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--SS|Doppelgänger

「ただいまー」

 夫が帰ってきた。
 時計を見ればまだ午後6時。最近は帰りが早いので、一緒に夕食を食べる日が増えた。
「何食べたい?」
「何でもいいよ」
 そんな掛け合いは日常茶飯事。夫が「何でもいい」という時は、本当に何でもいい時だから、昨日の残りものを出しても満足気。
 ご飯をよそって、カレーを盛り付けて、食卓に並べた、そのとき。

「ただいまー」

 夫が帰ってきた、再び。心臓が止まりそうになった。私の視界では、二人の夫が顔を見合わせている。驚きと恐怖を隠せない表情で。
 頭に浮かんだ嫌な予感は気づいた時には口からこぼれていた。
「ドッペルゲンガー…。」
その言葉を聞いた二人は、目を丸くして私を見る。
「つまり、どっちかが偽物って事か……。」
奇妙にも、そう言った二人の声は重なった。
 額に冷や汗が滲む。警察に連絡しても、まともに取り合ってくれるはずもない。かと言って探偵を呼ぶわけにもいかない。もうどうしようもない。
「ねえ…。」
きっと声は震えているけれど、そんなことは気にならなかった。
「どっちが本物か確かめないと…。」
 そう言いつつ、私には全く見当がつかない。顔も、声も、おぼつかない表情も、手を顎に添える仕草も全部が一緒だった。
 もうどうしたらいいんだろう。2人の夫は黙りこくってお互いを凝視している。優しい夫が人を疑っているのを見ていると、何だか悲しくて、怖くて、涙が出てきた。そのとき。

「ただいまー」

 ドアが開き、一人の女が入ってくる。
 ああ、本物が帰ってきちゃった。

fin.

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