アパレルD2C大混戦の時代の勝者は!?事業者目線で未来予測 | D2Cスタートアップの教科書
※「D2Cスタートアップの教科書の目次」に一連の記事をまとめています
前回の記事では、D2Cの事例を立ち上げる前に知っておくべき「3つの壁」についてまとめました。
いよいよ「D2C事業の立ち上げ方」というパートの入るつもりだったのですが、BASEの上場もあり、来年かなり盛り上がりそうな「アパレルD2C」の勝手な未来予想したいと思います。
アパレルD2Cにおいて「勝者」とはなにか
そもそもD2Cブランドは、上場や売却などのイグジットをねらう起業家も立ち上げるが、それ以上に「自分の好きなことをやりたい」という理由で立ち上げる人が多い。
またアパレル業界は超分散市場なので、ブランドがいくつあってもすべて共存するはず。
そのためアパレルD2Cは勝ち負けがつくものではなく、みんな勝つかみんな負けるか。
もっと言えば、皆それぞれ自分が楽しくやる道に進むから、全員勝ちになるはず、という考えもあると思います。
ただこの記事ではあえて、
「イグジットできる」≒「上場できる」ブランド
を勝者と定義して、
どんなアパレルD2Cが上場できそうかを勝手に考えてみます。
ちなみに上場企業の中でもっとも売上が低かったアパレル事業は、JASDAQ上場の新都ホールディングス株式会社で2019年度で15億でした。(前年度は5億で上場廃止になりかけてた)
ということで、年商15億を満たせば「勝者」であると定義してみます。
アパレルD2Cを整理する
昨今はD2Cブームですので各カテゴリのD2Cブランドが続々と立ち上がっていますが、アパレルD2Cが一番多い印象です。
Baseのショップ事例をみる限り、「ファッション」「インテリア」「フード」「コスメ」「エンタメ・ホビー」…という順で並んでいますし、有価証券報告書にも「…中でもアパレル商品を販売するショップに数多くご利用いただいております…」と記載があるので、アパレルD2Cは実際に割合として特に多いのでしょう。
アパレルD2Cが増える理由は、「ターゲットが広い」「SNSとの相性がいい」「分散市場で新規参入しやすい」「製造が比較的単純」などの理由があるかと思いますが、ここでは深掘りしません。
個別のブランドは多すぎて見切れないので、独自で定義した3つのカテゴリに分けて解像度を少し高めてみます。
■カテゴリ1 ユーザープールのマネタイズブランド
すでに別の理由で集まったユーザー群をマネタイズ先として立ち上がったブランド。(もちろん大っぴらに言わないけど)
細分化すると「タレントのサイドビジネス」と「メディアの収益化」の2種類に分けられそうです。
タレントのサイドビジネス
「タレント」という求心力に集まった熱量の高いファンを、マネタイズする手段として立ち上がるアパレル事業です。
いわゆるTVタレントに限らず、ミュージシャンのオフィシャルTシャツや、アイドルグッズとしてのアパレルも、「タレント」を起点としているのでこのカテゴリに入ります。
アパレルは「こんな自分になりたい・ありたい」という自己実現・表現で買われるはずなので、自身に"憧れているファン"が多ければ多いほど、このパターンは成功しやすい。
例えば「女性の好感度が高い女性タレント」とか「ファンと距離感が近いタレント」は成功確度が高い。
近年ではTikTokからテレビまでタレントの絶対数が爆発的に増えているので、ファン数を増やしていくという活動は非常に難しいはず。
となるとスケールするには「既存のファンのLTVを高める」路線に進むので、結果的にSKUの数が増えがちで利益率も下がります。
年間12億まで達するには、一般的な被服への出費は一人当たり年間12万円ほどらしいので、年間4万円(3割程度)を出してくれるユーザーが4万人ほど必要。
(エゲージメントの差が大きいとは言え)インスタのフォロワー数で言えば凡そ400万人(佐々木希くらい)くらいは欲しいので、この時点でかなりハードルが高い。
そして何と言っても、アパレルブランド単体を成長させるつもりが本人にないので(あくまでサイドビジネス)、ある程度稼いだら自然に縮小させて消えていくはずです。
上場もできないし売却もする意味がないので、D2Cブランドの勝者にはならないでしょう。
メディアのマネタイズ
特定のタレントを立てるわけではなく、自社の持つ「コンテンツ」で集めたユーザーに対し、広告や手数料に変わる新しいマネタイズ手段として立ち上げるパターンです。
インスタのアパレル系アカウントが自社ブランドの製品を売り始める純粋メディアのパターンと、ZOZOやAmazonのPBの様にECから発生するパターンがありそう。
