそうだ。

よく、農地を有機に変えるには最低でも3年の歳月が必要と言われる。
樹木であるお茶にも適用されるか分からないが、オーガニック認証を受けるのに3年の歳月がかかったとのことだ。

2009年、オーガニック栽培のグローバル認証を取得。ここから、茶葉の加工にも着手する。
中国が秘匿にしてきた茶葉製造の技術。茶葉製造は簡単ではない。

経験者のいない経営陣達は、試行錯誤しながら茶葉加工を行った。

マネジャー曰く「逆に、既成概念を持たずに、一つずつお茶のプロセスに向き合えたのが良かった」と言っていた。

※Ambaの茶加工については、次回の記事にて説明する。

「労働者(Labor)」から「職人(Artisan)」への回帰

Ambaは、低賃金で重労働な茶労働のイメージを払拭すべく、労働環境の改善だけでなく、スタッフの就業体系、インセンティブ体系などを作り変える。

一般的な茶生産に関わるスタッフは、Worker(作業者)として見られることが多い。
そこで、茶生産に関わるスタッフを、Laborではなく、Craftman・Artisan(職人)として扱うようにしていく。

以下は聞いた話だが、

  • 一般的な工場では、農園での茶摘み、加工での乾燥、発酵、分別など、各作業は別々の作業者が行う。しかし、Ambaでは、一人の職人が、茶摘みから茶加工まで行い、最終製品の品質に責任を持っている。

  • それぞれのプロセスは記録され、作った茶葉には自分の名前が記録される。納品時には、サンプリングの袋を2つ用意し、一つはAmba Estate側での品質チェックのテイスティング用。もう一つは、2年間ファイリング用として倉庫で2年間保管する。

  • 顧客からクレームが入った場合は、このプロットナンバーで、誰が生産・製造したか?2年に遡って確認できるという。

さらに、2015年に継続的な黒字経営となってからは、売上の10%を製造者(職人)にボーナスとして還元している。(利益の10%ではなく、売上の10%とのこと!)

憧れの職業にしたい!

その想いは現実となったようだ。

世界からの注文、訪問者が絶えない小さな茶園「アンバ・エステート(AMBA Estate)」

現在、Ambaで生産された茶葉の9割は輸出され、世界各地の高級ブティックショップやホテル、飲食店などに卸される。
残りの10%は、Amba園内のゲストハウスやアンテナショップなど国内で販売される。

地道な営業活動

ここから、話は「素人が始めたばかりのスリランカの小さな農園が、どう世界中の名だたるショップに繋がったのか?」に及ぶ。

2010年前後、最初の頃は試行錯誤の連続だったようだ。
ちょうどECショップなどが中小製造者が直接海外のバイヤーと取引ができる土壌が整ったころ。

1年目は、ネットでイギリス、ベルギー、日本、アメリカなどの良質なお茶を扱っているショップを調べては1000通以上のダイレクトメールを送ったとのこと。

丁寧に自分たちのストーリーを付けて送る。
1000件送ると、200件くらい返答があり、30件ほど「サンプルを送って」となる。
当初は少なかったけど、一度評判になると、DMする必要がなくなったと。

世界の有名ショップは想定以上に横のつながりがあり、例えばNYのショップで評判が経つと、ロンドンのショップから「NYのショップから聞いたんだけど、サンプル送って」となるらしい。

1年続けただけで、こっちから営業する必要が無くなった。今度は生産キャパが追い付かなくなったと。

2017年にスパイスアップが取材している時で、入荷半年待ちだそうだ!


世界からの注文、訪問者が絶えない小さな茶園「アンバ・エステート(AMBA Estate)」

絵空事が実現へ


  • 生産量ではなく、品質で勝負する!

  • フランスワインのように「セイロンティー」を世界一のブランドにする!

  • 働く人たちを労働者ではなく、職人として尊敬される存在にする!

その後、Golden Leaf Awardなど世界の名だたる賞を受賞するまでになる!

https://goldenleafawards.com.au/amba-estate/

紅茶(Black Tea)、烏龍茶、ホワイトティーで世界最優秀の章を受章したそう。

ちなみに、ホワイトティーとは、お茶の超末端の葉が開いていない部分だけを取って自然乾燥で発酵させないで作る高級品
ティスティングの時に飲んだが、紅茶とは違う味わいだった。

また、実は烏龍茶も同じくTea(茶葉)から作られる。起源は諸説あるが、中国で緑茶を作る過程で酸化(Oxidation)プロセスが中途半端に止まった茶葉を活用したのが烏龍茶になったとのこと。

Ambaでは緑茶も作っているが、世界の品評会に出すにはもう少し改良してから出したいとのこと。

皆に真似されるロールモデルへ


生産キャパを超えた大量生産はしない。
手作り、ハンドメイドのため、急激に生産量は増やせない。

現在の困りごとは

1)うちで働きたいという人が200名以上も待っていること
(当初は誰もなり手がいなかったそうだ)

2)世界中から注文が殺到し、入荷待ちが常態化していること
(既に相当価格を上げたとのことで、これ以上価格を上げて調整するのはサステナブルではないとのこと)

元々のコンセプトが、「スリランカ発で世界一の紅茶ブランドの成功例を作ること」だった。

そこで、Amba Estateの成功事例を真似してほしい、スリランカ中に広げたい!との想いから、2020年にCeylon Artisanal Tea Association (CATA)を立ち上げた。

https://www.goodmarket.global/ceylonartisanaltea

CATAのFacebookページにはこう書かれている

2020年に7つの小規模な紅茶生産者が集まり、セイロン職人紅茶協会を設立しました。 2021年2月現在、他にも10以上の小規模生産者が、職人的な紅茶作りの技術を学び、協会の正会員になることに興味を示しています。 現在、スリランカの4つの地域で紅茶を栽培・加工している会員がいます。

CATAのFacebookページより(筆者和訳)

年末年始の旅行でたまたま訪れたスリランカ、その農園で素敵な事業が見れたので、紹介した。

さて、最終回となる次回は、実際の茶生産・加工について、一般的な工場とAmba Estateとの違いについて紹介したい。

筆者は農業および紅茶に関して全くの素人であるため、専門家からみたら間違いや勘違いもあると思う。特に生産工程は工場見学で聞いた内容をベースに紹介する。

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#紅茶の名産地スリランカ
#茶工場見学

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