ペンギンはクジラに進化できるのか~卵殻の構造からみるアフターマン批判~

 ちょっと奇をてらいすぎたタイトルだったかも。内容はただの素人考えの開陳ですので、構えずに読んでいただければ幸いです。

 先日上の子がYouTubeで「アフターマン」を取り上げた動画を見たらしく、えらく懐かしい架空生物の話をしてきました。「アフターマン」なら家にあるぞと、魔境と化した書庫から苦労して「アフターマン」「新恐竜」の新装版を発掘し、上の子に渡しました。

 ここで知らない方のために解説いたしますと、「アフターマン」は学者でサイエンスライターのドゥーガル・ディクソンが書いた人類滅亡から5000万年後の地球に生息する動物たちを描いた架空生物の本です。同じ著者の恐竜が絶滅せずに進化を続けた姿を描いた「新恐竜」、人類が様々な環境に適応するために異様な姿に進化した未来を描く「マンアフターマン」とセットで語られることが多いです。原書は1981年、邦訳は1982年の出版と古い本ですが、根強い人気があるのか2004年に「新恐竜」と共に新装版が出版されており、我が家にあるのはこの新装版です。Wikipediaによると2019年に児童書版も出版されているとのこと。

 アフターマンは気に入ってもらえたらしく、上の子は興味のある生物を見つけては、見て見てと見せに来るのですが、その中にヒゲクジラの生態的地位を獲得したペンギンがいました。鯨類が絶滅した世界でペンギンの一種がその地位を占めるべく、体を巨大化させ、嘴をヒゲクジラのヒゲの様なプランクトンを漉し取る器官に変化させたというのです。
 これは奇想天外な生物が数多く収められた本書の中で、特別に奇妙な生物という訳ではありません。しかしこの生物の存在は僕がかねてから考えていたアイデアに引っかかるものでした。そこで上の子相手に一席、持論をぶつことになったのです。

 現生の爬虫類のほとんど、又は全ては「鱗竜類」と「主竜形類」に分類されます。「鱗竜類」はヘビやトカゲの仲間、主竜形類にはワニや恐竜の子孫である鳥類を含む分類群です。カメはかつては早い時期に他の爬虫類と別れたと考えられていましたが、現在では主竜形類の仲間だと考えられています。これは後述する卵殻の構造から、僕も妥当だと考えています。

 ここから先は私論であり、その様な論文や記事を読んだという訳ではないので、ご注意下さい。
 高校の生物の教科書では、爬虫類は両生類と違い分厚い殻を持ち、水場から離れたところで孵化することができると書かれています。少なくとも僕の時代はそうでした。しかしこれは全ての爬虫類の卵が、見慣れた鶏卵のような硬い殻を持っているという誤解を招く表現だと思います。実際にはヘビやトカゲの卵はゴムボールのような柔らかい殻に包まれていて、鶏卵とはだいぶイメージが違うらしいのです。らしいというのは、僕が実物に触れたことがないからです。我が家ではリクガメを飼っているのですが、我が家でも産卵したことはないので、カメの卵も触れたことはありません。
 本で読んだ知識で論を進めていくのですが、鶏卵のような炭酸カルシウムの結晶でできた殻はどうやら主竜形類の特徴のようで、鱗竜類や他の絶滅した爬虫類、まとめて主竜形類以外の爬虫類とここでは言いますが、それらは柔らかい殻の卵を産むし、絶滅種も柔らかい卵を産んでいたと考えられます。

 さてクビナガ竜、魚竜、モササウルス類などの中生代の海の爬虫類は卵胎生だったことが、化石で確かめられています。卵を産むのではなく、胎内で孵化した幼体を産むのは、海中での生活への適応として妥当だと思われます。
 しかしながらウミガメは中生代白亜紀に登場し、現代までの長い期間生存しながら卵胎生に移行せず、とても地上に向いているとは言えない体を引きずって地上に上がり砂浜に産卵します。子亀も孵化して海に戻るまで大変なリスクがあるのはよく知られているところでしょう。

 数年前、クビナガリュウが卵胎生であったという研究が発表され、これでクビナガリュウ、モササウルス、魚竜のいずれもが卵胎生であったことがわかったとする記事を読んだとき、僕が疑問に感じたのは、それならば何故、ウミガメは卵胎生にならなかったのだろうかということでした。
 あれこれと考えた末、今では炭酸カルシウムの卵殻を一度獲得すると、それが卵胎生に移行するのに高い障壁となるのではないかと考えています。
 確か金子隆一氏の「哺乳類型爬虫類」ではなかったかと思うのですが、初期の爬虫類では卵生、卵胎生、胎生という発生の仕方は、意外とフレキシブルに変化していたのではないかいう推測が述べられていたと記憶しています。乾燥と衝撃に対して一定の強度を持つ炭酸カルシウムの硬い殻は、大型の鳥類や恐竜などのように卵を大型化することすら可能にした一方で、そのような柔軟な卵胎生への移行を決定的に阻む要因にもなったのではないかと考えるわけです。
 強調しておきますが、論文や科学解説記事で読んだわけではなく、あくまで僕の思い付きです。

 ここでアフターマンに戻ります。この本では先に書いたとおり、クジラ類の絶滅で空いた生態的地位にペンギンが進出しています。プランクトン食の巨大生物と化したペンギンは当然、産卵のために地上に上がることはできません。本文にはさらりと卵胎生に変化したことが書いてあります。
 しかしながら今まで述べてきた理由で、僕はこの記述に疑問符をつけるのです。世界的ベストセラーに唾を吐く行為かもしれませんが、個人的には鳥類が卵胎生に移行することはないと考えています。
 どちらかと言えばエンターテインメントよりの思考実験ともいうべき本書に、このようなことを述べるのは単に興を削ぐだけかもしれません。ですが書かれている内容をもとに、ああでもないこうでもないと、色々考えを巡らせるのも一つの楽しみ方ではないかと考える次第です。

 気の毒なのは、こんな話をまくしたてられた上の子なのですが、それでもうんうんと興味深そうに聞いてくれた上の子と、ここまで読んでいただいた方には、心より感謝いたします。


 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
 本業のサイトもご覧いただければ幸いです。


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