コンテンツに惹かれて集まったユーザーがメディアそのものに対して"憧れ"や"愛着"を持つことはないので、コンテンツの中の1つとしかみられず、自社商品を大量に売るのは難しいと思われます。
SKUを大量に用意することになるかと思いますが、SKUが増えると製造・運用がめちゃくちゃ大変なので、商品単体ではスケールできないと思います。
また広告主との競合化も著しいので、既存のメディア事業にも悪影響を及ぼす気がします。
純粋メディアの場合は製造リソースを持っている企業に売却した方が良さそうですし、ECの場合はGMVを伸ばす方向にリソースを割いた方が懸命な気がします。
この手の業界はアパレルD2Cのプラットフォーマーとして成長すると思いますが、アパレルD2Cそのものとしての勝者にはならなさそうです。
■カテゴリ2 特化型ブランド
アパレル全般を扱うのではなく、何かしらの軸に沿って提供するSKUを絞ったタイプのブランドです。
前述のカテゴリ1よりブランド感が強い。
こちらはさらに「種類を絞ったブランド」「ユーザー層を絞ったブランド」の2種類に細分化できそうです。
種類を絞ったブランド
アパレルD2Cの多くがここに分類されると思いますが、「帽子だけ」「パンツだけ」「スーツだけ」という様に商材を絞ってしまうブランドです。
このタイプのブランドの一番のメリットは商品の企画と製造のコストを削減できるので、運用負荷がめちゃくちゃ下がることでしょう。
一つのカテゴリに注力できるため品質改善をすすめ安く、共通する部品が多ければ、それだけ仕入れ金額も安くなります。
しかし、一部のマニアをのぞいて一種類に年間何万円も使うユーザーは少ないので、LTVが上がらないのが厳しい。
LTVをあげるためには、
・高級ブランドになる
・コレクター化する
・競合の少ない商材を選ぶ
といった方法があるかと思います。
競合ブランドが少ない商材(Tシャツとかズボンなどの定番ではないカテゴリ)に、「なぜ高いのか?」を添えた高級ブランドを作り、需要を拡大させて品薄にしてコレクターを作り出せば勝者になれるかも。
そんなジャンルはほとんどなさそうなので、ファッション好きがゆったり楽しくやるブランドになるのではと思います。
ユーザー層を絞ったブランド
アパレルブランドのほとんどが「メンズ」「レディース」「10代向け」などとターゲットを絞っていますが、新しい切り口でユーザー層を絞るブランドもある様です。
身長の低い女性向けのブランドや、体の大きな女性特化のブランドなどあるようですが、ユーザー属性が一定で訴求がしやすくLTVが高くなる一方で、そもそも顧客層が少ないという問題があります。
12億まで伸ばすには、例えば100万人いるクラスタの10%が年間12000円使ってくれれば到達すると考えると意外と行けそうだが、ユーザー数を絞りすぎると成長性も無くなるため一長一短。
人口が減っている中でも今後増えるだろうクラスタ(高齢者とか、働く女性とか、育児パパとか、フリーランサーとか?)に絞ったアパレルブランドなら行けるかもしれません。
■カテゴリ3 機能性ブランド
上記の2つのカテゴリは、「おしゃれ」という価値を提供するアパレルブランドでしたが、このカテゴリに属するのはおしゃれ以外の特別な「機能」を提供するブランドです。
例えば、「めちゃくちゃあったかい服」とか「風通しのよい服」とか、めちゃくちゃ丈夫とか、そんなイメージです。
「背負いやすい鞄」を作っているブランドはありますが、種類まで絞ってしまうと市場が一気に縮小するので、できればアパレル全般に適用できるような「寒くない」「暑くない」などの機能を軸に据えたい。
さらに「丈夫壊れない」の様に、時間が経たないとわからない機能より、一回使っただけでわかる機能の方が理想的。
ユーザーが服を選ぶ上で感覚的ではない論理をもち出せるのはマーケティング観点でめちゃくちゃ強い。
汎用的な機能であればあるほど、ユーザー層は広く、LTVも高くなるので、イグジットまで達する可能性は非常に高い。
ただし「機能」を果たす素材やパターンなどの研究開発という大きな課題があるが…
「勝者」になれるアパレルD2Cとは
アパレルD2Cブランドのイグジットの可能性を検討してみましたが、なかなか大変なジャンルでした…
立ち上げやすい半面で、一定以上の規模まで成長するのは難しい。
汎用的な機能を軸に据えた「機能性アパレルブランド」が、
素材系の研究をしている学生なり化学系メーカー出身者などから出てきて急成長する、
に一票投票したいと思います。(何の?)
次回は「青汁王子から学ぶD2Cの勝ち方」というタイトルで、いわゆる通販事業の成功・失敗事例からD2C事業に適用できるポイントを考えてみます。