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日本語教師日記157.どうやって言葉を増やすか(2)やっぱりカード

占いは、黙って座ればぴたりと当たると言われますが、語学の学習は黙って座ってマスターできるわけではありません。

先生、宿題をくださいと言って、作って送ってもやらないとか、最初はやっていたけれども、気持ちの降下に正比例してやらなくなる。

これは「人間だもの・・・・」、いいとしましょう。

困るのは、やる気が少しずつ減ってきても、レッスンを続けてくださる限りは、教師のこっちが生徒と一緒になって、だるだるとやるわけにはまいりませぬ、
ということです。
当たり前ですね。
眠そうな顔、興味なさげに目が泳いでいるお人を前に、
嬉しくて仕方ないふうに、張り切ってしゃべる1時間に費やすエネルギー。
いただく授業料は、張り切り料か! というぐらいです。

大あくびを連発される向きには、
「ちょっと、先生、吸い込まれてしまうから、
そこまでの大あくび、やめて?」
と一言申し上げますが、その週のレッスンでMEETなり、Skypeなりzoomの画面の向こうにその姿が浮かび上がるまでは、彼が、彼女が、すんごく眠いのか、体調子がいいのか悪いのか、職場で学校で疲れているのか、嫌なことがあったのか、わかりません。
出たとこ勝負です。
出てきたら、いきなり泣いている人というのも長い間にはいて、
「レッスン、別日にしようか」と提案しても、「いいえ大丈夫です・・・」。
結局、お悩みをつぶさに傾聴することがありました。
これはもう、なんでもありと思って臨むしかありません。

ちなみにこんな生活を長年続けてきて、私の人格も高くなるかと思いきや、
別にそうではないところが悲しいところです。

特に、お子様生徒方は、始めた時のハイパーぶりを思うと、こっちが深くうなだれて、なんなら泣きたくなっちゃうぐらい、(やる気が)急降下する子が少なくありません。

最初はいいんです最初は。
大好きな「スパイ✖️ファミリー」の話をしたり、
日本ではこうなのですか? ああなのですか?
と、日本生まれ育ちの私と話すだけで楽しんでもらえますので。

まずいのは、
「2、3ヶ月勉強したら、日本語が喋れるようになり、
アニメもコミックも日本語のままで楽しめる」
・・・ぐらいな幻想を抱いて私のもとに漂着される子供さんの多いこと。
日本語の個人レッスンを受けられるぐらいの子供さんは、
ヘリコプターママがついていることが多いですので
続けてはくれるのですが、教えていて夜は1時間の集中は難しい。

そしてやはり、なかなか語彙を増やしてくれないことが多いです。
やる気があってもなくても、初期の高揚が落ち着いてくると、なかなか新しい言葉が頭に定着しません。初心者の間は覚えることもたくさんあり、暗記は誰にでも面白くはないものですから、同情します。


覚えやすく、頻出する「い形容詞」と言えば、

大きい・小さい
おいしい・まずい
高い・安い
暑い・寒い
熱い・冷たい
面白い・つまらない

という感じになります。
面白いことに、左側に書いた順番でこちらも導入しますし、覚える方も、左は覚えるが右はなかなか覚えないということが起きます。

イラストや写真を見せながら発語させる
上記の形容詞の入った英文を日本文に訳させる

という段になりまして、
「デパートの服は高いけど、ユニクロの服は、あー・・うー・・
えーと・・・」
となって、時間ばかりかかり、授業がすすみません。
先回りをして教えてしまうとためになりませので、ある程度待ちます。

「cheap….cheapp….あっ、わかりました、やさい?」
「惜しい。やすい、ですね」
ということもあります。

これだけ覚えてきて、と表を渡しても、
これだけ覚えてきて、と、Quizletで単語カードを作って渡しても
(そういうアプリがあり、読み上げてくれたり、いろんなゲームになっていて、多少は面白いと思うのですが・・)

次のレッスンまでに、やるかというと、やらないですね。
なので、ここから先は昨日お話ししたことと同じです。
レッスン中にいきなりカードを出して、言ってもらいます。
だれてきたときのリフレッシュにもなります。


カードは手書きです。ダイソーです。ちょっと私のコーヒーのしみもあります。

私:はい、これは?
生徒:おもしろい・・interesting?
私:そうです。反対は?
生徒:おもしろく・・ない?
私:いや、間違いではないが、ほらあったでしょ?
生徒:うー・・・んんん・・・

で、私はじわぁ〜っとカードを曲げながら、裏に書いた反対語の一文字目を見せます。


生徒:つ・・・つ・・・。つぅ〜・・

もう一文字見せますと、
生徒:あっ、つまらない?
私:そうです。次、これは?

ぐいぐい行きます。

最初は「左側系」の覚えやすい方の面から行きますが、2周目は難しい方から始めます。

い形容詞とな形容詞、名詞と動詞のカードを作ってあります。

動詞の方は、一つの言葉の裏には、ての形を書いてあります。

辞書形、ない形、可能形は変化のルールを覚えればそこまで苦しみませんが、使いでのある「て形」は、難しいです。
が、もう覚えてもらうしかありません。
日本のアメリカンスクールでは、て形を覚えるための歌を覚えさせますが、大人相手にそれもないか。意外といい気がするのですが。

授業では、て形の作り方は教えますが、話しているときにじっくり思い出して
て形を作ろうとしていては会話の流れが阻害されます。
考えなくても咄嗟に出てくるように、覚えていただきたい。
大変ですが、一度覚えてしまうとあとが楽なのでがんばってください。

カードは ひらがな・カタカナ・漢字も書いて作ってあります。
実は、ご苦労さんなことに、先ほどのQuizletでも一通り作りました。
現代に生きる、デバイスの大好きな大人も子供も、これを渡せば自分でやるかと思ったからです。

んが・・
やりません。
まあ、私が日本語の生徒でもやりません。

そこで、昔は多用していたカードをまた使うようになっています。

よく、馬を水場まで連れて行っても、水を飲ませることはできない
と申します。

日本語教師は違います。
水場まで連れて行って、水を汲んで口元まで持って行ったり、あの手この手で、飲んでいただきます。

言葉の数がないと、勉強していても、広がりというものが全然生まれませんから。
今日も、いくつものレッスンで、なんの脈絡もないタイミングで、しゅたっ、とカードを出して、ぐいぐいと覚えてもらっております。

他の教師の皆さんは、どんな工夫をされているのでしょうか。




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