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アートの楽しみ方

【注意】この記事は、玄人向けの記事ではありません。
アートに興味はあるんだけど、楽しさがいまいちわからないというアート鑑賞初心者のための内容になっています。

「そもそもアートって何が楽しいの?」
「どんなふうに見たら楽しめるの?」

という素朴な疑問に、ひとつのヒントを投げかけています。

だから、【自分はもうアートの楽しみ方を十分理解している】という人には、
「そんなの当然やろ。。」「そんなの自分の力で楽しめばいいじゃん。。」
となる内容なので、そういう人は今すぐ読むのをやめることをお勧めします。

1.はじめに

まず結論から!
アートの楽しさはズバリ!「ゾワる」という言葉で表現したい。
「へえ」とか「なるほど」という少し弱い感覚ではなく、
(自分にとって)いい作品に巡り会えると、何かゾワゾワする。
全身の鳥肌が立ったりもする。
それは言葉には言い表しにくい感覚なんだけど、強いて例えるなら「強い共感」のようなもの。
自分の中の精神的な何かに、作品が放つエネルギーがカチっとはまる感覚。
あるいは、臨場感や没入感、空間もろとも包み込まれるような感覚。

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いい作品を目の前にすると、こんな感覚になる↑

この感覚を得たのは、どんな時だろう?
どうしたらこの感覚の楽しさを他の人とも共有できるだろう?

今までおそらく1000以上のあらゆる展示・展覧会を巡ってきた筆者が
現時点で考えた自分なりの「ゾワる」方法をこの記事にまとめてみた。
少し長いし、抽象的な部分も多いけれど、どうか最後まで読んでみてほしい。
そして「なんか変わってるけど、ちょっと面白いやん」
って感じていただけたなら、そっとスキボタンを押していってほしい。

2.初心者が陥りがちなアートあるある

こんな経験はないだろうか?

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「この作品は損保ジャパン日本興亜が53億円で買い取った記録的な値段の作品です」
「1897年にあの有名なフィンセントファンゴッホに描かれた作品です。
彼が活躍した時代はポスト印象派と呼ばれていて…」
「彼の生い立ちは貧しい農家から始まりました…」

とりあえずこんな話を知るものの、いったい何が楽しいのかわからない。
とりあえずアートを知っているとなんかイケてるから、今の歴史の話は知識として覚えておこう。
…ところで、あの作品自体はどんなところが魅力なんだい?

さあ、いかがだろうか。
おそらく誰しもが1度はどこかで似たような経験をしてるんじゃあないかな?
このケースで一番よくないのは、「作品を見ているようで見ていない」ということだ。
作品ではなく、作品がつくられた背景の情報を見ているだけ。

一方で音楽を楽しむ時は、作者の生い立ちや知名度からではなく、まず聞いてみる人が多いと思う。
そして意味なんかわからなくても、「なんかいい」とか「なんか違う」って
感覚的に味わうことができている
しかし美術となると途端に、作品ではなく文章を読み漁り始める
もちろん音楽にしても、美術にしても知識を身につけることの意義や楽しさは少なからずあることには間違いない。
でもそれは本質的な楽しみ方ではないし、多分それだけでは単純に楽しくないと思う。

3.アートの楽しみ方

じゃあどんなふうにアートを楽しめばいいのか。
答えは意外と単純で、

○じっくり観る
○たくさん観る

これだけ。
ポイントは「見る」ではなく「観る」というところ。

この二つについてもう少し詳しく説明したいと思う。

○まずはじっくり観よう

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冒頭でも紹介したように、作品を鑑賞する際に陥りがちな過ちの一つは、作品をみているつもりで、実はほとんどみていないということだ。
美術館などに行ったことがある人は、見覚えがある絵の隣に貼ってある説明文。
あれはぶっちゃけいらない。もはや純粋な鑑賞体験を濁らせる罠とも言える。(美術館関係者の方ごめんなさい!)

いや、もちろんあった方が楽しめる人もいるだろう。
でも、それは作品本来の楽しみ方を知っている人が、追加で楽しむための要素であって、それを読んだから作品の魅力や楽しさが分かるわけではないと思う。

筆者なりのアートの楽しみ方は、
知識を得る前にまずじっくり観ることだ。
ここで大切なのは「じっくり」ということ。

じっくり観ていると、だんだんと疑問に感じる部分が出てくるはすだ。

なんとなく全体を数秒だけ見て、見た気になっている人はもったいない。
隅々までよく観てみよう。

ではここで実際にひとつ、作品を観てみよう。

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カラヴァッジョ《リュート弾き》
1596年 96×121cm

この作品の第一印象はおそらく、「楽器を引いている若い女の人」でしかない。
でも、ここではいつもよりもじっくり観てみよう。

じっくりとどんなものが描かれているのかを観てみると

すべすべした肌の女性。(ん?女性?)
美しいデコルテと手のしぐさ(本物の滑らかさはやばい!)
楽譜の細密な描き込み(ページ浮いてる?)
無造作に置かれたヴァイオリン(なんでこの角度?)
なぜか斜めなテーブル(なぜ?)
用無しに見える洋梨(なぜここに?)
花瓶に生けられた色とりどりの花。(ん?花瓶どうなってるの?)
右の袖が黒い?黒い布かな?(なんで腕にかけているんだろう?)

