日本語教師日記102.たまには珠玉の大脱線
前回、いきなりデスクの下からスチールギターを取り出して、
♪し〜んぱ〜い、ないからね〜♪
とひと鎖歌ってくれたC君。
この日も、(まあまあ)真面目にレッスンが始まりました。
「Cくん、おはこんばんちは!(どこが真面目?)」
ーー先生、おはこんばんちは、お元気ですか?
「お陰様で元気にしています。Cくんは?」
ーーぼくも元気です、ありがとう。
順調な滑り出しです。
「1週間は早かったですね。何か大事件とか大ニュースとか、
泣きたくなることとかありましたか?」
ーーはい、音楽をいろいろ楽しんでいました。
「ほうほう。では、脱線すると長くなると思いますので、
そうだなぁ、今まで私たちがやった経験のある楽器を、
代わりばんこに出し合いましょうかね。
もちろん、全部日本語ですよ」
そう。
脱線は楽しい。
でも楽しくて良いのは私だけで、生徒は高い授業料を無駄にすることに。
なので、あっちへふらふら、こっちへふらふらする生徒(と、自分)を、
なるべくシャッキーン!とさせ、自由会話であっても、間違ったら後で説明できるよう、ノートを広げて万年筆を握り、準備怠りない私です。
「では、私からいきますね。
小中学校では、音楽体験ということで、いろいろな楽器に触りました。
シンバル・オルガン・ピアノ・トライアングル・鍵盤ハーモニカ・太鼓」
ーー僕も同じです。リコーダー、横笛。
太鼓は、好きになって高校になってから再開しました」
「なるほど。私も、地元の児童館で、和太鼓を習いましたよ」
ーーあ、ちょっと待って先生。これを見て下さい。
C君が送ってきたYoutubeのURLをクリックすると、おお!
今も美貌のC君ですが、栴檀は双葉より芳しとやら、
すっごく可愛い高校時代の彼が、和太鼓を結構上手に叩いています。
「Cくん、このリズムはね、三宅というものです。かっこいいよね!」
ーー先生は同じ太鼓をやってましたか?
「同じですね。あとね、歌舞伎の舞踊の伴奏で鳴り物というのですがね、
それをやっていました。
膝の上(大鼓=おおかわ)、肩の上(鼓=つづみ)というやつと、
チャンチキという鉦と、締め太鼓っていう、床に置いて打つ太鼓をやりました。
ーーYoutubeありますか?
「ありません、何世紀も昔のことですから。
あと、鼓笛隊というのに、小学校時代にやっていました。中太鼓」
そのあと、長女次女が6年関わった体育会系の吹奏楽部のことや
そのときに楽器を決める面接のやり方や、
Cくんがパーカスであったこと、
私の唇が、リード系でなくてマウスピース系であることなど、
話が弾みました。
C君のマーチングバンドが、自由の女神が見下ろす公園でパフォームしているYoutubeなども見せてもらい、ブラスバンド・マーチングバンド偏愛の私は大いに興奮しました。
やっぱりパーカス(パーカッション)は花形だよね!
日本ではね、ここ数年、大会でのシンバルの花形ぶりがすごいんだよ!
でも、パーカスやってて、腰にきたでしょ。
ーーーはい、腰にきました。
でも、またやりたいでしょ?
ーーはい!またやりたいです。人生のピークでした。
わかる! そのあとは落ちる一方でしょ、高校のあとは?
ーーそうです! 落ちる一方です!
で、先生、脱線してしまいましたが
(いやもうずっとしっぱなしですよ、Cくん?)
先生は小学校のあとは、どんな楽器をやっていましたか?
「その後ですね。
ええと・・・三線、ピアノ、声楽ですね。声楽はイタリア古曲」
ーー僕は、クラリネットとアコースティックギターとガットギターとキーボードですね。
「いいねいいね。コロナ終わったらガレージバンドやろう!」
ーーやりましょう。
ここで、少し指導をいれました。
ーーちなみにCくんね、「弾く」は「引く」と違いますよ。
ストリングがあるのはみんな「弾く」だから。
ピアノ、三線、ギターね。
吹くのは、 blowing instrumentsですよ。
叩くは知ってるね?
「はい、わかります」
ーーわかったらメモメモ!
「は、はーい」
C君のご両親は私と同い年。
つい、娘息子に肩入れするような雰囲気になっていきます。
全部日本語で話してもらっている中で、弱いところや間違いやすいところがわかってきまして、必ずその授業時間以内に教えています。
脱線もまたよきかな。
授業を終わるときに、
「Cくん、ごめんね。大脱線してしまった。
音楽とアニメとコミックと小説と映画となると、持っていかれてしまうの」
と言いましたら、Cくん、いい子です。ぶんぶんとかぶりを振って、
「全然大丈夫です。なぜって、先生は、僕の先生で、友達だから」
ですって。
涙腺開きそうです。
息子というより、孫息子な感じです。
そういえば世界のあちこちに、
私が目が見えなくなったら日本語で本を読んでくれる約束をした子や、
私が引退したら、庭にツリーハウスを作って住ませてくれる子など、
国際的息子娘・孫ユニットがいます。
これも幸せなことではないでしょうか。
自己満足の振り回し、失礼いたしました。
サポートしていただけたら、踊りながら喜びます。どうぞよろしくお願いいたします。