見出し画像

1.3 D2C事業を始めて分かった3つの壁 | D2Cスタートアップの教科書

※「D2Cスタートアップの教科書の目次」に一連の記事をまとめています

前回の記事では、D2Cの事例を、物を作って売るビジネスのフローのどこをハックしたか?という切り口でいくつか紹介しました。

この記事では、D2Cというビジネスを今(2019年前後)、日本でスタートアップ企業として展開する難しさについてまとめます。

D2C事業は立ち上がりやすい

スタートアップ界隈では数年前からD2C事業というのが注目されつつあります。

少しまで、
スタートアップとして企業する=インターネット系のサービスを作る
が方程式だったと思うのですが、起業家観点ではD2C事業もスタートアップの選択肢に入ってきたと思います。

企業してゼロイチを作るという立場からすると、インターネット系サービスとD2Cの一番の違いは、

立ち上がりの良さ

だと思います。

日本のAppStoreで月数千本程度新規リリースがあるようなので、Web系のサービスの含めると月1万くらいは新規のサービスが立ち上がっていると思います。

しかし多くのインターネット系サービスは半年たっても10,000円も売り上がる事なく消えていきます。

一方D2Cは初日で10,000円は余裕です。
だいたい初月から50~100万くらい売れます。
インターネット系だとちゃんとしたサービスでも100万行くまで半年~1年がザラなので、圧倒的に立ち上がりが良いです。

そもそも原価がかかるものなので、「有料でしかるべき」という消費者感覚があり、お金がガンガン動きます。

なので自分も含め、何年間もインターネットで苦しんでいた人間にとっては、めちゃくちゃ気持ち良い事業です。


がそんな気持ちは最初だけ。

ある程度やってみていくつかの壁が見えてきました。

画像1

D2C事業に立ちはだかる3つの壁

初月から売上が立ち、有料課金ユーザーがついてくるD2Cは、ゼロイチで苦しむ起業家の「銀の弾丸」かと思いきや、実はその先に大きな壁が3つ立ちはだかっていました。

今からD2C事業を始めたいという方も多いと思うので、先に知っておいた方が良いかと思います。

第1の壁 メンバー集めの壁

D2C事業は「リリース」直後まで、めちゃくちゃ楽しい事業です。

自分でコンセプトを作ったものがリアルな形で手元に届きます。
リリーすると初月から売上が経ち、SNSには喜びの声が多数。

光明!成功の兆し!

となりますが、次月からの圧倒的業務量によりめちゃくちゃ苦しみます。

アプリであればユーザーの不満は「アンインストール」やせいぜいTwitterに書き込まれる程度ですが、有料で商品を売っているからこそ、不満は全て「問い合わせ」で帰ってきます。

物流や製造の管理も、やってみると大変。

運用コストが予想以上に大きい事に気づくのです。


1か月程度してリリース後の追い風が止むと、「新規獲得」のタスクも降ってきます。


そして新規獲得すればするほど運用コストも膨らみます。


すぐに業務量の爆発するため、メンバー集めは急務となります。


しかしD2Cは一括りにされる一方で、売り方・業種・商品はさまざまです。

仕事内容も、プロダクトデザイン・通販のマーケティングからサプライチェーンの管理・サポート体制の立ち上げなどなど、転職市場にほとんど出回らないスキルセットです。

そのため経験者採用は不可能。

となると、
誰もやったことないことをやって結果を出せるオールラウンダー
という、難易度の高いメンバーを採用する必要があります。

画像2

第2の壁 資金調達の壁

メンバーが集まりなんとか落ち着けそう。
売上も数百万に達し、グロースしたい。

となってきたリリース数ヶ月後にぶち当たるのは、資金調達の壁です。


リリース直後に群がってくる銀行系のデットファイナンスは、数百万規模の売上がたった数ヶ月後くらいではアクセルを踏ませてくれません。

一度借りると2年分くらいの業績が必要なので数ヶ月くらいでアクセルは踏めないような仕組みになっています。


じゃあエクイティはいけるかというと、これもまた難しい。

D2Cは売上がたちユーザーがすぐつくため、否が応でも数字が見えてしまいます。
また在庫以上に売上が立たないという制約により、Jカーブを描きにくい。
急速な成長を描けないということは、期待値による株価上昇が見込めない。

