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吊るされた男

いつからか、図像学に心を惹かれていた。
といっても、「図像学」という言葉の定義を理解したのは最近のことで、かたちが語るメッセージに心惹かれていたのは、それよりもずっと前からだった。

大学では、かたちの研究というようなテーマで卒業論文を書いた。
その時から30年が経つ。
当時、正直なところ、強い意志でその大学への進学を希望したわけでもなく、強い意志でその研究室を希望したわけでもなかったが、あの時、図像学に出会うことになっていたのは、私はそこにいく巡り合わせだったのだと、今答え合わせをしている。

その前から、そしてその後も、ずっとかたちが語るメッセージに心惹かれ続け、私の中のそれが「図像学」と定義されるものに近いという認識をしたのは、最近になってからだけれど。

タロットカードは、図柄から意味を読み解く。
図柄、かたちが語るメッセージを探るタロットの世界に、私は引き込まれていた。

明け方、空が紫色に染まる頃。
1枚のタロットを引いた。

「吊るされた男」が目に入る。

今の自分に刺さるカードだ。
痛い。

「吊るされた男」の、もっともっと深いところに潜っていきたいと思った。
スマホを片手に、その図像の奥に潜っていく。

「吊るされた男」のモデルは、北欧神話のオーディン(Odin)という説がある。

オーディンは、知恵と探求心に長けた神である。
ユグドラシルの木の根元にある、知恵・知識が隠されているミーミルの泉の水を、自分の片眼と引き換えに飲むことで、知恵と魔術を会得した。
さらにルーン文字の秘密を得るために、ユグドラシルの木で首を吊ったが、9日9夜 自分を捧げた後に縄が切れて、命を取り留める。
写真の中のオーディンは、つば広の帽子を目深にかぶり、片方を捧げた彼の眼は、満月と三日月を象徴する。


Wikipediaより


カードの中の「吊るされた男」は、逆さに吊られながらも、穏やかな笑みを浮かべている。
そして彼の頭部には、黄色の光。

黄色い光が目に留まった私は、20年以上前に作ってみた帽子のパターンを取り出し、そばにあった黄色い布を帽子に仕立てた。

頭は、知識や思考のシンボル。
そこに閃く黄色い光。
アイデア。
物事を、逆さの視点から見てみよう。




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