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【マンガ紹介 #12】イズミと竜の図鑑【小ネタバレ】

竜と言えば名誉!竜と言えば神秘!!竜の秘密は神の秘密!!古臭くテキトウに書かれてしまった竜図鑑を書き直す旅に出る。


作品データ

巻数:1巻(連載中)
作者:凪水そう (著)

大体のあらすじ(1話から3話)

通常は1話の内容を描写事に記載するが、本稿は上記1番上のリンクのコミックウォーカーから1話~3話が閲覧できるだけでなく、その3話が一区切りになっているため、軽く説明する形にする。リンクを読んで頂いた方は、この項目をすっ飛ばして頂いて構わない。
環境調査は大事な編集局の仕事の一つ。見慣れない色の液体がそこかしこに流れる洞窟内。筆を進める記者、周りを見る護衛。その護衛の狼は周りにモンスターの気配があると言う。
些末なやり取りの後、知らぬ間に見知らぬ天井を這う巨大な何かがこちらを見ていたことを護衛は密かに気づいた。刺激せぬよう、直ちに去れるよう、護衛対象の鼓膜を一旦叩き割る。これが冒険者の日常。
成果云々の話しもあるが職業として一番安定しているのはパトロンが居ることは、どの世界のどの時代も同じ。そのパトロンとなっていた護衛対象の鼓膜を破っただけでなく、調査を咄嗟に中断したのもそうだが、相性の問題もあるためか、別のパトロンもといバディを見つける必要になる。
護衛のアルフに突き付けられたまがいも無い現実。
訪れたのは第二編集部部長の元へ、愛煙家であることとガラガラの部署の持ち主でもあるが、何よりもアルフに宛がっていたパトロンのボス。今回はイズミと共に調査を行う。
そのイズミがちんちくりんの少女、曰く呪いで年老いが無いと申すが、アルフの目からしたらか弱い以外の言葉が出てこない。ただ彼女は「吟遊詩人」という超絶レアジョブ。それに裏付けられた知識と記憶量。
そして、そのイズミとならば「竜図鑑の第二版に携われる」(なお第一版が大法螺吹きの絵日誌だった)。ただまぁ脅すようにゆっくりと話す部長と自分の状況と竜に携われる興奮から快諾するアルフ。
この興奮はしばらく付き合いのある部長には筒抜けだった模様「いるだろう?気になるあの子ってやつが。片思いの竜の一界ぐらい」この世界では「界」が竜の数え方だそうだ。
少々のやり取りの後「モモイドラド」なる竜を追うために出発、6時間の船旅に宿の確保。
宿で珍しいお肉を振る舞って頂いたついでに「鉱物獣」が特産物である話しと、人間の手で作られた実質天敵が居ない彼らの畜産事情を話された。また竜の話しにも少しだけ言ってくれたが「やはり竜は危険と?」「んん、ありゃ竜がッていうかネェ」と何やら歯切れが悪い。
険しい道をアルフが手を丁寧に取りながらイズミをリードする。その手を繋いだことからフラッシュバック。着実に最期を迎えてる兄の手を握りながら、竜が夜空に煌めきながら飛び去る光景が映し出される。大事な二人の会話と共に回想は終わり、物語紹介として数多の竜が紹介される。奇怪でありつつも神々しい無機物的な竜と特殊な模様を自身で渦巻かせながら躍動的に振る舞う竜、その二頭以外にも様々な竜が調和を示すが如く円を結ぶ。
そしてタイトルと共に「モモイ・ドラ・ド」の一面。偶然二人は出くわした。謎の円形模様がそこかしこにありつつも、子供の絵のような顔と、文字通り何もせずとも浮遊する能力をありありと披露する。
興奮のあまり腰を浮かせつつあるイズミと、あまりにも荒唐無稽な物理と共にある竜を前に慎重に慎重を重ねるアルフ。だが安全について話す前にモモイ・ドラ・ドの逆鱗に触れる、破裂音に敏感だそうだ。
怒涛の一撃を回避したのは良かったがそのまま遺跡が崩れ、軽く対処している最中にあの巨体は遥か遠くへ。
ゴブリンに絡まられたり、あの巨躯を追いかけつつ、一夜の野宿を過ごす。それぞれの視点の思い出話と共に会話に花を咲かせる吟遊詩人。アルフは確信する、自分の第一章が始まった瞬間を。あとついでと言わんばかりに鉱物獣を捕食できる竜のフンらしきものも見つけた。
ただし次の日にそのままフンを辿って行ったら「ナデル族」に少々手荒な歓迎をされた。無論竜が所以だ。
そのままナデル族の族長が竜の権利図について説明、4色問題のようにそこかしこに貼り巡られた表面とその権利を示す小さな旗。曰くその表面でのみ攻撃が許され倒した者は竜の全てを手に入れる。「モモイ・ドラ・ド」とは祖先の言葉で「美しい傷の竜」だそうだ。遺産として先ほどの権利が譲られるだけでなく、子供が竜の権利を欲しがるのが当たり前、竜が一族の経済に大きく携わっていた。
翌朝幸運にも「モモイ・ドラ・ド」を狩る一家と共に同行する機会が偶然にも訪れた、断らないわけがないだけでなく断れない雰囲気。城に打ったら大穴、生物に打ったら霧になる火砲が竜狩りに用いられる。
火砲と共に轟音、そして明確に弾頭は竜へと。雷のような鳴き声と共に竜はうねりを見せその巨躯を暴力的にたたきつけたと見せかけた矢先、最初に会った時と同じようにそのまま過ぎ去った。まるで我々を生かすかの如く。
後日、編集部部長は嬉しそうに交渉の場もとい掲載内容の概要説明をする。竜の図鑑には最高の箇所になる、折り重なった歴史を竜に記す一族は嬉しそうにそれを文字起こしすることに賛成。
編集部部長はまとまり切った記事内容に大変満足。ただイズミの願いは煙たがれる。残ったのは相方のアルフからの提言のみ。
「あの狩り、互いに殺気に欠けていました」恐らくあのまま続けていれば100年は狩られないし、この100年も竜の寿命関連の数字ではなく、あの閉鎖的そうな部族が次の技術を使用するまでの年数ですらない何か。
「彼らに狩り続けられている限り、竜は生き延びることができる」その一言と共にイズミも一言加える「寄生、あるいは、共生」。
「モモイ・ドラ・ド」のページは終わり、次の界までは平穏を噛み締める。

