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<タクドラ日記>タクドラは危険がいっぱい!

No.0016 
2015年9月6日(日)

久しぶりの日曜日の営業。

いつもよりゆっくり起きて結局出庫できたのは10時過ぎ。

それでも出ているタクシーが少ないのか需給バランスの関係でお客さんがどんどん乗って来る。

13時前には12,000円を超えていつもよりハイペース。

午後一ぐらいにミッドタウン前でお乗せしたご夫婦、溜池を抜けて有楽町までというご指示だったので六本木通りを下って行くと、時間があるので赤坂のTBSの方に回ってください、と。どうやら、昔仕事でこの辺に来た事があるらしく奥様と昔を懐かしみながら街の変貌について語り合っていた。赤坂通りを走りながら、「せっかくですから、日枝神社を抜けて国会議事堂の方まで行ってみますか? 」と提案すると、「ええ、そうして下さい」と。

途中、日比谷高校の裏に来た時に「ここが有名な日比谷高校です」と告げると、お客様はすぐに「あ、そうそう、庄司薫の」と。これでお客様の年齢が推測できたので色々会話をすると、どうやら殆ど同世代と判明。早稲田の理系出身で埼玉の会社に永年お勤めなんだそうでした。大学の同世代もやはりリストラ等で皆さんいろいろ苦労されているそうで、「大変な時代になりましたね。運転手さんも頑張ってくださいね」と言われてお別れしました。

午後も順調で、いつもタクシーの長蛇の列が並んでいる東京駅八重洲口もタクシーが少なく5分も待てばすぐにお客さんが乗せられました。

夕方18時時点で3万円を超え、青タンタイム(22時から翌朝5時までの2割増しの時間帯)が始まる時点で4万円を超えていたのでいつもの平日より良い数字。

しかし深夜に入って渋谷のセンター街に入ったのが失敗でした。

泥酔した若者と彼を介抱するみたいな形で乗車された女性。二人とも20代だ。

男は腕全体にブラックのタトゥーを入れている。

女は男をバックシートに押し込むと自分は助手席に乗り込んできた。女が助手席に乗り込んだ瞬間に嫌な予感が走った。

それでも行き先は、「高津経由宮前平!」

この日は早めに上がろうと思っていたので、これをこなせば売上げは5万円を超えて遅めの出庫、早めの帰庫を考えればそれなりに満足のいく数字。

しかし、男が激しい言葉で女を責め始めた。

「どこに行くんだよ、オレはまだ飲むんだよ、帰させろよ!」

 女は小柄な美形な女性で気が強い。無理を言う男に言い返す。

会話の内容からどうやら男はミュージシャンらしい。多分ロッカーなのか。

途中から事務所に帰るとか騒ぎだした。

狭い車内の中で大声で叫び鋭いナイフのような辛辣な言葉が行き交う。

「オレをどこへ連れて行くんだよ〜、ふざけんなよ、停めろよ!」と。

一体この男、自分を尾崎豊とかに思ってんだろうか?

最初は男と女の会話だったが、男は矛先を僕に変えてきた。

「おい、運転手! オレを監禁すんのかよ。オレは行き先なんか言ってないのになんで勝手に走ってんだよ。警察に電話するぞ」「おい、運転手、何無視してんだよ、ふざけんじゃねぇーぞ」男は子供が駄々をこねるように無邪気な言葉を重ねてくる。

こんな内容の辛辣な言葉が5分ぐらい僕に向けられたので、女も相当申し訳ないと思ったのか、「運転手さん、すいません。停めてください」と。上馬を過ぎたところで左車線に寄せて停車すると、女は料金を払った。しかし男の執拗な言葉が尚も継続する。

僕がバックシートを見ると、男はシャツを捲り上げ自意識と自己顕示欲が皮膚の中から滲み出てきたようなタトゥーを見せつける。すると突然彼の表情の中に殺気が漂う。無邪気な馬鹿が狂気と化した時ほど恐ろしいものはない。

怒号と罵声が続き停車してから10分過ぎても男は降りない。女が大雨の中、外に降りて泣きながら男を引っ張って男を引き摺り降ろそうとするも男はシートに張り付いたようにびくともしない。

僕が、「申し訳ない。これ以上営業妨害するなら警察呼びますよ」

すると、その言葉に火が付いたのか、「何が申し訳ないんだよ、え? お前、オレを舐めてんのかよ。警察呼ぶんなら呼べよ。オレはもう何度も裁判やってんだ、何でもねぇ〜ぞ! おい、、、」

何かの拍子に女の力が男の力を上回ったのか、あっけない程急に男は外に引き摺り降ろされていた。そして女は早く行け! と僕に合図した。

結局、上馬までの料金は貰えたけど、宮前平までは行けなかった。

そして彼らを降ろした後、止めどない虚しさが込み上げてきた。

俺、何してるんだろ?

「この仕事、いつまでも続けちゃだめだな」という声が聞こえてきた。 

この後、仕事を継続する気にもなれず、午前1時近くには営業所に帰庫したのでした。朝10時に出庫して午前1時帰庫で5万円ちょっと。

とんだ日曜でした。

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