さあいかがだろうか?
普段はこんなふうに作品をじっくり観ることはなかなかないのでは?
こんなふうによく見ていると、いろんなことに気づくし
「なんでここに○○が描かれているんだ?」
と疑問に思うことが出てくるはずだ。
そうなった時に初めて知識を求めるといい。
(今回はこの作品についての解説は、あえてしない。興味があったら自分で調べてみるか、筆者のInstagramにDMをくれればいい。その行動がきっとアートを能動的に楽しむきっかけになるはずだ)

余談だけれど、もっと楽しいのは、そこで何にも調べずに自分の体験や経験を元に独自のストーリーを考え出しちゃうこと。それって唯一無二だし絶対面白い!
知識ありきの見方は、作品を理解しようとする姿勢を生む。(メガネをクイクイしているイメージ)
それに対して、想像を展開する見方は自分の感性や感受性を磨くことにつながる。
どちらも大切だし、間違いではないけれど、自分が好きなのは後者。

冒頭の音楽の話に戻ると、アートもまさしく音楽と同じような楽しみ方で、まず観てみるのがいい。それも前奏だけサラッと聴くような鑑賞ではなく、じっくり、せめて1番のサビまでは聞き取るようなじっくりさで観てみよう。

初めて見る作品でも、知識なんかなくともじわじわとその良さを感じ取れるようになるし、その楽しさが少しずつわかるようになると思う。
同時に自分の好みの傾向なんかもだんだん分かってくる。

そうして現時点での自分の感性で楽しんだ後に、少し知識的な部分を調べてみよう。それは展覧会の図版でもいいし、ウィキペディアでもいい。

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音楽を試しに聴くように、美術もしばらく眺めてみよう。理解しようとしなくていい。気軽に新しい発見や、疑問を楽しむ感じだ。

○たくさん観よう

そして、じっくり見るのと同時にぜひやっていただきたいのが、たくさん観ること。

何も最初から美術館や画廊に足繁く通う必要はない。
普段から何気なくみる広告の作品、テレビに出てきた作品をいつもよりも注目してみるだけでいい。

もちろん実物に勝る魅力を感じ取ることは難しいけれど、観る機会が増えると自然と興味が湧いてくる。
さらに普段素通りしていたいろんなものに目が行くようにもなってくる。
自然と実物も見たい気持ちになってくるはずだ。

じっくり、たくさんみる。
そうすると自分の形や色の好みがだんだん鮮明になってくるし、作品がもつ「よさ」みたいなものが感覚的にわかってくる。

4.知識はおかず

知識を得るといいことは主に2つあって、筆者はそれを

作品に対する「解像度」が上がる。
よさを感じる「閾値」が広がる。

と表現している。

「解像度」とは作品に対する理解度みたいなものである。
歴史的なつながりや、過去の作品、作家とのつながりが分かると、
目の前の作品がどんなものに影響を受けているかとか
発想の元ネタや、きっかけみたいなものがわかって楽しい。

また歴史だけでなく制作方法なんかも知っていると、
「この部分はこの材料で、この順番で作ったんだなー」
とか
「下にこの色が塗られているから、画面の印象がこんな感じになっているんだなー」
「この部分簡単そうにやってて、めちゃくちゃいい仕事してるなー」
とか、テクニカルな面でより楽しめるようにもなる。

「閾値(いきち)」とは、好みの幅の広さのことを指している。
良さを感じ取れる幅、感度の閾値。

例えば、普段何気なく見過ごしている電車の中吊り広告ひとつにしたって、
デザインや行動心理学の知識がある状態で見ると、効果的な配色になるような製作者側の工夫が見えてきたり、逆にレイアウトの改善点なんかも思い浮かんだりして、それだけで楽しくなる。

彫刻について知識を深めると、街中でたまたま出会ったパブリックアートの楽しさに気づくことができるようになる。

工芸について知っていれば、レストランなどにいった時に料理だけでなく、使われている食器や、家具のよさを感じ取って、より食事が楽しくなるだろう。
同時に自分の家で日々使っている何気ない食器や家具の魅力がより増したり、新しく購入する際にも着眼点が増えることだろう。

こんなふうに、知識を身につけることは、そのもののよさをより深く感じ取ることに繋がりやすい。ただ誤解して欲しくないのは、知識だけで観るアートはそんなに面白くないということだ。
どこか物足りない気持ちになる。

食べ物に例えるならば、感性は「主食」で、知識は「おかず」といったところだろうか。

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おいしいおかずがあると、ご飯がさらにおいしくなるよね

5.さいごに

いい作品はこういった思考や発想、感性の面と技術面が噛み合っていて
作者がその場で作品を作っている様子が目に浮かぶような
または、その作品を通じて異世界につれていかれるような
そういうエネルギーを感じる。
そう。まるで「イタコ」である。作品を通じて作者が自分の中に憑依してくる様な、何かの感覚と強く結びついているような感じだ。
僕はそういう作品が好きだし、そういう作品に出会った時の肌がゾクゾクする感じが堪らなく楽しい。

最近、巷ではサウナが流行っていて、「整う」という言葉が通っぽくてかっこいいなーって思ってるんだけれど
アートを見てゾワゾワする感覚のことを「ゾワる」と表現するのはどうだろうか。

僕はこのアカウントでの活動を通じて、あらゆる角度からアートを紹介したり、時には解説を交えたりして、この「ゾワる」体験をより多くの人に味わってほしい。

(自分にとって)ほんとにいい作品に巡り合った時は「なるほど」どころの騒ぎではない。本当に感覚的な何かが作品とはまって「ゾワる」から!

いい展覧会とかいった時にSNSに「ゾワってきた」って投稿しよう!w


以上です。
はっきりとした結論を出したり、何かに導くような文章ではないけれど、
ここまで読んでくれたあなたの見方や考え方に少しでも刺激を与えられたら嬉しいな。

ではでは。




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