【神奈川のこと13】幻の初恋(横浜市中区根岸旭台)

根岸旭台のマンションに住んでいた、昭和50年(1975年)前後のこと。

隣にちょうど同い年ぐらいの女の子がいる家族が引っ越してきた。

そして、その女の子のことが好きになった。

今はもう名前も顔も思い出せない。顔を思い出そうとすると今は、NHKのチコちゃんが出てきてしまうのだ。

ただ、話した時や触れ合った時の、胸の奥がじわ~んとなる、温かくてくすぐったい感覚は覚えている。

その子は、おてんばなタイプではなく、優しくて包容力のあるしっとりとした子だった。

ある日の夕方のこと、私の家で二人で遊んでいた。私と弟の二段ベッドが置いてある部屋だ。そこで、ルパンと不二子ごっこをした。もちろん、私がルパンで彼女が不二子だ。夜、部屋で二人で過ごしているという設定だ。私は二段ベッドの下段に寝ていて、彼女が「もう寝ましょう、ルパン」なんて言いながらカーテンを閉めるしぐさをする。なかなか素敵な展開だ。

ただ、残念なことに、と言うか、無防備にも、その部屋の隣は台所で、母が夕飯の支度をしていたのだ。しかも、リフォームで壁を取ってしまったので、私たちのいる部屋は丸見えだった。

その子が帰った後に、母から「あんな遊びして、いやらしい」と怒られた。

当然だ。

しばらくして、その子はどこかへ引っ越してしまった。

とても淋しくて、その感情をどうすることもできず、私は駄々をこねた。

あのカーテンを閉めるしぐさ、何とも艶めかしかった。その姿は、今、峰不二子とチコちゃんの間で揺れ動く。

幻の初恋だった。


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