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エッセイその95.翻訳の沼(8)どういう口調で喋らせるか②

昔は 洋画というものは、平日夜9時から2時間弱の枠で、
吹き替えで観るのを楽しみにしていたものでした。

野沢那智さんはアラン・ドロンと決まっていて、
同様に、広川太一郎さんはトニー・カーチスと、
超当たり役だったスノーク(ノンノンのお兄さんね)。

武藤礼子さんはエリザベス・テーラー、
向井真理子さんはマリリン・モンロー、
納谷悟郎さんはチャールトン・ヘストン、
大塚周雄さんはリチャード・ウィドマークに刑事コジャック。
😶😶・・・・懐かしいです。

私は今大人気の声優さんは全然知りませんが、
(でも竈門炭治郎の声優さんは大好きですが)、
当時の錚々たる面々の吹き替えというのは、まさに、
洋画を見る楽しみの半分を支えていました。
(私はオールド映画ファンなのであって、
年齢が「そこまでオールド」ではありませんのでどうぞよろしくです)


さてその洋画の吹き替えですが、言葉遣いも調子も独特です。
誇張したあの喋り方が、漫才のネタになるほどでしたね。


同じく、読む方=翻訳も、翻訳調というものがあり、
紋切り型の「喋らせ方」があります。

昔の翻訳の中には、

おお、神様!
く◯ったれ!

などと、原文が透けて見えるものが多くありました。

なんてこった!

は、吹き替えでも翻訳でも多用されていました。
ポパイなんて、二言目には「なんてこった!」って言っていました。
浦野光さん。懐かしいです。
なんてこった、は現実には、本当に聞きません。

英語の

Shi◯!  ◯=t
◯uck!         ◯=f
◯itch!         ◯=b



は、ある状況下で思わず口をついて出てくる言葉です。
swear wordというのだそうです。
これは、「罵り言葉」「口汚い言葉」という訳がついていますが、
しまった!的に、独り言で使うときもあります。

うちの車が、別の車い横から当てられ、廃車になる事故がありましたが、
ドン!という衝撃と同時に、夫が着ていた赤いジャケットが目の前を塞ぎ
(シートベルトをしていても、夫の体が一瞬私の前に飛ばされまして)、
同時に普段めったにswearをしない夫が、

◯ァック!

と言いましたね。
そのあとに、youをつければ、相手に向かって言ってるんですが、
これ一言だけだと、まあ・・うわ! みたいなことなのかなと思いました。

その夫が、うちの狛犬シスターズが悪い言葉を使うと、すかさず
Don’t swear!
と言いますね。

海外ドラマを見ていて、お父さんお母さんや、厳しいおばさんなどが、
四文字ことばを口走った子供や若者に、

Language!
ランゲ〜ジ!

と言いますが、これは

「これ、言葉に気をつけなさい」

ということだそうです。
そういえば、うちの義母もよく言ってました、うちの子らに。

もちろん、言葉の本来の意味から離れていますから、
これは訳さないで、
「これを言った状況はどんなものか」
をじっくり見た上で、そこで言って不自然でない言葉を選ぶべきです。

ぶつかれたときは「うわっ」

仕事のアポをすっぽかしたときには「やばっ!」

みたいな感じだと思うんですが、バイリンガルではないのであまり好き勝手に意訳することはできないでいます。
その点、夫と娘らに聞くと、「それはこうなんじゃないの」と教えてくれる時に、三人が一致しますので、そこらがバイリンガルなのかなと思います。


Shit! を「畜生!」としている翻訳家さんは多いですが、

チクショウ!

なんて、サザエさんの中で大工さんとか出前持ちの人が連発しますが、
実はあまり現実に、言っているのを聞くことはないですよね。

一つ一つの言葉は、辞書に引けば出てきますが、
辞書が助けてくれないこともたくさんあります。

fairly かなり、相当に、いくらか、いくぶん
very 非常に、とても、大変、まさに、非常に、いかにも
pretty (可愛いほうでないとすると) かなり、相当に、結構
quite かなり、なかなか、まあまあ、ほどほどに、多少

これだけあると、じゃあどれを使うの?
しかも、一つの言葉の中に、結構大きく違う言葉が出てきます。
quiteなんか、迷いますね、どうすればいいの?

このような例は無数にあります。

使う言葉を違えている以上、

It is fairly good.
It is pretty good.
It is quite good.

というとき、気持ちの違いや、ニュアンスの違いがあるはずですね。
けれどこればかりは、日本で生まれ育ち、
英語は「勉強の対象」できている私には、手をつけられない部分です。

そこで、夫を捕まえて、その辺を洗い直そうとするわけです。

あのね、夫が冷たい雨の中でずーっとタクシーを待ってるわけ。
でね、みんな列作って待ってるのに、川下の方って言うのかな、
手前に歩いて行って、並んでる人が順々に乗り込むはずの、
今しがた、向こうから来たタクシーに乗っちゃう人がいるわけよ。

「ああ、いるねぇ。腹立つねぇ」

そんなとき、夫ならなんて言う?
F Word、言う?
(Fワードは、頭にFがつく罵り言葉で、ほんと、言ったらだめです)

「言わないかな」

You, bastard!   ぐらいは言う?

「言うかな? 言うね」

そっか・・じゃこんなときのYou Basterd!は、

なんだよう!
あ、汚ねぇなぁ〜!

・・かな・・・・・いやいや・・

あっこら!

ぐらいがいいかなぁ。

あんにゃろー とか? 昭和っぽいかな?

などと、考えている時間が 本当に楽しいです。

ちなみに、バスタードは、「非嫡出子」のことですから、
訳すにこと欠いて、
「この私生児め!」
とした翻訳があったけど、さすがにこれは駄目ですね。
原義をなくしてしまった言葉はいくらでもありますから。


さて、英語には、キリスト教に関する swear wordや 感嘆詞が多いです。

Good Heavens!
Jesus!
Jesus Chirst!
For God’s sake!
For Chrsit sake!
What the hell!
God!
Oh my God!

まさかこれを、
「良い天国!」「イエス様!」「イエス・キリスト!」
「神のために!」「キリストのために!」
「なんだ地獄!」「神様!」「ああ我が神!」
と訳す人はいないでしょうが、翻訳小説の中では、
危ないぐらいレベルなら、結構あります。

以前は、翻訳小説で「ああ神よ!」をよく見かけました。


Oh My God! は、今は手軽にいろいろなリアリティ・番組やYoutubeで、
自然な会話の中でたびたび聞くことができるようになりました。
若者でこれを、「おお、私の神様」と言っていると思う人は、
まあ皆無でしょう。

ええと・・、例えばなのですが、

「家に帰ってきたら、ご主人が自分の友達と寝室で仲良くしてた」わけです。

妻:Oh My God!

夫: Wait, no, this is not what you think, I can explain!

「おお神様!!」
「待て! これはお前が思うものじゃない、説明できる!」

💧こういう訳が実際にありました。

これぞ筋金入りの、「原文の透けて見える翻訳」の好例でしょう。
誤訳大辞典に金の文字で載りそうです。

私ならどうするかなぁ・・・

大パニックですよね。だから・「えっ」

かなぁ。

「きゃっ」とか。

「きゃっ!」
「あっ、違うんだ、聞いてくれ!」

ぐらいかなぁ。

悩みますね。
この悩んでいる間がまた楽しいんです。

これでまた、ご飯の時間がまた大幅に遅れます。

しつこく続きます。

サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。