というロジックがあるため、肌感覚だとVC・エンジェル投資家の2分の1が「D2C反対派」、4分の1が「D2C懐疑派」です。


この頃には売り上げは1000万くらい立っているので、残キャッシュに近い金額が毎月出入りし、ちょっとでも入金サイクルがずれれば破綻するという恐怖の谷に陥るのです。

画像3

第3の壁 スケールの壁

上記の資金調達の壁でもふれましたが、「急速な成長を見込めない」というのは投資家側のロジックなだけでなく、起業家サイドでもぶち当たる壁です。

初期から一定のニーズを取り事業を回し始めるには、既存の商品だけでは不十分なニッチなユーザー層に対して尖った商品を作る必要があります。
etc) コンプレックス系・パーソナライズ・チャネルを絞る

尖った商品を作ってユーザと距離感近く成長すると、少ない資金でもスピード感をもって成長できますが、ニッチと呼ばれるだけあって、年商数億~十数億くらいを超えられません。

じゃあどうするかというと、

1. 複数商品・ブランドを立ち上げる
2. 尖りを捨ててマスに寄せる
3. 成長を諦める

の3通りしか道はありません。

1.は等倍にしかスケールしないし、3.は楽しいけどスタートアップしたい人にとっては辛い。

2.で上手くいくのが理想だけど、成功事例はまだありません。
(挑戦している事例もほとんどなさそうですが…)

画像4

D2C事業を立ち上げる前に覚悟すべきこと

やってみて初めてわかる壁が見えてきたので、これからD2C事業をやろうとしている人向けに、D2C事業に必要な2つの「覚悟」をまとめておきます。

◼️スケールを諦める

上記の通り、D2Cを立ち上げるということは、ニッチなプロダクトを作ることと同義なので、基本的にスケールしません。

ちゃんと伸びて年間10億円くらいまでなので、上場やイグジットは難しい。

1発ぶちあげたい!お金を稼ぎたい!ではなく、その事業と心中する覚悟で始めたほうが幸せだと思います。

◼️長期戦

広告費を初期から確保できるお金持ち以外であれば、会社のキャッシュが増えるまでは必ず一定以上の時間がかかります。

インターネット系のビジネスとは異なり、1発ぶち当たって急成長!みたいなことはおきません。

という意味で繰り返しますが、1発ぶちあげたい!お金を稼ぎたい!ではなく、その事業と心中する覚悟で始めたほうが幸せだと思います。

画像5

D2C事業で短期イグジットするには?

D2Cはイグジット前に停滞するので、長~く続けましょう。

と書きましたが、起業家としては「短期間(3年~5年くらい)で一気に成長してイグジット」みたいな夢を描けた方がワクワクするので、D2C事業で短期イグジットする方法を考えてみました。

でかいマーケットで勝負する

D2Cブランドを立ち上げて最速で成長していても、数年後達する領域はおそらく既存のトップシェアが持つ売上の多くて5%~10%程度かと。

新規で立ち上げられるブランドなんて3~5年だと1~2つくらいだし、国外までは手を出せない。

時価総額100億超で上場するには、PER15倍を見込んで営利10億弱、物販はよくて営利率20%程度なので売上にして50億程度。

となるとトップシェアの国内売上が500億以上の市場で攻めるべきでしょう。

アーリーマジョリティを対象にする

D2Cは「こだわりの強い人」「特定のコンプレックスがある人」に向きやすいですが、おそらくこれはマーケットが小さくてイグジットできない。

数年で売上50億まで達する商材を狙うなら、マイノリティーではなくマジョリティーに向けるべきかと。

そして小規模のブランドから大きく"成長"すると考えれば、カテゴリのアーリーマジョリティに刺さるというのがポイントだとおもいます。
「最新技術」とか「パーソナライズ」とかよりも、「めっちゃ安い」とか「めっちゃ簡単」「めっちゃ良い」とかが重要だとおもいます。

これは顧客とのコミュニケーションの話でもあるので、もしかしたらマーケティング次第かもしれませんが。


でも、トップシェアが500億以上の市場でアーリマジョリティに刺さるって、ありそうでなさそうですね。


以上です。

次回は「D2Cと通販って何がちがうの?」という記事を書きます。

D2CやWebマーケティングに関する談義をしたい方、是非ご連絡ください!D2C一緒に頑張りましょう!