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わたしを救えるのは、あなただけ

ピー、ピー、ピー。

近くの戸建ての建築現場の草むらで何かが鳴いている。
近づいてみても姿が見えない。

ピー、ピー、ピー。

鳴き声の勢いは増すばかり。
間違いなくいる。

木の下のツツジの生垣のすき間にいた。

ピーちゃん(仮称)

ヒナ鳥がいた。
元気よく口を大きく開けて鳴いている。

上の木の巣から落っこちたのだろうか。
垣根をかき分けて、目を合わせるとなんとチュンチュンと前に出てきた。

まだ飛べないらしい。
いや、けがしているようだ。
そのせいで飛べないのか、分からない。

それでもピーピー鳴いている。
木の上を見てもほかにヒナ鳥もいないし、巣もないようだ。

君はどこから来たのかい?

ついには手に乗ってきた。

手に乗って離れない。
おなかがすいているのだろうか。

事件か事故か。

このままでは野良猫にやられてしまう。

一度家に帰って、パンくずをもって再び現場へ急行する。
念のため、小さな段ボール箱をもって。

ピーちゃんを見守るわたしの家族のほかに、現場はひとり増えていた。
近所の人が見に来たのだろうか。

妻が話をしている。

「パンは食べないんです」

へぇ~、この人詳しいのかな。

「こんなことされちゃって」と見せるその人の両の手首はガーゼが巻かれていた。

え?
え?
えーー?

(あなたの鳥ですか?)

「わたしがここに放したんです」

ここは、戸建ての建築現場。

捨てたってことですか?とは聞かなかったが、
どうやら手をケガさせられたから鳥を捨てたらしい。

ケガさせられたら、捨てていいのか?

愛護動物を捨てることは犯罪だということを。

こんなにも身近に犯罪者がいるなんて、少し恐ろしくなった。

その人に聞きました、「どうしますか?」と。

「いや…はい、責任をもって飼います。」

そういって、その人はピーちゃんを自分の手に乗せて足早に去っていった。

これにて一件落着。わたしたちは、動物遺棄事件を解決した。

いや、本当に解決したのだろうか。

あの人は、一度は捨てることを決意し、実行した人だ。
それでも最後は、見殺しにできず戻ってきたようだ。

本当に責任をもって飼ってくれるのだろうか。
たしかに手は痛々しかったが、それも含めて飼い主の責任だ。
ケガには同情できなかった。

飼うと決めた瞬間、その小さないのちは、あの人に捧げられたものだ。
ピーちゃんが、この先大きくなれるかは、あの人にかかっている。

ピーちゃんお願いだ、元気でいてくれ。
そして、あの人のこころを癒してやってくれ。




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