惹かれた点(濃厚な世界観)

異世界転生のおかげか、様々なファンタジーが描かれるようになり強い題材が有ったり我々の日常に近しい何かを組み込む場合もあるし、何よりデザインを大きく拘れる昨今になったおかげでリアルな亜人間やモンスターを描く事ができる。
ただしそれらは一つや二つだったりするが、この作品はさも当然が如く「編集部と取材・獣人・部族や国・竜・その他環境」を織り交ぜる。雑多な表現だが、これを料理で例えるなら「ハンバーグ・オムライス・ナポリタン・ドリア・ステーキ」のような王道を全部混ぜたような料理になる。だがこの作品は圧倒的ページ量と文字数で誤魔化したりすることは無く、まるで川の流れが最初からそうであったかが如く、平然とこれらファンタジーの要素を織り交ぜて物語を勧める。ハッキリ言って異才。
この表現力の高さをより細かく説明するならば、描写で表現する・しないの両面をきちんと汲み取ってプチ複線として取り扱い、場面に応じてリサイクルさせている感覚。それを証拠に流れるようなコマ送り、絵画を彷彿させるような街の描写、コマ間の手綱取りが如くの台詞、息抜きさせるための演出の流れ、様々な物と恰好を描き抜く描画力、追及しすぎずふんわりと香りだけ残す日常性。よく「無駄のない動き」と格闘漫画で表現されるが、この漫画も同じく無駄のない動きを体現している、と思っている。少なくとも私はここまで褒めちぎっているが、過剰評価ではないと胸を張って言いたい。
判り易いモチーフと複雑な背景を両方とも所持させているキャラクター達は漫画としてはかなり常套手段のハズなのだが、費やしているコマ・話数が少ないにも関わらずそれがきちんと全部表現されている。1話読むごとにアルフが「ただの寡黙狼人間」ではなくなり、イズミも「好奇心旺盛頭脳ちんちくりん」から離れていく。二人の複雑なストーリーに二人のお約束も垣間見えるおかげで、どこか遠くの存在になってる感も少ないので、読者と全キャラクターの距離感の間合い取が異常なまでに精密。見た目やモチーフや属性が似たようなコンビは幾らでも居るが、アルフとイズミはこの二人だけと確信させるほどのものである、

圧倒的スムーズさ(ネタバレ付きコメント)

話しの視点のほとんどがアルフにある。過去のシーンがチラホラ出ているし件の兄貴と冒険している時の様子が、イズミと冒険してる時と全然違う。しかもそれを最小限のページ数で表現しきっている。次第にというか確実に、アルフの表情を読み取れるようになる。口と鼻無しで、鋭い目の要素しかないハズのアルフが、しかも比較的寡黙でジョークのLvもたった2のアルフの様子を簡単に汲み取れるように作者が大変工夫している。アルフを理解するのに、アルフを好きになるのに全然時間がかからない。
視点はアルフにはあるが、イズミは作用点のそこかしこに居る。アルフの職場関係を補間するのも、知識と好奇心の連携を行うのも、そして事あるごとに正しさを問いかけるのもイズミの役目である。某テニス漫画で流行ってしまった「俺はデータを捨てる!」というような、自分の知識が足かせと思わせる場面が全然ワンパターンではなく、知恵に苦悶を織り交ぜている。同じくイズミを理解するのも好きになるのも時間がかからない。
1~3話内に出てきた部族もそうだが、次の一篇のエルフの国も政治と文化とエルフらしさを坩堝に入れて成熟させたような素晴らしい設定になっている。特に昨今の著名なエルフキャラは「はぐれ者」「全員特殊」だったりとエルフの社会性を描写しない作品が多い印象がある。この作品はまさに「都会エルフの清濁」を全て書き切っていると思う。作者の意向でそれを文字化してはいないが、彼らの価値観を複数繋ぎ合わせると、エルフの国に訪れたアルフとイズミへの視線の意味もヒシヒシと伝わってくるだろう。
筆者は単行本派なので、上記コミックウォーカーの最新話は確認せず、次の本が出るまでお預けにさせているが、都会エルフたちの文化と政治に、竜を基点に二人にどんな一石を投じさせるのかが楽しみである。

最後に

是非手に取って読んでみて頂きたい、私が褒めちぎった内容が嘘ではないことを証明する以外にも、良質なファンタジーを読むことで他作品を読むときの視点や思慮を増やすための架橋になる。
そしてこれら全てを「漫画で表現している」ことに対して、我々が如何に漫画というメディアが特異なのかを知る体験にもなる。
是非、手に取って読んでみて頂きたい。
最後まで読んで頂きありがとうございました。


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